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新時代に生きるロックンロールは、かくも美しい

Starcrawler『JAPAN TOUR 2019』ライブレポート

「今すぐ誰かに熱弁したい」……。全ての『事件』の幕が降りた瞬間、酷く野次馬的な思いが頭を支配していた。大阪のディープな繁華街の一角で行われた約1時間半に及ぶライブは、紛れもない大事件であった。
 

紅一点のフロントウーマン、アロウ・デ・ワイルド(Vo)による血みどろのパフォーマンスや、平均年齢21歳の若者ならではの初期衝動全開で展開されるライブが話題を呼び、こと海外のインディーロックシーンで注目を集めるスタークローラー。彼らの来日公演は2018年のフジロック及び全国ツアーを含めると三度目となるが、今回はニューアルバム『Devour You』リリース後という絶好に脂の乗り切ったタイミングでの来日となる。
 

そんな彼らのライブを一目観ようと会場である梅田・BANANA HALLでは、オープニングアクトのライブ終了後には観客の多くが前方へと大移動。収容人数は約500人と決して広くないライブハウスではあるものの、結果的に前方は完全なるすし詰め状態。対して後方に留まる人はまばらという両極端な光景が出来上がり、スタークローラーへの期待値の高さを証明する形となった。
 

ステージで一際目を引くのは、188cmの長身を誇るアロウ用のセッティングが施された、およそ日本のバンドではまず見ることはない高々と鎮座したマイクスタンド。スピーカーの上に置かれたキモカワの人形も、ミステリアスな雰囲気の演出に一役買っている。しかしながら配置されている楽器類はギター、ベース、ドラムが1つずつというロック然とした編成で、愚直なロックンロールを体現する彼らに相応しいシンプルなセットだ。
 

定時を少し過ぎ、暗転。軽やかなミッキーマウスのSEと共に、まずはオースティン・スミス(Dr)が配置に着く。直後全体重でもって振り下ろされる重厚なドラミングの後に現れたのは、ティム・フランコ(Ba)とヘンリー・キャッシュ(Gt)の2名。そして演奏にティムとヘンリーが加わり一種のジャムセッションの様相を呈したところで、アロウがゆっくりとステージに降り立った。
 

驚くべきはその出で立ちで、ヘンリーは白を基調とした多数の花が描かれた一昔前のロックスターを彷彿とさせる華々しい風貌であったのに対し、アロウはと言えば白いドレスに身を包んではいたものの、胸から下半身にかけてはまるで重症を負っているかのように真っ赤に染まっている。布面積の少ない服装こそ一見淫靡な雰囲気ではあるものの、血の気が引いたようなアロウの顔色と、何より一部分が深紅に染まった上半身にも目を向けるとその光景はあまりにも異質であった。当人のアロウはと言えば頭を抱え、何かに怯えるような表情で客席を見渡している。精神的に不安定な一連の挙動には心配してしまう気持ちも膨らんでしまうが、この一種ホラーチックな立ち振舞いこそ、スタークローラーの基本スタイルなのだ。
 

1曲目はニューアルバムから、パンキッシュな“Home Alone”をドロップ。印象的だったのはやはりヘンリーとアロウの2名で、ヘンリーは右へ左へと動き回りながらギターを掻き毟り、早くもブレーキを失った暴走列車の様相。アロウに至っては感情の赴くまま、時に体をびくつかせ、時によろめきながら鬼気迫る歌声を響かせていた。なお歌唱は常にハンドマイクで行われ、終始彼女が放さなかったマイクスタンドはアロウの体重を支える役割を果たしていて、まるで獰猛な野獣を強制的に繋ぐ鎖のようでもあった。
 

そんな暴れ馬状態と化した2名とは対照的に、地に足着いた正確なリズムを刻んでいたティムとオースティンにも注目したい。ティムはほぼ直立不動で主張の少ないベースラインで地盤を固め、オースティンは鼓膜にダイレクトに伝わるドラムを展開。一歩間違えば破綻しかねない猪突猛進型のライブパフォーマンスがスタークローラーの売りのひとつではあるが、彼らのライブが決して『荒々しいだけのロック』との印象を抱かせないのは、集中的に楽曲をコントロールするリズム隊の存在も大きいのだろうと感じた次第だ。
 

