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2017年7月28日

Motsuki909 (29歳)

美しき捻くれ者、FINLANDS

Vo.塩入冬湖が描く『LOVE』の世界

タイトルが『LOVE』というアルバムの内容を想像してみてほしい。きっと、愛だの恋だの、良くも悪くも普遍的な音楽だと思われるに違いない。今まで日本だけでなく、世界中で『LOVE』と銘打たれたアルバムはリリースされてきた事と思う。しかし今回、FINLANDSが作り上げた『LOVE』の意味するところは、大きく予想を裏切るものだった。

Vo/G.塩入冬湖とBa.コシミズカヨからなる、FINLANDS。既に音楽業界の各媒体で取り上げられている、女性2人組バンドである。2012年の結成以降、4枚のミニアルバムをリリースし、昨年には1stフルアルバムも世に送り出している。廃盤となっている1stミニアルバムを除き、全ての作品のタイトルを1つの英単語で表してきた彼女たちが、今作で選んだのは『LOVE』だった。直訳すれば愛。ジャケットも鮮やかなピンク色に、お馴染みとなった顔の見えない女性の全身が写し出されている。この時点で、FINLANDSを知らない人でもジャケ買いしたくなる出来栄えである。そして、その選択は一聴すれば大正解だったと思うに違いない。

彼女たちには凄まじく大きな武器が2つある。まず1つ目が、塩入の“声”である。曲調を問わずして随所で繰り出される、フレットノイズのような高音は、一度聴けば耳に残って消えないインパクトがある。とあるインタビューで、意図的なものではなく癖のようなもの、と語っていたが、その自然さが他には聴かれない独特な発声を武器たらしめている要因とも言えるだろう。劈くような、絞り出すような、何とも形容しがたい歌声に不快感は微塵も感じられない。激しい曲には疾走感と焦燥感を、バラード調の曲では癒しすら感じる柔らかさを、それぞれにもたらしている。誰にも真似の出来ない、言わば天賦の才である。

そして2つ目は、その歌詞だ。クレジットこそ記されてはないが、塩入が歌詞を書いており、その言葉選びのセンスには驚かされる。アルバムの1曲目を飾る『カルト』は、煌びやかなメロディとは裏腹に、上手く通じ合わない2人の心の機微を絶妙に描いている。胸に走る何らかの痛みを《光線》と比喩し、《わたしの名前は悲劇なんかじゃないわ》と、抵抗している。比較的、恋愛を連想させやすい内容に『カルト』と名付けてしまうあたりが、実にFINLANDSらしい。M-2『フライデー』では随所に某週刊誌を想起させる言葉が並ぶ。今作で1番のキラーフレーズとも言える《わたしとあなたがたまに持ち寄る 夜明けの仕組みに少し似てる》からは、大人の色気が漂う。1曲目では憂いていた、すれ違いを楽しんでいる様子すら伺える。M-4に至っては結婚詐欺が裏テーマとの事で、《骨まで食べて》には加害者と被害者の、双方からの目線が盛り込まれている。お互いに茶番めいた色を薄々感じながら続ける関係を、塩入はいっそ必要悪と考えているのかもしれない。M-6『サービスナンバー』には、およそ歌詞とは思えない非日常的な言葉が並ぶ。平凡である事を受け入れながら、その平凡さを俯瞰的に風刺している様に感じられる。婉曲な表現のオンパレードは、捻くれ者と写るかもしれないが、彼女たちには褒め言葉だと思えてしまう。

本作のタイトル『LOVE』は、“興奮”を意味する言葉として用いられている。本作に限らず従来の作品にしても同じ事が言えるが、塩入の書く歌詞や言葉はシンプルに難解である。聴き手が脳内補完できる余地が、たっぷりと残されている。そもそも歌詞に意識が向くより先に、彼女の歌声が主導権を握ってしまう為、なかなか真相に近付けない。裏を返せば、彼女たちの楽曲は何度も何度も聴き続ける事で、その度に新しい刺激を与えてくれるという事でもある。言葉の真意を探った結果は十人十色だ。おそらく塩入が用意していたであろう真相にも、きっと近付けないだろう。それでも彼女たちの楽曲は、心を鷲掴みにする何かを孕んでいる。その要因もまた、聴き手の感性に委ねられている。願わくば、このアルバムを聴き終えた時に『LOVE』の意味が“愛”ではなく、“興奮”となっていれば幸いである。

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