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陽はまだ沈んでいない ロックは熱い 音楽はこれからだ

ニルス・ロフグレンの素晴らしい歌と転がるピアノとギターと

ニルス・ロフグレン(NILS LOFGREN)は1960年代から現在2020年までも、まだしっかりと活動している歌手でありギタリストだ。去年2019年には、「BLUE WITH LOU」というアルバムを発表した。
タイトルにある”LOU”は、ルー・リードの事だ。

ニルス・ロフグレンは以前(2008年)に「THE LONER NILS SINGS NIEL」というアルバムを作っているが、それはニール・ヤングの曲を全曲で取り上げた作品だった。1970年代ニール・ヤングとも活動していたニルス・ロフグレンが、かの曲をカバーするのはよく分かる。
「BLUE WITH LOU」はルー・リード、何故にと思えば、LOU REED「THE BELLS」1979年のアルバムでは、どうしてかニルス・ロフグレンがルー・リードと曲を共作しているという事だ。

僕は今のところ、それらを聴いていないので、音楽の内容については何も知らない。

あるアーティストなり音楽家なりのそのひとりについて紹介したり、論じたりする場合、普通は全作品を知った上で書かなくてはならないのかと思うが、僕は誰か特定の人のファンでもなく、たとえ好きな人でも全活動を把握しているという事は全然ないので、こういう文を書くには向いていないのだと思う。

それでも書きたい事がある。
素晴らしい音楽は、実はほんの少しの中から始まってゆく。自分は始まりをここに記す。希望はこの先にある、と思うなら、まだまだ聴くべき、探求すべき音楽は多い。
 

僕はニルス・ロフグレンの1975年の曲、
“The Sun Hasn’t Set On This Boy Yet”という歌が大好きだ。この曲を何度聴いたか、しつこいくらいに繰り返したものだ。それでも何回聴いても飽きなかった。
ニルス・ロフグレンがそのタイトルと同じ歌詞
“the sun hasn’t set on this boy yet”の箇所を歌えば、今でも涙が出る。
曲想はシンプルだが、その声も歌も、ものすごい歌唱力というわけではないのに、優しすぎるほどに胸のなかに入ってくる。どうか終わらないでほしいと願う、そんな歌がみんなにもあると思う。

ニルス・ロフグレンはギタリストとして知られているけれども、ピアノ弾きの腕も確かだと思う。歌に添ったピアノが転がれば、そこにある感情に合わせてうれしくなる。
この人は”ロックンロール”が何か分かっているひとだ。そしてその”ロックンロール”が今や単なるダンス音楽でもないという時代の、ロマンティックな感情を良く知りうる。美しい時代への憧憬がある。
 

僕は最初、ニルス・ロフグレンという名前を聞いた事もない時に、「BACK IT UP !! NILS LOFGREN LIVE…AN AUTHORIZED BOOTLEG」というアルバムを手にした。
僕はいろんな音楽に興味があって、昔の音楽の再発CDをとにかく探しては買ってみたりしていた。知らない音楽でも聴いてみれば良いということもある。

いまそのCDを見ると、CD化発売されたのは2007年だったらしい。オリジナルはニルス・ロフグレン1975年のライブアルバムだ。ブートレグという名のようにこれはその当時、正規に発売されていなかったようだが、本当にブートレグという訳じゃなく、非売品だが本人が録音を了承した上でのパフォーマンスのようだ。ラジオ局で放送用に使われるプロモーションレコードとして作られている。レコードその物はあるが、販売目的でプレスされていないため今や手に入れるの難しいだろうか。
そういうアルバムが時々CD化されていれば手軽に聴けるのは有り難いと思う。

アルバムのなかで気になったのは”Keith Don’t Go (Ode To The Glimmer Twins)”というタイトルだった。”Glimmer Twins”とは、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーとキース・リチャーズの二人のコンビ名みたいなものだというのは知っていたから、タイトルの”Keith”はその通りキースの事だと思った。

このライブアルバムの良いところは弾きまくるニルス・ロフグレンのギターと熱いロックサウンドだと感じていた。その時は、ひと通り流して聴いて、そんなに何回も聴いていなかったのかもしれない。
気になるのは、ライブにアル・クーパーがゲストで参加してエレクトリックピアノを弾いている事だが、その存在感はライブの勢いでよく分かりにくい。聴き込みが足りないのだろうが、いま改めて耳をすませば、所々でアル・クーパーの演奏が聞こえるのが分かる。
 