かくして恐るべきスピード感で駆け抜けた“Home Alone”だが、ラストは轟音のアウトロの中、アロウがマイクケーブルで自身の首を力一杯絞め、背後に倒れ込んでしまう(これは誇張表現ではなく、実際に頭が地面に叩き付けられる音がした)。1曲目から限界突破のパフォーマンスに、会場は割れんばかりの歓声に包まれる。
 

その後は“Used To Know”、“Love’s Gone Again”、“Lizzy”を立て続けに披露。4曲が終わった時点で未だ10分にも満たないその性急さには驚かされるばかりだが、結論を述べると今回のライブで、彼らは曲間にまともな休憩はおろかMCも水分補給も、ほぼ行わなかった。まるで何かに取り憑かれたように一方的に演奏のみを繰り広げるその姿は焦燥に駆られているようでもあり、凄まじい集中力でもってパンクロックの勢いを見せ付けていく。
 

この日のライブは『Devour You』リリース後のツアーとのことで、セットリストの大半を担っていたのは言うまでもなく『Devour You』収録曲。具体的には唯一のバラード曲“Call Me A Baby”を除く全楽曲を網羅すると共に、ファーストアルバム『Starcrawler』からのファストチューンも随所に取り入れた現時点までのベスト的なセットリストで進行していく。決して演奏は上手くはないし、卓越したテクニックや奇抜な楽曲展開もない。スタークローラーが今回行ったのは、徹頭徹尾ロックンロールに人生を変えられた4人の若者たちによる、ただただひたすら泥臭く無骨な存在証明であった。
 

この日のハイライトとして映ったのは、中盤で演奏された屈指のライブアンセム『I Love LA』。限界突破のテンションで飛び跳ねながらギターを掻き毟るヘンリーと目をひん剥きながら歌うアロウの表情は、「この曲が聴きたかったんだろ?」と観客に問い掛けるようでもあった。加えてこれまでは観客へアクションを促す行動を一切取らなかった彼らだが、サビ部分ではアロウがマイクを客席に向けてシンガロングを促す一幕も。演奏終了後に満面の笑みで会場を眺めるヘンリーは、心から嬉しそうに見えた。
 

以降も彼らはフルスロットル。ヘンリーは事あるごとにステージドリンクを霧状に吹き出し、変顔を頻発しながら大股でギターを弾き、アロウは大迫力のブリッジを見せ付けたかと思えば、時折ケタケタと笑い始めたり、全てに絶望したような表情を浮かべたりと終始情緒不安定。更に演奏終了後はマイクを落とし地面に倒れ込むなどヒステリックに感情を露にし、まるで何かが憑依したかのようなパフォーマンスの一挙手一投足に目が離せない。ふとステージ下部に目を凝らすとあまりにも激しく動いたためか、ローディーが貼り付けたセットリストが一切の判別が出来ないほど粉砕され、破片がそこかしこに散らばっている有り様。この日の我々がいかにクレイジーな時間を過ごしているのかを、如実に現しているようでもあった。
 

本編ラストはニューアルバムのリード曲のポジションを担っていた“Bet My Brains”。MV同様前のめりで絶唱するアロウに目を凝らしている隙に、いつの間にかヘンリーの姿がステージから消え去っていることに気付く。ふと周囲を見渡すと、ヘンリーは客席前方のフロアで観客に囲まれながらギターを弾いていた。そしてヘンリーの長尺ギターソロに沸く間、アロウは映画『リング』のキャラクター・貞子を彷彿とさせる動きでもって地べたを這いずりながら裏へと消えていった。かくして本編は残った3人のメンバーが鳴らす面妖なノイズに呑まれながら、大盛り上がりで終了した。
 

