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坂本龍一が希求する平和

櫻井和寿が受け継ぐ「個」を思う生き方

チャリティーソングを作るというのは、本当に難しいことだと思う。「平和」や「安全」というような、全人類が希求すべきものを歌にするとなると、荘厳すぎるものができてしまったり、理想論のようなものが生まれてしまったりするのではないか。世界を思うことから名曲が生まれるという例は、そこまで多くはないように思える。

成功例としてUSA For Africaの「We Are The World」が挙げられるだろうし、この曲は僕も折にふれて聴き返してはいる。ただ << let’s start giving >> というフレーズにふれるたび、何となく違和感をもってしまうのだ(それは僕の英文和訳のセンスが作詞者の感覚とズレてしまっているせいかもしれない)。

名曲というものは、個人的なつぶやきのようなものから生まれるというのが私見だ。たとえばジョン・レノンによる「Imagine」。 << You may say I’m a dreamer >>とレノンは歌う。それでも「I」という存在の小ささを強調することで、レノンは結果的に(少なくとも僕に)世界中の人が手を取り合う可能性を感じさせてくれる。

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日本人によって作られたチャリティーソングのなかで、僕の心に深く刻まれているのは、坂本龍一氏が率いたN.M.L.による「ZERO LANDMINE」である。地球上から地雷をなくしたいという動機から生み出された本曲は、紛れもないチャリティーソングだ。日本では「地雷を踏む」という表現が頻繁に使われるけど、文字通りの「地雷」を踏んでしまった人の映像なり画像なりを見たことのある人は、もう少し慎重に言葉を選ぶだろう。海が広がる地球上の、相当に狭いとも言えるはずの陸地に、今なお兵器が埋められていることを思うと、僕は悲しくなる。

だから坂本氏の立ち上げたプロジェクトに、僕の好きな桜井和寿氏やCHARAさんといったミュージシャンが共鳴(参加)することを知った時は、本当に嬉しかった。功労者はメロディーを生みだした坂本氏だけど、叫ぶように歌う桜井氏や、ささやくように歌うCHARAさん、そして、国外・国内に住む多くの歌い手がいなければ、この曲は完成しなかった。ただ個人的に思うのだけど、プロジェクトを推し進めた坂本氏の「最良の選択」は、デヴィッド・シルヴィアン氏に作詞を委ねたことではないだろうか。

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デヴィッドがつづったのは、英語による詞である。その日本語訳を作家の村上龍氏が担ったようだけど、あえて自分で訳してみて、私見を述べたい。この詞の素晴らしいところは「個」から始まっているところではないかと思うのだ。それは僕に「Imagine」を連想させさえする。

デヴィッドはつづる。

<<これが私の家だよ>>
<<姉さんや兄さんと遊んだ家なの>>

きっと誰にでも、大事に思う「近しい人」がいる。そして誰もが間違いなく「育った場所」を持つ。デヴィッドの詞は、そういう普遍的なことを思わせ、同時に、小さな場所から発信が始まったことを感じさせる。少なくとも僕は、そういう印象を受けた。本曲は最終的には

<<地球に再び平和を>>

というシンプルかつ荘厳なメッセージに辿り着く。それでも(くり返すように)僕が思うのは、個人的なつぶやきのようなものから始まったからこそ、本曲は輝きをもつのではないかということだ。

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上記のプロジェクトに参加した桜井氏は、のちにBank Band with Salyu「MESSAGE -メッセージ-」の作詞とヴォーカルを担当する(Mr.Childrenのフロントマンとしてではなく、Bank Bandの一員として発信を行う際は、桜井氏は「櫻井」と名乗る。また本曲の歌詞は、いしわたり淳治氏との共作である)。
「MESSAGE -メッセージ-」の収益金は、平成30年7月豪雨の災害復興支援に充てられるわけだから、これはチャリティーソングと呼んで差し支えないと思う。それにも関わらず、その詞が極めて個人的な、直接的に豪雨を取り上げてはいないようにさえ感じられる、平凡な一市民の思いを代弁するようなものであったことに、胸を打たれたのは僕だけではないだろう。

どの部分が櫻井氏に書かれたものかは分からない。僕が感銘を受けた箇所は、いしわたり氏によって書かれたのかもしれない。ともかく櫻井氏は、次のように歌い始める。

<<あれから少しでも 変わってこれたでしょうか?>>

そのように始まる歌は、他ならぬ自身が立てた<<誓い>>を守れているのか確信を持てずにいる主人公が、あきらめずに生きていこうとする様を描き出す。それは豪雨に見舞われた人だけでなく、すべての人が共有できるはずの虚しさであり、闘志であるとも思える。

Salyuさんに委ねられる2番の歌い出しも、すべての人に届くはずの「メッセージ」だと思う。

<<教室の隅 貼り出された 子供の頃の夢には 職業の種類だけが並んでた>>
<<でも本当は自分を ちゃんと愛せる自分に なることが何よりも大事だった>>

ここから連想できるのは、各々の夢を書いた子供たち、ひとりひとりの姿である。それは日本人に限らないし、学校に通っている子供にも限らないと僕は解釈している。何かしらの夢を持つ子供たちが、輝かしい明日の世界を創ってくれる。そして「世界」を構成するのは、代替することのできない個々人なのだ。それぞれが自分を愛することができなければ、それは平和な世界とは呼べないだろう。どういう道に進むにしても、どんな職業を選ぶにしても、それは誰かの助けになるはずだ。でも、その道を歩きつづけるには、その仕事をつづけるには、自分を愛するという発想が必要だと僕は思う。自分に過度な期待をせず、時として労うことが、結局は「他人を思いやる」ことにも繋がるのではないだろうか。

そのような考えを子供が持つためには、当たり前のことを言うようだけど、生きていなければならない。だから僕は、あらためて思う。この世界から地雷がなくなってほしいと。生まれ育った場所から踏み出していく子供が、危険にさらされないことを願う。豪雨を止めることは人間にはできない。それでも人間によって埋められた地雷は、人間によって除去することができるはずだ。ひとつひとつ地雷を取り除いていくことは、ひとつひとつの命を守ることを意味する。その命は、やがて<<誓い>>を立て、時に自信を喪失したりもしながら、それでも明日を見る。

僕自身が<<自分をちゃんと 愛せる自分>>であるかは、正直なところ怪しい。それでも若い人や、子供たちに向かって、何かを勧める権利が与えられるとしたら、この拙文で取り上げた楽曲を聴いてみてほしいと思う。そして「自分を愛そう」と思ってもらえたなら、恐らくは坂本氏や櫻井氏、プロジェクトに関わった人たちが、とても喜んでくれるのではないだろうか。

※《》内はUSA For Africa「We Are The World」、ジョン・レノン「Imagine」、N.M.L.「ZERO LANDMINE」、Bank Band with Salyu「MESSAGE -メッセージ-」の歌詞より引用(「ZERO LANDMINE」の訳は投稿者による)

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