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Every Little Thingが生んだ友愛

男女の垣根さえも取り払う楽曲

はじめて「カラオケ」に行った日のことを覚えているでしょうか。

俺は覚えています。それはのちに親友となる男が(当時は笑みを浮かべることが少なく、俺のことを好いてはいないようにさえ感じられた男が)不意に「遊びに行かない?」と声をかけてくれた日でもあったから。高校に入って、しばらく経ったころのことです。

どうして多くのクライメイトのなかから、俺を選んで誘ってくれたのか、今に至るまで分かりません。訊ねれば答えてくれるかもしれないけれど、たぶん訊ねることはないと思います。とにかく、その日に感じた、どうして俺なのだろうという戸惑いと、もしかすると「幸せ」のようなものが幕をあけたのかもしれないという期待感を、ハッキリと思い出すことができます。

歌が下手くそで、遊び慣れしてもいない俺にとって、様々な曲を朗々と歌い上げる彼の姿は、あまりにクールでした。美男子であり、見るからにスポーツができそうな彼が、美声まで持っていることに嫉妬を覚えました。はたして俺とこいつは、対等な「友だち」になれるのだろうか。そんな不安を感じはじめた時に、彼が歌いはじめたのが、Every Little Thingの「For the moment」だったのです。女性ヴォーカルの曲を彼は選んだのです、歌詞に共感するんだよねとポツリと言って。

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Every Little Thingのことは勿論、嫌いではありまでんした。ただ(たとえばスピッツのような)アコースティックギターを抱えるフロントマンのいるバンドが好きだった俺にとっては「大好き」と呼べるほどの存在ではありませんでした。たとえば「Dear My Friend」のイントロを聴いた(別の)友人は、それが名曲であることを認めつつも、まるで格闘技のテーマソングのようだと語り、俺も同じような印象を持っていました。あまり抒情性は感じさせないという意味だったのだろうと思います。

それでも俺や、その友人は、華やかなアレンジにばかり心を奪われ、歌詞の細やかさに気づくことはできなかったのです。そう、男の共感さえも誘うような細かさに(人間を男女で分けることは無粋なことかもしれません、どちらを名乗るか決めかねている人もいるわけだから。それでも敢えてEvery Little Thingの普遍性を強調するために、本文では男女を分けます)。

持田香織さんは歌います。

<<不安だけが駆けめぐるよ かなり嫉妬してる>>
<<靴の音 心に鳴り響く>>

そんなフレーズを、エモーショナルに歌う(のちの)親友。そうか、こいつにも<<嫉妬>>をいだく時はあるのか。<<靴の音>>が聴こえるほどに、センシティブになってしまうことがあるのか。そうやって「こいつ」は「きみ」になり、俺は彼のことを、自分と同じような弱さをもった人間なのだと思うようになりました。

そうやって「ひとつの友愛」を生んでくれたのは、持田香織さんかもしれません。その声調が、コケティッシュでありながらも力強い、男をも代弁してくれるようなものであったからなのかもしれません。あるいは本曲の詞を書いたのが、五十嵐氏という男性であり、その「女性の心中を推し測ろうとする誠意」にこそ、俺たちは感謝するべきなのかもしれません。ともあれ「For the moment」は、意固地な俺の心をも溶かし、親友の差し出してくれた手を握ろうという気持ちを起こしてくれたのです。

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よく歌詞を読んでみると「Dear My Friend」も繊細な曲です。男女間の友情というのが成立するものなのかは、意見の分かれるところだと思うけど、俺が高校で初めて言葉を交わしたガールフレンド(女性の友だち)も、やはりEvery Little Thingを愛聴する人でした。俺は彼女に恋心をいだいたわけではないし、それは向こうも同じ。だから作中の登場人物たちのような関係にあったわけではないけど「Dear My Friend」を聴くと、彼女の顔が浮かびます。どうやら国際結婚をしたらしい彼女は、今どんな暮らしをしているのかな。

<<共に過ごした日々が懐かしい>>
<<恋心抱くよりも 解り合える 語り合える>>

それを理想論のようなものだと受け止める人がいたとしても、俺にガールフレンドを作れたのが奇跡的なことであったとしても、俺はEvery Little Thingを信じているし、きっと彼女も信じているのではないかと思います。そういう意味では、もう二度と会わないかもしれない俺たちは、いつまでも「Dear My Friend」同士なのだと思う。

そうやって男女を問わない、温かな心をもった人の存在を想うことで、どうにか今日まで、俺は生きてきました。いつまで生きられるかは誰にも分からないことだけど、少なくとも今、生きて駄文を書いていられるのは、彼や彼女のお陰だと思う。そういった感謝を手紙に書くより、他ならぬEvery Little Thingの「All along」が収められたCDでもプレゼントしてあげたいです。

<<空回りしたけれど 助けてくれた人達>>
<<これからも ずっと ありがとう>>

俺は今、親友と、物理的には遠く離れて暮らしています。それでも彼が声をかけてくれた日のこと、「For the moment」を選んで歌ってくれたこと、そのなかに<<嫉妬>>という単語が含まれていたこと、いつも胸のなかにあります。だから俺が送るLINEや、彼から送られるLINEが、時に簡素なものであっても、きっと色々なことを分かりあえています。恋人のように毎晩<<また あした>>を言い合う関係ではないけど(お互いの生活があります)Every Little Thingが生んでくれた友愛の情は、そう簡単に崩れるものではない。

俺は本来的には「カラオケ」というものを好みません。互いに年を重ねた俺たちは、たまに会う時には静かに食事をするだけです。それでも、あの日、小さなカラオケルームのなかに響き渡った「For the moment」は、ずっと鳴りつづけています、少なくとも俺の心には。

<<ホントのホントは、きっと 君だけしか知らない>>

そうEvery Little Thingが歌うように、俺たちは互いを百パーセント理解してはいないと思います。それでも互いの無事を願ってはいる。色々なことについて、最終的な決断を下せるのは当人しかいないものだと思うし、そういう意味では俺は彼に甘えられない。彼もまた俺に甘えてはきません。ただひとつ、言い切れるのは<<君がいて 僕がいれる>>ということ。俺は彼を孤独にはさせたくない。非力な俺に具体的に何ができるか、それは分からないけど、心は近くにいます。

<<ずっと一緒に、いれたらイイネ。>>

※《》内はEvery Little Thing「For the moment」「Dear My Friend」「All along」「また あした」の歌詞より引用

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