しばらくして、自然発生的に広がった手拍子で再び迎え入れられたスタークローラー。アンコールで演奏されたのは、現状リリースされているふたつのアルバムでとりわけ強い存在感を放っていた“She Gets Around”と“Chicken Woman”だ。
 

中でも最終曲“Chicken Woman”の一部始終は、あまりにも衝撃的だった。“Chicken Woman”はスローな前半こそダークな印象ではあるものの、後半にかけては速いBPMに変貌する怪曲。CD音源と同様低音のノイズに包まれながら、楽曲は徐々にボルテージを高めていく。そしてベースオンリーのサウンドに変化した頃、待ってましたとばかりにテンポが高速化。その瞬間、アロウの口からは大量の血糊が吐き出される。必然みるみるうちに口元は赤く染まっていき、アロウはこれ見よがしに真っ赤に染まった口元を触って髪や顔にも血糊を塗りたくる。いつしか体全体に広がった血の広がりと比例するように笑みを浮かべながら、アロウはクライマックスへの準備を整えていく。
 

そして他の楽器隊が演奏に加わるまさに絶好のタイミングで、アロウが客席へとダイブ。ヘンリーは観客から見て左側にある柵へよじ登り、ヘッドバンギングを繰り出しながらギターを鳴らす。更に定位置へと戻る際にはいち観客としてライブを観ていたファンの女性の手を引いてステージに上げると、自身のギターを手渡して力一杯弾くよう指示。そうして血みどろのアロウが地面を転げ回り、ファンの弾く解放弦による爆音で平衡感覚が失われる感覚に陥りながら、この日梅田・BANANA HALLで行われた『事件』は幕を閉じたのだった。
 

この日のスタークローラーの狂演はどしゃめしゃのロックンロールの中に少しの恐怖とエロティック、血糊といったオリジナリティが渾然一体となった、およそこの世のものとは思えない、言うなれば音楽の形を成した『何か』であった。
 

彼らは未だインディーズバンドであり、多大なる人気を博すほどではない。更には昨今多くの偉人たちが「ロックは死んだ」と揶揄するように、彼らのような無骨なロックンロールをがむしゃらに鳴らすバンドは今やほぼ売れないとされる。
 

けれども遥か昔からロックンロールは時に規制され、時に無礼な存在として社会に蔑まれながらも、自身の思いを具現化する適切な手段として長年愛されてきた。つまるところロックとは本来そうした『売れる売れない』といった枠に囚われない、反逆の音楽であったはずなのだ。
 

2020年、ロックの在り方は大きく変化した印象が強く、中にはSNSや動画アプリを巧みに使ったりと、音源以外の部分がフィーチャーされて話題に繋がるバンドも少なくない。確かに注目されることがひとつのステータスとなった現在においては、所謂『バズ』に計画的に照準を合わせることは理にかなっているとも思う。だが言いたいことや奏でたい音といった数々の欲求が高まって抑えきれなくなり、それら全てを内包して衝動的に鳴らされるものこそがロック本来の在るべき姿なのではなかろうかと思ってしまう自分もいる。……そう。例えば、スタークローラーがこの日鳴らした音楽のような。
 

前作『Starcrawler』のパンク然としたイメージを踏襲しつつ、ニューアルバム『Devour You』では更に多種多様なアプローチを取り入れたスタークローラー。現時点でアメリカ国内を飛び回る次なるライブも決定しており、その勢いは留まることを知らない。そんな彼らを「絶体絶命の危機に貧しているロックンロールの未来を担う存在なのかもしれない」との思いで応援してしまうのは、あまりに軽薄であろうか。……いや、必ずしもそうとは限らないはずだ。
 


 
講評
狂気の中に独自の美意識が詰まったスタークローラー来日公演のパフォーマンスをレポートすることで、バンドの持ち味やいかに勢いのあるアーティストであるかを表現した作品。迫真のパフォーマンスが目の前で繰り広げられているかような臨場感のある文章と、ロックの在り方にも触れつつ書かれたアーティスト論は読み応え十分。この文章を読めば、スタークローラーに興味を惹かれずにはいられないと思います。

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