初めに聴いたときからしばらくニルス・ロフグレンを忘れて、ある日タワーレコードでCDを探し歩いていると、また思い出したようにニルス・ロフグレンのアルバムを見つけた。それは「NILS LOFGREN」1975年のアルバムだった。
CDジャケットの裏側に記される曲を見てゆくと、あのライブアルバムのたぶんおんなじ曲が入っているんだろうと分かった。ここには”Keith Don’t Go”があった。

まずそのアルバムで気に入ったのは見た目から、そこに写るニルス・ロフグレンの姿だ。カラフルな絵の前に立つ彼は、右手を後ろ手にすこし着いて、左手でボトルを口に持っていって酒でも飲んでるのか、右目はウインク、ロックスターらしく洒落た服を着ていて、ポーズとしては格好いい。

そして何より、自分には、このアルバムにおけるバンドメンバーのなかに、ドラム奏者エインズレー・ダンバー(AYNSLEY DUNBAR)の名前が記されている事が大いに惹かれるところだった。

僕は高校3年の時に好きで聴いていたジョン・メイオール&ザ・ブルース・ブレイカーズの1967年作「A HARD ROAD」で演奏するエインズレー・ダンバーがずっと気になっていた。
エインズレー・ダンバーの何が好きなのかはよく分かっていなかったけれども、ブルース・ブレイカーズの彼はジャズっぽい演奏をするという印象だった。そこでギターを弾いているピーター・グリーンを知って、その後のピーター・グリーンズ・フリートウッド・マックを聴けば、あの「A HARD ROAD」のドラムが如何にブルースを雰囲気よく演奏しロンドンのブルースらしく格好いいのか今はよく分かる。フリートウッド・マックよりもブルース・ブレイカーズが好きというのは自分の高校3年の記憶だが、とりあえずその後もエインズレー・ダンバーの名前は忘れなかった。

それとは別にもう一度エインズレー・ダンバーに出逢ったのは何時だったのか。数年経っていろんな音楽に出逢ったなかで聴いたフランク・ザッパの1972年作「WAKA / JAWAKA」とマザーズ・オブ・インヴェンションの「THE GRAND WAZOO」の全編でドラムを叩いたのがそのエインズレー・ダンバーだと知る。特に「WAKA / JAWAKA」に於けるリズム感覚は絶品だと思う。僕はエインズレー・ダンバーに改めて感銘を受けた。
 

僕はドラム奏者が好きだ。バンドのなかで一番気になるのはビートとリズムである。どの類の音楽でもそれがいつも大切だ。

それで自分は「NILS LOFGREN」に参加するエインズレー・ダンバーにすごく期待して聴いたが、印象は激し過ぎないロック、とても良い、佳曲揃いのアルバムという感じだったかもしれない。僕はニルス・ロフグレンの歌い方が気に入った。巧くはないが、感情的には旨い。ロックバンドに併せるには甘口の声質だが類を見ない上質なるものだ。ロックバンドで甘い声を思い浮かべれば、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアかもしれないと思う。
 

僕はロックを期待したけれども、思わぬ発見、一番お気に入りの曲が、先程書いた”The Sun Hasn’t Set On This Boy Yet”というわけだ。
繰り返し繰り返し聴いて、最初に聴いたあのライブアルバムを思い出して、また聴いてみたら、そこにはライブバージョンのこの曲がある。ライブでもこの曲は良い。僕は間抜けにも聞き落として、ちゃんと聴いてもいなかったのだと思う。

「BACK IT UP!!」のアルバムはバンドのライブらしく荒削りだ。スタジオ録音の「NILS LOFGREN」の方がおとなしく聞こえてしまう。たとえ名手のエインズレー・ダンバーさんが参加していようともロックにしては地味に聞こえた。
だが、激しいことだけがロックじゃないというのは断っておきたい。
 

僕はそれから、ニルス・ロフグレンを覚えて他のアルバムを探した。
その次に当たる「CRY TOUGH」は1976年の発表だった。
「CRY TOUGH」にもエインズレー・ダンバーが参加しているけれども、ここにはそれ以上に多様なゲストの名前がある。プロデュースの半分くらいをアル・クーパーが手掛け、ドラムにはエインズレーの他にジム・ゴードンが加わっている。どういうセッションなのかは分からないけれども、アル・クーパーがプロデュースした曲にはジム・ゴードンのドラムとチャック・レイニーのベースがあてられている。
ニルス・ロフグレンのアルバムにはリズムの名手が参加するのか。次の作品1977年の「I CAME TO DANCE」には、ドラム奏者アンディ・ニューマークが居る。

