401 件掲載中 月間賞発表 毎月10日

2017年7月27日

63 (36歳)

但野正和と最終少女ひかさ

「人生」への恋文と

出会いは、数年前の初夏の頃。洋楽好きのわたしは、日本人のくせに母国語で唄われる歌があまり、いや、ほとんど好きではなかった。
理由はここでは不要なので省く。
その本来好きではない、邦楽バンド。それでも、友人を通じたある切っ掛けから、札幌のライブハウスに行くようになり、3ヶ月も過ぎた頃か、ある対バンでの初見。
衝撃波を真っ向から受けた。あいた口がひらきっぱなし。「すし喰いたい」だと?なんなんだ、彼らの音楽は。わたしが慣れていないからだ、この手の音楽に。だって邦楽だもの。
明日になれば衝撃もおさまるだろう。しかし、収まらなかった。衝撃は興味へと昇華してしまった。
おそらく、馬鹿げているようにもとれる、語の羅列、思い付く欲求の放出、それとは対極にある核心を突く真実、これらを文章にして、真逆の価値観が混在する、彼の創る歌たち。少し鼻にもかかるハスキーな声で音色にのせ、くうに放つ。それぞれの歌が持つ、どっちつかずの違和感がわたしのアンテナを刺激し、一気に興味の最優先にまで押し上げた。
それからというもの、解散までの、ほぼ全ての道内ライブを観た。全てのワンマンも、全国ツアーも観た。但野正和のソロにも足を運んだ。時間があれば本州へも追いかけた。
彼は、バンドは、洋楽好きだったわたしを、邦楽ではなく、最終少女ひかさを、但野正和を好きにさせた。
何がそこまで、わたしを掴み切ったのか。それは、最終的には但野正和が生み出す歌詞。わたしにとっては詩、そのもの。
多くの音楽ファンは「歌」「ライブパフォーマンス」「騒げる」「楽しい」「同じ思いの友達が出来た」「かっこいい」「MCの内容」「Twitterのつぶやき」「人間性(どれだけ知っているのか不明だけれど)」「生きざま」etc
それぞれが、一人十色以上の何かを求め、偶像を作り上げ、それでも、それぞれの思う期待値以上を受取り、ファンになっていくのだろう。
わたしの期待値は、彼の書く詩にある。この若者の書く詩。
それは内面から滲み出るただの光かもしれない。搾り出した苦悩かもしれない。はたまた希望かもしれない。冗談かもしれない。皮肉かもしれない。反骨心かもしれない。自身の経験かもしれない。欲望かもしれない。妄想かもしれない。それら全てが、彼よりも長く生きてきたはずの、わたしに響く。
表皮から肉を開きゆき、緻密に血管を避け脊髄にとどくような。血を流すことなく、苦しさも、痛みも、喜びも、それを超えた先をも見せてくれる。感じさせてくれる。
そんな言葉たちを散りばめた詩たち。響き合ったときの、その爽快感と達成感といったら、彼の音楽が媒介し、今まで経験できなかったことも、上手く言葉にできなかったことも、有耶無耶で、その頃には分からなかった感情も、投影できた。
この体験が、幾度となくライブに向かわせ、歌を何度もリピートし耳に通し、歌詞カードの行間までを読み解こうとし、解説にも彼の辿った形跡を探し、貪欲に求めていった。
数ある歌の中で、わたしが特に影響を受けた数曲の中で、最高をあげるとすれば、多くの支持を受ける「ハローアゲイン」ではなく、わたしには「人生」。感服の一曲。
生きる。ではなく、生きていく過程で芽生える感情全てを、網羅できるメタファーで表現されている。
その時々のわたしの在りようで、他者との交わりの中で、社会との関わりの中で、ひと言ひと言の捉え方が四方八方に広がる。一つだけではない、捉え方。
「なぁ人生、教えてくれ…自分に嘘つくもんなぁ、まずは俺のほうからかぁ!」
ここから始まる、自分への、誰かへの語り掛け。まるで「人生」は目の前の誰かであるような錯覚まで。
わたしは、見透かされている。わたしは自分にも、他人にも嘘をつく。
なぜ、分かるの?なぜ、認めるの?
【仕方がないんだ。だから、許し合おうじゃないか。】そんな副音声まで聞こえてくるようだ。
「こんがらがって、千切れて、煩わしくなって、ほどいて」
自分とも、他人との関係もこの繰り返し。それが、人生。
「邪魔くせ〜結び目も、落ちね〜汚れも、ハロー、ハロー、ハロー」
受容の境地。【もう、ジタバタしね〜よ!】って、聞こえてくるような潔さ。
わたしも覚悟を決めよう。と、背中を押す。
ラストの「なぁ人生、これからも長く付き合うにあたり、ずるい俺は、あんたをもっと知りたいと思ったんだぁ」
ヒトとセイ。歩む人生、生臭さも、生きづらさも、生き急ぎも。派生する、喜びも、悲しみも、苦しみも、悔いも、遣る瀬無さも、全部受け容れる、背負う、そんな決意表明とも、諦観ともとれる、読むにも値する詩と、歌と。
わたしはこれからも共にありたい。
また、「人生」を超える歌を、次のステージに踏み出した、但野正和に期待している。
夜明けは、まだか?

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
音楽について書きたい、読みたい