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壊れてもいい

the pillows 結成30周年公演から数ヶ月

「俺たちは遠回りをしたんじゃない、近道をしなかっただけだ」。25周年記念ライブの時、まるで10代の少年少女に戻ったかのように顔を輝かせる大人たちの前で、そう断言してみせた。大きな岐路に立たされて迷っている私にはとても眩しく思えた。
 

同世代バンドのミスチルやスピッツがヒットを連発し90年代の音楽チャートを賑わせる中、the pillowsというバンドは人知れず「音楽業界への遺書」を書いていた。『Please Mr.Lostman(1997)』というアルバムはリーダーの脱退や売り上げ不振など数々の苦悩を抱えてもがいていた彼らによる、泥沼の底からの手紙だった。
 

それから20年、pillowsは活動休止を挟みながらも根強いファンをじわじわ獲得しつつ精力的に音楽活動を続け、遂に結成30周年公演を横浜アリーナで行う運びになった。本人達は「行きたいファンがチケットを手に出来るように絶対に売り切れない場所を」と宣言したが、幸か不幸かチケットは余裕を残して完売。バンド史上最大規模の会場で一夜限りの宴が幕を開ける事になる。
 

2019年10月17日。平日の横浜アリーナ。秋の寒い風が身体に染みる夜だった。
 

慣れない広い会場の中で人混みを抜け席に着いた私の前には、pillowsのライブで今まで見たことないくらいの大勢のファンが広がっていた。私はpillowsがデビューした頃はまだこの世に生を受けてはいなかったし、あの日あの場所に至るまでに彼らがどれ程の苦悩や挫折を経てきたのかは、インタビューなど僅かな断片からしかうかがい知ることが出来ない。だが眼前の光景は、目に見える彼らの確かな足跡として、そこにあった。
 

会場が暗くなってからの事は、実は夢現であまり記憶にない。ただ、『Swanky Street』の演奏が一番印象に残ったのはよく覚えている。それは横アリの大舞台でイントロの入りを盛大に間違えたから(それはそれで印象的ではあった)ではなく、確かで力強いギターロックに乗せて

<<僕らは間違いながら 何度も傷ついたけど>>

と歌い上げる彼らの姿に熨されそうになったからである。
 

この曲は上述した『Please Mr.Lostman』に収録されており、つまりは彼らがまったく売れていなかった頃に生まれた。サビの

<< Swing god gun,I need it low demon Brakeなんて踏まない>>

という歌詞は、元々の「信号が何色でも」という表現がレコード会社の規制にあったからだと言われている。
 

この曲から20年、山あり谷あり紆余曲折を経て走り続けた彼らは、演奏中にステージからどんな光景を見て何を考えていたのか。30年すら生きていない私には推し量ることが難しい。けれど、30周年公演を終えてロングバケーションに入ったpillowsはそのステージでやっと「ブレーキを踏んだ」のだと思う。
 

私たちは生きていく上でどれだけ「間違うこと」や「傷つくこと」を許容できるのだろう。何か少し問題があればたちまち拡散・炎上してしまう現代では、誰もが「間違い」や「傷」を避けている、そんな気がしてならない。かくいう私も歳を重ねるにつれて目先のミスや壁を恐れ、何かを「する」理由よりも「しない」理由を無意識に率先して探し、安心することが増えてきた。
 

だが彼らの音楽は、それで本当にいいのかと真っ直ぐに問うてくる。それはきっと彼らがこれまで傷付きながらも時流に身を委ねず、その時その時に自分達の信じる音楽だけに向かって突き進んできたからこそだ。
 

だから暫く私もブレーキを壊して走ってみようと思う。本当は近道や回り道などは無く、前だけ見据えて駆け抜けて振り返った時に初めて自分の「道」があると、the pillowsの音楽が叫んでいた気がした。

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