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SPEEDが立ち止まった時

時代の寵児が自身に語りかけたこと

高校を出る直前に、親友から届いた年賀状には「3年間、あっという間だったね」と書かれていた。それは僕たちが、どんな悩みも分かち合った、青春と呼ぶよりほかない3年間であり、ダンス&ボーカルユニットのSPEEDが、その名の通りの俊足で駆けた3年間でもあった。厳密にはSPEEDは、僕たちが高校に入る前に活動を始めており、卒業したあとも歌いつづけ、踊りつづけた。それでも「その3年」に生み出された曲や、歌われた曲というものは、僕にとって忘れがたいものである。

SPEEDは素晴らしいユニットだった。デビュー曲「Body & Soul」のサビに置かれた、相当に長いセンテンスを、島袋寛子は息つぎなしで歌いきる。その様から僕は「かわいらしさ」などを感じはしなかった。臆することない少女の威風に圧倒された。メンバーそれぞれが輝きと誇りを持つユニットだ。それでも個人的に思うのは、多くの楽曲を手がけた伊秩弘将氏こそが、最大の功労者なのではないかということである(楽曲を生み出したのは水島康貴氏でもあるけど、本レポートでは主に伊秩氏の歌詞を取り上げたいと思う)。氏の紡いだ詞は、SPEEDを代弁するもののはずである。今の僕と同じくらいの年齢であった伊秩氏は、どれほどの力を絞って少女の心情を推し測ったのだろうか。

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一般論になるけど、高校生というのは、立ち止まって熟考したり、自分のキャパシティを把握して優先順位をつけたりするのが困難な年ごろである。少なくとも僕はそうだった。いちおうは運動部に籍を置きながら、校外の仲間とのバンド活動に精を出し、アルバイトもして、塾にも通った。体力と根性がなければできることではない。ただ、そうやって「手当たり次第」にエネルギーを振り分けたゆえに、どれも中途半端になってしまった感はある。そういう未熟さは当然、恋心や友愛の情も暴走させ、とても「器用」とは言えない3年間を送ってしまった。時に無神経なことを口にし、周りの人を傷つけた。

それでも、未成熟であるがゆえに選べた言葉や、とれた行動というものは、それはそれで尊かったのだとも思う。そういう「走りつづける若者の姿」を、伊秩氏は見事に描き出したのではないか。それに共感したからこそ、代弁してもらったと思えたからこそ、SPEEDは力強く歌え、踊れたのではないかと考えるのだ。

SPEEDは疾走する。

「Wake Me Up!」では<<ダッシュで行けば いつものに間に合うよ>>と歌い「my graduation」では<<生きていく 今日から>>と誓い「ALL MY TRUE LOVE」では<<大地を蹴って 走り出そう>>と促す。人間が生きていくことは簡単なことではない。そして走ること、ダッシュすることも、決して容易なことではない。それでも伊秩氏は、そういう歌をSPEEDに預けた。SPEEDは全力疾走する姿を僕たちに見せてくれ、それに呼応するように、僕もまた走った。もっといこう、もっと走ろうと言わんばかりに、SPEEDは歌い、そして踊った。

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そうやって全力で「他者への発信」をつづけたSPEEDが、不意に立ち止まって、自分自身に語りかけた瞬間が、僕の思い出せる限り、少なくとも2回ある。歌でもなく、ラップでもない、つぶやきのようなものが含まれる曲が、少なくとも2曲はある。

「STEADY」の大サビで、あきらめずに思いつづければ夢は叶うというメッセージを届けたあと、今井絵理子が力を込めて言う。<<そうだよね>>と。それはリスナーに共感を求めるものというより、自分自身に言い聞かせるものだったのではないかと、いま僕は思う。私人としての今井絵理子が、どのような夢を追い、その困難さにくじけそうになっていたのかは分からない。それでも何かしらの「望む未来」を信じる気持ちが、その言葉には込められているように感じられる。

「Wake Me Up!」は、恋に悩む主人公が、それでも(文字通り)目を覚まして起き上がる決意を歌った曲だ。その後半部分で、島袋寛子が小さく言う。<<もう泣かない>>と。それもまた、リスナーに奮起を促す声がけというよりは、宣誓のようなものだったのではないかと思うのだ。SPEEDは僕たちを鼓舞するだけのユニットではなかった。恐らくは自分たちのために歌い、踊ってもいたのだろう。

他人のためだけに生きることはできないし、自分のためだけに生きることは空しい。もしかするとSPEEDは、伊秩氏の書いた詞を歌い上げることで、そういう「人生の真理」に気づいていったのではないか。疾風のように駆け抜けたSPEEDが残した、上述の二つの言葉は、彼女たちのキャリアに置かれた重要な句読点のようなものであり、リスナーの心に残る凪のようなものでもあると思う。

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2000年に解散したSPEEDは、その後も単発的な再結成を果たしたり、期間限定の活動をしたりする。そういった活動の全てを見届けることは、失礼ながら僕にはできていない。そして今、4人がどのような道を歩んでいるかも、詳しくは知らない。僕にとってSPEEDの楽曲は「懐メロ」のようなものになりつつある。それでも成長したSPEEDが「Wake Me Up!」の別バージョンを届けてくれた時のことは、ハッキリと覚えている。相も変わらず華麗なダンスを披露するSPEEDの表情は、第一期より穏やかなものに、にこやかなものになっているように感じられた。自分の青春時代を励ましてくれたユニットが、元気に生きつづけてくれていることを嬉しく思った。そして島袋寛子が、あらためて言う。<<もう泣かない>>。

この年齢になっても、時として僕が涙を流してしまうように、SPEEDも泣きたくなることはあるだろう。高校生が流す涙は尊いものだし、大人が流す涙には重みがある。高校生は「強くなりたい」と願うべきだと思うし、大人は「強くありたい」と心に期さなければならないものだと個人的に考えている。泣くことは決して悪いことではないけど、悲しみをこえて前を向かなければならない時はある。それはSPEEDが負っている荷であり、僕たちリスナーが負うものでもある。泣いてはいけない時は泣かないようにしたい。そう思う今だからこそ、僕は島袋寛子のようにつぶやいてみる。<<もう泣かない>>と。

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伊秩弘将氏と水島康貴氏に敬意を表すとともに、文中で名前を出せなかったダンス担当の2人に謝罪したい。踊りに関する知識を全く持たないので、SPEEDのダンスがどんな風に素晴らしかったのかを、文章で表現することができないのだ。そして、ありがとう、島袋寛子さん。昔も今も、その勇気を、私は見習っています。

※<<>>内はSPEED「Wake Me Up!」「my graduation」「ALL MY TRUE LOVE」「STEADY」の歌詞より引用

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