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確信的に、かっこいい女の子。カネコアヤノ

アルバム「祝祭」より、しなやかで強いカネコアヤノ歌詞世界

 カネコアヤノをボクが知ったのは、いつだったか。まだ彼女が前の事務所を辞める前だったと思う。そのときの第一印象は、「繊細で弱い感じの子が、穏やかな日常を綴ってる系かな」くらいの印象だった。きっと好きだろうけど、急いで聞くほどではないかな、と思った。それから少し時間が経って、YOUTUBEでDRIP TOKYOに出演するカネコアヤノを発見した。まずたたずまいからして、以前とは全く違う印象を受けた。紫の独特なスタイルのワンピースを着たカネコアヤノは、ちょっと笑いながらどこかにらみつけるように前を向いてギターを構えていた。おや、と思って再生ボタンを押した。すると独特のトーンでこちらに挑みかけるように彼女は歌い出した。繊細で弱々しいどころか、自信たっぷりと彼女は歌った。というか歌い上げた。歌詞はこれまた独特だった。難解な言い回しをしているわけでは無いのに、新鮮なフレーズが耳に残った。完璧にはまった。
 
 慌てて近所のタワレコで「祝祭」を購入した。家に帰って通して聞いた。泣いた。これは誇張でもなんでもなく、本当に涙が出た。ボクのファーストインプレッションは全部当たっていたし、全部外れていたからだ。つまり彼女は繊細であったし、同時に力強くもあった。穏やかな日常を歌ってたし、同時に彼女がつかんだ、ある普遍の真理をも歌っていた。どこか不安げで、それでも彼女は自信をもって彼女の歌を歌っていた。
 一曲目のHome aloneからそんな姿勢ははっきりと示される。特に印象的なのが、後半のサビの一節、「確信的だ 今日は必ずいいことあるはずだ」「追いかけたバスが待っていてくれた かっこいいまま ここでさよなら」という部分だ。一人暮らしを始めた者が誰しも感じる孤独のなかで、それでも、彼女は自分に言い聞かせるように、今日がいい日になると歌いきってしまう。それでも「確信的だ」とわざわざ言う彼女はどこか強がっているようで、だからかっこいい。それに追いかけたバスに乗れてしまうことにボクは何故か、心底驚いてしまった。それは小さい頃ゆずの「サヨナラバス」をよく聞いていたせいかもしれない。普通のjpopなら別れは大抵悲劇的で、追いかけたバスには追いつけない。しかしカネコアヤノは颯爽とバスに飛び乗り、にやっと笑って去って行く。カネコアヤノもきっと孤独だが、そんなそぶりを見せまいとする彼女の姿勢がかっこいい。
 そうカネコアヤノは「かっこいい」女の子だ。だけど彼女は決して強い女の子ではない。日常の細やかな部分にまで目の行き届くような繊細さを持っている。しかしそんな風に繊細で傷つきやすくても、彼女は自分の弱さをアイデンティティーにしてしまうことはない。自分の弱さを認めながら、それでもしなやかに生きていこうとする、そしてそういう姿勢そのものを大事にする。そんな彼女が僕にはひどく新鮮だった。
 特にアルバムの最後を飾る「祝日」は日本の音楽史に残る名曲だと思う。アルバム構成も、バンドスタイルで数曲たたみかけた後の突然の弾き語りという配置が光る。
 前半部分ではいつになく彼女は素直に彼女の抱える毎日の不安を歌う。「嫌われないように 毎日不安にならないようにしている」それでもやはり最後には「いつまで一人でいる気だよ」と歌い、「飽きないな 若気の至りか どうでもいいことだ」「これからの話をしよう 祝日 どこに行きたいとか」と力強く歌い上げる。
 ボクらは誰もが孤独で大なり小なり不安を抱えて生きている。それは彼女自身も同じで、あの人に嫌われないだろうか、とかそんな事で悩んだりしてしまう。それでも彼女は傷つくことを怖れずに一歩前に出て、「あなた」とのこれからを歌う。あくまで前をむいて生きていこうという姿勢を選ぶ。祝日という、不安な毎日を少しだけ明るくてらすような未来にむかって、手と手を取り歩み出そうという彼女なりの宣言だ。
 でもそんなカネコアヤノのなにがかっこいいって、彼女はそんな生き方をボクらに押しつけるのではなく、彼女自身が身を以て示してみせるところだ。それは単に歌詞という言葉を通じて、だけではなく、そのはっきりとした歌い方やライブでの佇まいでボクらの背中をそっと前へと押してくれる。やはり彼女はそんな風に、確信的にかっこいい女の子なのだ。
 
  
  

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