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2017年7月26日

山下リン (23歳)

back numberの言葉

“高嶺の花子さん”の場合

 夏である。

 “高嶺の花子さん”という曲について書きたい。back numberというバンドの代表曲のひとつである。抑制の効いたメロディーと男目線の歌詞が、ボーカル・清水依与吏の声にマッチした、夏らしい一曲。タイトルに象徴されるユーモアも含んだ、心地よいラブソングに仕上がっている。
 私は聴いていて単純によい曲だと思うのだが、ちょっとした違和感もあり、その違和感こそが、“高嶺の花子さん”の歌詞の語り手である《僕》らしさを作り上げているのではないか。そんなふうにも思う。
 たとえば最初のAメロ。

 君から見た僕はきっと ただの友達の友達
 たかが知人Bにむけられた 笑顔があれならもう 恐ろしい人だ

 ここの《たかが知人B》に引っかかりをおぼえるのは、私だけではないはずだ。この場合、《知人B》とは《僕》のことだが、自分のことを《たかが知人B》であるとさらりと歌っている《僕》は、実はなかなか奇妙である。「ただの」ではない。《たかが》でいったん《君》の視点に足を踏み入れているのが、なんとなくおかしくはないだろうか。

 君を惚れさせる 黒魔術は知らないし 海に誘う勇気も車もない
 でも見たい となりで目覚めて おはようと笑う君を

 このBメロの《黒魔術》は唐突だ。浮いている。しかし、ここは《黒魔術》以外考えられないとも思う。すでに《たかが》で露呈したおかしさを持ち合わせた、《僕》の考えだから。《海に誘う勇気も車もない》のような、「~も~もない」という言い回しはあるにしても、《勇気》と《車》を並べるところがぎこちない。そのあと、サビにつながる部分も、《見たい》が本来あるべき文の最後から、ずいぶん前まできている。
 ここまでの《たかが》や《黒魔術》、そして乱れた一節などに、《僕》の幼さ、困惑、のぼせた気分が感じられる。そこはかとなく。
 そして、サビ。

 会いたいんだ 今すぐその角から 飛び出してきてくれないか
 夏の魔物に連れ去られ 僕のもとへ
 生まれた星のもとが 違くたって 偶然と夏の魔法とやらの力で
 僕のものに なるわけないか

 ここで気になるのは、やはり《違くたって》だろう。そんな日本語はない。しかしここは《違くたって》だからこそ、“高嶺の花子さん”という曲の強さが増すのである。《違ったって》や《違っていたって》が正しいとか、譜割りを考えればどうとかではなく、《違くたって》という言葉をサビに入れたことが、この曲のすぐれた点と言ってよい。
 社会や音に合わせるのではない。《僕》の言いたい、いびつな一言がある。間違っていても、ぶれていても、歌わねばならない。それが曲の中できちんと機能する。これぞまさしくラブソングというものだろう。
 二番以降にも、そのような「必然性のある違和感」がただよっている。

 君の恋人になる人は モデルみたいな人なんだろう
 そいつはきっと 君よりも年上で
 焼けた肌がよく似合う 洋楽好きな人だ

 《恋人》の「人」も含めると、「人」が3回も出てくる。慌てているのだろうか。《恋人》のイメージもどことなくぼやけた印象で、《僕》の想像力は危うい。
 さらに、Cメロである。

 この胸の 焦りに身を任せ 君のとこへ走ったとして 実は僕の方が
 悪い意味で 夏の魔法的なもので 舞い上がってましたって 怖すぎる
 オチばかり浮かんできて

 何かを肯定するときに便利な「良い意味で」という言葉がある。私はあれを聞くたびに「どういうふうに良い意味なのかを説明してほしい」と思うのだが、ここの《悪い意味で》は、説明しない、できないというよりは、説明が追いついていないように感じられる。《夏の魔法的なもの》という不確かなものに、《悪い意味で》という不確かな説明を付け加えることによって、《僕》のままならない感じをにおわせている。《焦り》がある。
 恋のもろもろの感情をただ歌うのではなく、恋そのものを言葉の節々であらわしているのが、“高嶺の花子さん”である。

 ここまで書いてきたことが、清水依与吏の意図したものなのか、あるいは無意識のうちに生まれたものなのか。私は前者、言葉のテクニックだと考える。ただ雑なだけの歌詞は、目を通す段階でいくらでもはねることができるはずだ。
 “高嶺の花子さん”の《僕》は、この違和感だらけの言葉を使わねばならなかった。なぜなら恋をしているから。舌はしびれるほど熱く、おぼつかない言葉ばかりがねじれて出てくるほど、こんがらがった恋に身も心も焦がしているから。夏である。夏の歌である。

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