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2017年7月25日

イガラシ文章 (25歳)

変わってゆくこと、変わらないこと

アルバム『グアナコの足』に想う「GOOD ON THE REELがそこにいてくれるということ」

昨年の夏に発売された、GOOD ON THE REEL初のシングル、『雨天決行』。
そのMVを初めて見た時、私は「彼らは変わった」と思った。

いつになく弾けたドラムのビートに、底無しに明るい歌詞。
そして何より、メンバーの表情がよく見えるMVの映像。
心の底から楽しそうに、まるで無邪気な子供のような顔で演奏する五人を見ていた私の中に芽生えた小さな気付きは、『グアナコの足』で確信に変わった。

グアナコの足。

聞いた事もなかったこの言葉の意味は、砂漠に咲く花の呼び名らしい。
世界一乾燥した砂漠「アタカマ砂漠」に、一定の条件を満たした時にだけ現れる赤い花の群生。リードトラックとして以前からライブで披露されていた『砂漠』にリンクしたものだという事はすぐわかったが、再生ボタンを押した瞬間から、そんな幻想的なイメージを裏切らない世界が目の前に広がった。

ピアノの儚げな音に引き出されるように続くバンドサウンド。砂を打つ僅かな雨や、広大な砂漠を荒々しく吹き抜ける風の映像が脳裏に浮かぶ。
「どんなに長い道程も 振り返ればほんの数秒 どうやら随分来てしまった 相変わらず喉が渇く」と歌う千野隆尋の歌声は普段よりも少しトーンが低く、ブルースのような印象だ。
しかし、サビへ進んでいくに連れてどんどん増してゆく疾走感がとにかく圧倒的だ。

一曲目に収録された『砂漠』に限らず、跳ねるようなドラムのビート感のお陰かどの曲も疾走感や躍動感が物凄く強いように感じた。それどころか、今まで以上にダイナミックなコーラスは千野の歌声をより華やかに際立たせているし、音色が曲によって大きく変わるリードギターや縦横無尽に蠢くリズムギターは歌を立たせつつも歌に負けない存在感を放っている。ベースなんかは一緒に歌っているかのようにメロディアスだし、聴いていてとにかく楽しい。
「歌を聴かせる」事を大前提として曲を作り、ライブでもいわゆる観客を「煽る」ような事はあまりしない彼らにとっては、「楽しい」「踊れる」と思わせるようなものが多いこのアルバムの曲達は、なかなか挑戦的なものだったんじゃないだろうか。
だけど、だからと言って肩に力が入っているような印象も見られない。寧ろ今までのどんな曲よりも自由で、本人達が誰よりも楽しんで曲を作り、演奏し、歌っている事が伝わってくるのだ。

また、千野の歌詞の作風の広がりにも驚いた。
一曲を除いた全ての楽曲をギターの伊丸岡亮太が手がけているのだが、未だかつてない程にアグレッシブな彼の音につられるように、今まで使われなかったような言葉が自然と千野の中から引き出されたような印象を受ける。
砂漠をゆく孤独な旅人、もう思い出になってしまった恋を満開の桜に重ねる男、報われないだけの恋をなかなか忘れられないか弱い女――――曲調が変わると千野の描く物語の主人公も全く別の人物へと変わり、千野自身も全く別の人物を演じるように歌声を変幻自在に変えてゆく。作風の幅が広がると共に、千野の歌の表現力も一緒に進化していっているようだ。

特に、彼の最大の武器である美しいヴィブラートを封印し、抜けるようなロングトーンと地声の優しさを活かした『冬の羊』は、シューゲイズしたサウンドも相まって圧巻だ。
ギターの岡崎広平と歌詞を合作した『灯火』ではいつになく視覚的で戯画的な世界観がいきいきと描かれていて、サビでは目の前に満天の星空が何処までも広がってゆくようなダイナミックさを感じる程だった。
 

今までのグッドは、千野隆尋の描く絵画や物語、時には誰に言うともなく綴られる独り言を読んだり眺めたりしているような印象が強かった。高い演奏力を持つメンバーによって作られる楽曲達はもともとギターロックからバラードまで幅広い作風で、アルバムごとに全く違った顔を見せてくれる彼らに私はわくわくしていたが、正直何処か内省的なイメージが強いのは否めなかった。
内省的でセンチメンタル。そこがグッドが私達の悲しみややるせなさに寄り添ってくれる最大の理由ではあったが、どうにも「暗いバンド」というようなイメージが先行してしまうこともあったようで、そこがちょっぴり悔しかったりもした。
切ないだけじゃない、悲しいだけじゃない。彼らのメッセージや音に、心の底から背中を押された事だって何度もあったのに。

