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第一印象が良いバンド、My Hair is Bad

「出落ち」を知らない3人組

 人間には第一印象という概念がある。それによって人とどう付き合っていくのか残酷ながら数秒で決められると言われている。では音楽の第一印象というのは存在するのだろうか。もちろん存在する。サブスクリプションで音楽を聴くのが主流になりつつある今、イントロが短くサビまでの展開が短い曲が多い。これはきっとその曲の第一印象で最後まで聞くかどうかや、そのアーティストの他の曲を聴くかどうかをリスナーが判断していることに起因しているだろう。しかしお笑いや演劇で「出落ち」という言葉もあるように、イントロのインパクトだけにフォーカスされてしまう場合もある。とはいえ、やはり第一印象というのは不明確な曲の像を最初に浮かび上がらせる重要な役割を果たす。
 特にMy Hair is Badの曲の第一印象はいつも私の胸に深く刻み込まれる。まず彼らを語るのに“真赤”を外すわけにはいかない。この曲の再生ボタンを初めて押すとほとんどの人がドキっとするだろう。

《ブラジャーのホックを外す時だけ 心の中までわかった気がした》

ボーカルの椎木知仁はこのフレーズを丁寧なアルペジオを弾きながら紡ぐように歌う。これを最初に聴いたとき、「ブラジャー」という言葉のパンチがかなり強く生々しい映像が頭の中に流れた。しかし冷静になると、この曲で主人公が心の中まで分かった気がした事実はあくまでも過去であることに気づく。それから速まるアルペジオと椎木の感情の昂りにあおられドキドキさせられ、“僕にと、鍵、残して”と言い放たれるとともに音圧が一気に大きくなる。一見、スローテンポな失恋の歌だと想像するが、衝動的なバンドサウンドの裏切りが癖になる。しかもMVでは楽器陣が一斉に入るタイミングでバンドロゴが映し出されるのでバンド名と曲が離れづらくなるのだ。リスナーにブラジャーのホックを外すという具体的な行為を繊細に描写させつつ、恋人との別れを通して新しい季節のはじまりを予感させている1曲となっている。
 一方で、恋愛の曲とは分かるはずがない歌い出しもある。“グッバイ・マイマリー”の始まりはギター、ベース、ドラムの全てが荒々しく鳴らされる。この非常に疾走感のある前奏の後に急に音が止まって椎木はこう歌う。

《都会の乗り換えも慣れた六月の正午》

前奏からのこの流れにはかなり若さが溢れている。というのも最初のサウンド面での勢いもそうだが、この歌詞から気持ち新たに上京してようやく新生活に慣れてきた人について歌われることが分かる。最初にこの曲を耳にしたとき、ここだけを聴いても日時しか分からないのにボーカル以外の音が消えるため、それが強烈に頭に残った。その上リアリティのある具体的な言葉が使われており、やはりその場が容易に想像できる。その後は楽器と矢継ぎ早なリリックの疾走感に飲み込まれていると歌詞に彼女が出てくる。確かに“グッバイ・マイマリー”というタイトル通り、この曲は失恋の曲だ。“真赤”もこの曲も失恋について歌っており、曲の冒頭からサウンド面からも歌詞面からも胸を締め付けられるような現実感がある。しかしは春から夏へ向かうこれからを歌う“真赤”とは違ってこの曲は彼女と過ごしていた過去への悔恨が表されている。
 そして、My Hair is Badが2017年に発売した「運命/幻」の両A面シングルは特筆すべきものがある。まず、このCDを再生するときに流れる1曲目“運命”の冒頭はボーカル始まりだ。

《偶然だった 最後の最後であの日と同じ服》

このように歌って《僕は悟った》という言葉でポーズが生まれる。このポーズまではずっと彼女と最後に喫茶店に行った時の情景描写だ。別れる予定の恋人の変化したところ、しなかったところが冒頭30秒でありありと描かれている。その後は彼女との別れを決意した心情描写がされている。つまり冒頭はあくまでも喫茶店の状況を描きこれから何かが起こりそうな雰囲気を漂わせているが、ポーズの後には彼氏の感情が爆発している。
 そして2曲目に入るとまず聴こえてくるのはこれだ。

《真夜中に目覚めちゃった なぜか泣いてしまった》

“運命”とは一転して静かなギターとあかりが一つ一つポツポツと付くような言葉の置き方、歌い方に驚く。また、“運命”が昼の喫茶店が舞台だったのに対し、真夜中のベッドが舞台になっている。そして“運命”が彼氏目線だったのに対し“幻”は彼女目線であることもじょじょに分かる。つまり昼に喫茶店に行った後の夜という時間経過を感じることができるのだ。このように違いを見出しながら、2曲連続で聴いていると恋人関係を解消したところで心の距離は本当に変わるのかどうかを疑問に思った。この両A面シングルは最初の30秒で立場の違いを明確に表現するMy Hair is Badのバラエティの広さ、そして第一印象の強さを象徴する作品だ。
 さて、ここまで曲の冒頭にフォーカスしてきたが、やはりMy Hair is Badに「出落ち」という言葉はない。冒頭でインパクトを残しつつ曲を聴き終わったときにはもう一度冒頭に戻りたくなる。それほど最初の1フレーズは曲の核心を付くようなものなのだ。もちろんそれはライブでも同様で、ステージに出てきてから最初の1音が鳴らされたときのフロアはすでに凄まじく熱狂している。サブスクリプションやYouTubeによって音楽の消費スピードが瞬く間に加速している現代に、My Hair is Badの第一印象はリスナーを掴んで離さないだろう。

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