僕はとりあえず、それらを聴いてみて、気に入らなかった。
あの”The Sun Hasn’t Set On This Boy Yet”の様に心に来る曲を求めていたからなのか、斬新な感覚の曲想が多いこれらのアルバムには共感しなかった。
 

聴くべきところを、”心”でおぼえればおぼえるほどに、そこにとらわれて、別の面を逃してしまう、という事はよくある。
音楽は多様な感覚を追って聴くのが良いと思う。
 

僕はそれから、
ニルス・ロフグレン自体を忘れたけれども、レコードを探すようになって、またあのニルス・ロフグレンを思い出したように幾つか手にした。とりあえずやはり、気になるのは「NILS LOFGREN」のアルバムだ。

僕が運良く見つけたのは「NILS LOFGREN」の当時のプロモーション盤のレコードだった。もしもこれが有名バンドなり歌手なら、かなりの高額になるだろうが、ニルス・ロフグレンはあまり知られていないのかレコードの値段が安い。CDで買うよりもレコードを買う方が良いくらいだ。しかも音は素晴らしい。

そうして「NILS LOFGREN」のレコードを聴けば、あの音楽は何だったのかというくらいグルーヴがヘヴィーに来る。
ベースを弾くウォーネル・ジョーンズ(WORNELL JONES)が前に迫り来れば、ニルスのギターはその周囲をぐるぐる旋回する。エインズレー・ダンバーのドラムは背後からその打ち姿が透けて見えるくらい後ろで強く支えている。
このアルバムがこんなロックだとは思ってもみなかった。音圧が凄くて音量を下げようかと思ってしまう。

激しい演奏ではないとして、これは如何なる表現においてもロックに違いない。とにかくビリビリと熱い音が鳴る。素晴らしいじゃないか。バンドが一丸となって叫ぶ”キース・ドント・ゴー”もこれならキースに届くはずだ。
 

それからその後は、
1977年のアルバム「I CAME TO DANCE」をレコードで手にした。これはかなりの安値だったけれども、音はさすがに素晴らしい。全編でアンディ・ニューマークが参加するグルーヴは、彼を中心にするかの様にリズムが前に立ち上がってゆく。このリズムセンスは斬新だ。
僕はドラム奏者アンディ・ニューマークが好きだ。一時はこの人が参加するアルバムばかりを探していた。
最初のきっかけはスライ&ザ・ファミリー・ストーンのアルバム「FRESH」で聴いた曲”In Time”の奇妙かつ斬新なドラムを叩くのがアンディ・ニューマークで、デヴィッド・ボウイの「YOUNG AMERICANS」の過剰に華やかな音楽で、立つリズムを弾ませているのがアンディ・ニューマークと知ったからだ。他にもローラ・ニーロのライブアルバム「SEASONS OF LIGHTS」でもこの人だ。同じ時期ならジョー・ウォルシュのライブアルバム「YOU CAN’T ARGUE WITH A SICK MIND」も見逃せない。ローリング・ストーンズ関連ならロン・ウッドの2枚のソロアルバムにも参加していたりする。

ニルスの「I CAME TO DANCE」ではアンディー・ニューマークはドラム奏者である上に共同プロデュースに名を記している。リズムを中心にして音楽のアレンジは賑やかに派手になっている。女性コーラスを加え、ストリングスやブラスが大きく曲想に関わっている。これはデヴィッド・ボウイの「YOUNG AMERICANS」の曲想とどこかで通じそうな気がする。
音楽は違うが繋がりそうな面を当ててみるのはおもしろいと思う。
「I CAME TO DANCE」には”心”に染み込む曲は少ないかもしれない。けれども、音楽に於ける聴きどころはそこだけじゃないとも思う。
 
 

話は元へ戻るが、
ニルス・ロフグレンの魅力はその声にあると思う。
たとえば、「NILS LOFGREN」にも
「BACK IT UP!!」にも入っている”Goin’Back”という歌がある。これはキャロル・キングのカバー曲で、ダスティ・スプリングフィールドやザ・バーズ、キャロル・キング本人からフレディ・マーキュリーから、多くの歌手が唄っているが、それらのどれとも似ていない素晴らしい解釈だと思う。本当に心に残る歌と演奏をニルス・ロフグレンは聞かせてくれる。

ニルス・ロフグレンは美しいピアノを弾く。
儚い心の詩を風になびかせる。
その優しい風が吹かせたものは、
いつまでも消えない揺らぎだ。
見えているのは沈まない美しい夕陽の揺れだ。

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