でも、今の彼らはまるで閉じ切った扉を開いたように明るい。
千野の圧倒的な歌唱力に注目されがちな彼らだが、それを底上げするメンバーの存在感も更に増していっている。
長い前髪に目元を覆われ、ミステリアスな印象だった千野も、ライブでよく見せてくれるキラキラと輝くような笑顔をMVでも私達に見せてくれるようになった。

人間が数人集まってやっていく以上バンドは変わってゆくもので、長い道程を歩いていればいる程、変わってゆくのが当たり前だ。メジャーデビューを経て、大きな舞台でその姿を見る機会も増え、グッドも過渡期を迎えているのかもしれない。
これはどんなバンドにもありうる事だが、変わってゆく過程の中で、彼らの音楽を聴かなくなってしまう人も増えるかもしれない。
「メジャーデビューして変わった」「前の方が良かった」なんて言う言葉は、ロックバンドが好きな人なら誰もが耳にした事があるだろう。
正直、私自身にもそういう経験はある。昔ずっと好きだったバンドでも、最近は新譜情報すら知らない、なんて事も無いと言ったら嘘になる。

だけど、「あの頃の方が良かった」なんて言ったって、心を強く掴まれていればいるほど、今の曲を聴いたって「カッコイイ」と思えるはずだ。

グッドが好きな人は、特にそうなんじゃないかと思う。

だって、彼らはどんなに作風が広がり、変わっていってもその根底は一切変わっていないから。
彼らは歌を通して、「生」を肯定し続けている。私達が送る何気ない毎日も、大切な生命の営みだと歌い続けているのだ。
 

「無数の窓に 灯りがともっていく
そこにいたんだね 生きていたんだね」
(『小さな部屋』)

ただの景色でしかない窓の灯にだってひとつひとつの生命の営みがあり、チカチカする街灯に照らされながら帰る情けない帰り道だって、彼らの手にかかれば優しいおとぎ話に変身する。
彼らがずっと描いてきた様々な人達の生命の物語を、このアルバムではより普遍的かつドラマチックに描けるようになっているのは、千野の心根の深い部分が変わっていないからでもあるんじゃないだろうか。
 

GOOD ON THE REELは、去ってゆく人を無理に追いかけたりはしないだろう。
時代に迎合するわけでもなく、メジャーデビューしたからといって肩肘を張るわけでもない。彼らにとっては小さなライブハウスも、野音の大舞台も、全て一緒なのだ。全てが、私達リスナーという「生命」と向き合うための大切な場所なんだろう。
彼らは、たったひとつの真心を日々アップデートし続けているだけなのかもしれない。まるで花を育てるように、大切に大切に音楽と向き合っているのだ。
花は、たとえ同じ種類でも環境の条件によって咲き方が大きく変わってくる。それこそ、花なんか咲かなさそうな砂漠にだって咲くこともあるのだ。彼らはそれを信じて、今までずっと音楽という花を育てているのかもしれない。

「彼らにはなれなかった 僕らだけの世界で
独りではなれなかった 僕らだけの未来へ
いつかはそうこの花が 一面を赤く染めた
地図のない砂漠で」
(『砂漠』)

千野は、この歌詞で今までにない程力強い決意を歌っている。
自分達が今まで歩んだ道程で見つけた全ての美しいものや楽しいこと、そして悲しいこと。全てが肥料となり、いつかは一面の砂漠を染める程の花を咲かせると信じ、全てを背負って二本の足で歩き続けるための決意だ。彼らはどんなに変わっても、GOOD ON THE REELのままで、全てを背負って歩いてゆく。

広い砂漠のような人生を、グッドはいつだって私達と一緒に歩んでくれる。
もしも、今彼らに心がついていけなくなったとしても、このCDを再生機に入れればいつだってあの優しい音がそっと包み込んでくれる。目を閉じればまぶたの裏の暗闇に、軽やかに舞い歌う千野の姿が見える。

考えたくはないけれど、この先私も、もしかしたら彼らから心が離れてしまう事があるかもしれない。

でも少なくとも今は、これからも続いてゆくであろう彼らの長い旅について行きたいと思う。もっともっと新しくなった音を、もっともっと力強くなった歌声を、もっと聴かせてくれる日を楽しみに、何気ない毎日を大切に生きてゆこうと思う。

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