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ずっと真夜中でいいのに。を知った夜

形のない朝なら僕は求めない

あまり一般論を述べるのは良くないと思うのだけど、僕くらいの齢になると、新進のミュージシャンに打ちのめされることは減ってくる。少なくとも僕はそうだ。青春期から聴いているミュージシャンの新曲が発表されると、安堵したり、それを機に昔の曲を懐かしく感じて流したりするのだけど、興味の対象を増やすことが加齢とともに難しくなってきた。

そのように瑞々しさを失い、ぐうたらな毎日を送っていた僕は「ずっと真夜中でいいのに。」の曲に出会った今、久しぶりに興奮している。「ずっと真夜中でいいのに。」をバンドと呼ぶべきなのか、ユニットと呼ぶべきなのか、今ひとつ分からないのだけど、その楽曲のアレンジは、これから僕が編もうとしている、しがない市民バンドのオリジナル曲、その手本となるようなものだったのだ。

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「秒針を噛む」を再生すると、真夜中というよりは夜明けを連想させるようなピアノが響きはじめる。それに重ねられていくのは、恐らくは幻想的な装飾音なのだろうと勝手に予想していた。ところが次の瞬間、ベースのスライドが聴こえ、強くディストーションのかかったエレキギターが鳴らされる。ピアニストの指が鍵盤を豪快に滑る。真夜中の宴会とでも形容すればいいのだろうか、全パートが各々のステップを踏み、気がつけば僕の体は揺れていた。きれいな紙細工のような、それでいて勇猛果敢なバンド・アンサンブルが、ヴォーカリストの登場を待ちかまえる。

そこに現れたのが、どすのきいた声を出す歌い手だったとしたら、あるいは僕の「興奮」はおさまっていたかもしれない。でも違った。聴こえはじめたのは、あどけなさの残る、それでいて怯むことのない、女性ヴォーカルの声だった。舞踏会の中心でスポットライトを浴びるダンサーのように、彼女はバンドの圧に飲み込まれずに歌う。もちろん歌い手の姿を見たわけではないけど、その眼光に射抜かれたような錯覚を覚えた。このバンドは(ユニットは)何者なのだろうか。その世界に引き込まれていく自分がいた。

そのようなバンド・アンサンブルのあり方は、これまで僕が「理想」として、おぼろげに抱いていた像を、鮮やかに照らし出した。そうだ、俺が編みたかったのも、こういう曲だったんだ。おこがましくも、そんなことを思った。どこかスキのあるヴォーカリストが、たじろがずに歌い、それを導くように、逆に導かれもするように、各パートが躍動する。くり返されるピアノのグリッサンド。踊りつづけるベースライン。いつしかギタリストはワウペダルを踏んでいる。これだけの音を盛り込んでいるのに、声が埋もれない。耳に届く。僕は新しく知ったミュージシャンの曲を聴く時に、まず「どんな思想性をもった人なのだろう」と考える傾向を持つ。つまり詞に目を向けがちな人間である。でも「秒針を噛む」に関しては、まずアレンジの妙に心を奪われた。

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華麗に踊る「ずっと真夜中でいいのに。」は、どんなメッセージを届けようとしているのだろうか。あるいは何を自分に言い聞かそうとしているのか。いつもとは逆の順序で、ようやく僕は歌詞に意識を集中してみる。衝撃的なフレーズが多く含まれていることを知る。<<生活の偽造>>という歌い出しからして、何とも挑発的だ。<<偽りの気持ち合算して>>という部分も強烈だ。主人公と相手は、一体どのような関係にあるのか。何を相手に求め、どんな日々を歩んでいるのか。それを理解できない僕は、ことによると感受性を欠いているのかもしれない。それでもサビの最後に置かれた言葉には共感した。<<形のない言葉は いらない>>。それは僕が人生に望んでいることだ。言葉を選ぶ努力を怠ったら、こうして文章をつづる意味などない。たとえそれが拙いものであっても、あるいは震えるような弱々しいものであっても、僕は形のある言葉を書き、形のある言葉を口にしたい。ヴォーカリストと僕が見ている世界は、きっと幾分、違ったものなのだろうとは思う。それでも共通項が、少なくともひとつはある。僕だって言葉に形を持たせたい。

そういった切望に応じるように、ベーシストの踏むステップは、さらに激しくなっていく。間奏ではスラップが披露される。それに応じるように、後半で奏でられるハードなギターソロ。アコースティックギターが「一瞬の静寂」を演出し、あとはもう、ひた走るだけだ。各パートが全力で踊る。フェイド・アウトを選ばず、ドアをパタリと閉めるように終わる本曲。残されたのは言葉を失った僕だ。

いま夜の9時である。恐らくは僕はこれから「ずっと真夜中でいいのに。」の別の曲を聴いてみることになるだろう。その曲にも圧倒されることになるだろう。その旋律が耳に残り、衝撃的なフレーズが心に残り、ことによると眠りは浅くなるかもしれない。夢のなかで秒針が鳴りつづけるかもしれない。そういう夜が待っているのだとしても、それは素晴らしいミュージシャンに出会えた代償だ。そういう意味では、まさに、ずっと真夜中でいい。

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どんな朝が待っているのだろうか。どんな明日を僕は迎え、その1日のなかで、どんな文章を書くことになるのだろうか。意味のない日にはしたくない。きっと言葉を見つけたい。僕にしか書けない文章などないのだとしても、そんな個性や才などは持たないのだとしても、自らの非才に抵抗するような気持ちで朝を迎えたい。形のない朝ならいらないのだ。たとえ疎ましく思われようと、僕は自分なりのステップを踏んでいく。そういう思いをバンド仲間や、友人知己とも共有したい。

ありがとう。僕に「ずっと真夜中でいいのに。」を勧めてくれた人。今日も文章を、うまくつづることはできなかったけど、歌詞から受け取ったものが的を射たものかは分からないけど、簡単にはあきらめずに、投げ出さずに、これからも言葉を選んでいきます。

※《》内は ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」の歌詞より引用

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