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一億総迷子の亡国に鳴り響く力強い音

GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーの果てない想像力

SNSで1/29発売のGEZANの新譜『狂(KLUE)』の情報を知った。
多くの人が絶賛していた。すぐにサブスクで聴いてみた。
不穏でこれから何か凄いことが起こるのを予感させる不穏なベースラインとバスドラの響き、「今、お前はどこでこの声を聞いてる?」(『狂』)という挑戦的な囁き。ゾクゾクした。
だがわたしはまだシティポップでチルっていたい、だってそれがラクだもの。停止ボタンを押しこの声を拒絶する?どうしよう?そう思いながらあっという間にアルバム一枚を通して聴いてしまった。43分、一瞬だった。打ち込み、ループ、ダブ、うねるベースライン、がなるギター、何もかもが最高に気持ち良かった。令和のレベルミュージック。
わたしは具体的に政治家の名前を歌詞に登場させるような曲はあまり好きではない。しかしGEZANは政治家の名前を登場させながらも「政治の歌じゃない」と歌う。
そして本当に政治の歌じゃない。

わたしはブラック企業でメンタルを病み、10年以上もの間精神科に通院した。その後断薬を試み地獄の離脱症状に苦しんだ。胃腸をやられ、食べられない日が続き2度入院もした。体重は15kg落ちた。睡眠薬を飲まないと眠れない体質になってしまったせいで断薬直後は全く眠れない日が一週間続いたりもした。徐々に睡眠を取り戻せてはいるが断薬後2年が経過しようとしている今なお、わたしの平均睡眠時間は3時間だ。だからすぐに体調を崩す。頭も働いていない。わたしをこんな廃人にした社会を恨んだ。しかしこういう人間はわたしだけではない。職場や家庭や人間関係、デマを垂れ流すメディア、訳のわからない政治、支配者たちが勝手に始める戦争。SNSでは保守とリベラルが罵倒し合い、一般人は有名人を叩くことで鬱積したストレスを解消する。マウントを取り合い、いいねの数で承認欲求を満たす。侮辱したつもりが侮辱され、差別したつもりが差別される。いくらでも情報を受け取ることができる代わりにいつどこで攻撃されるやもしれぬ危険を孕む。あらゆる人々がいつでも被害者にも加害者にもなる現状。まともに向き合っていたら気がふれてしまう。言わば戦場。

「インターネットが/神さまのかわりをして/誰を救ったの?」(『東京』)

マヒトゥ・ザ・ピーポーは頗る短いセンテンスで真実に切り込む。
わたしはかなりどっぷりとSNSに浸かっている人間だ。自分と違う考えを発信する政治家に挑戦的な文章を送りつけたこともある。しかしそんなことをしても何も変わらない。そんなものが相手に届いているかもわからない。自分の内側に湧いたマイナスの感情を自身で増幅させ更なるマイナス思考に陥るだけ。

「吐いた唾は帰る 必ず hate is back to you 必ず」(『東京』)

まさに。
何かのせいにしたかった。この世界のシステムが良くないのだと思った。
代表者が戦争を起こす、代表を決めるから賛成派と反対派の間での言い争いが起こる。搾取する側とされる側との対立が起こる。差別が起こる。政治のシステムを直接民主制にし、何事も一人ひとりの意見を尊重し合い決めれば良いと思った。
でもどうやって?その方法は見つからない。
考えあぐね、どうにもならないことならば、わたしはいっそ社会で起こる事象について、話題のニュースについてなるべく触れず、自分の中に取り込まず、何も考えない、何も発信しない傍観者でいようと思った。
世の中で起きていることに目を背け、自分の好きなこと、楽しいことだけを考え、音楽と映画と美味しい食べもの、美しい景色、そんなものだけを見ていれば絶対に傷つくことはない。
誰にも何にも期待をしなければ、裏切られることも落胆することもない。
もう二度とうつ病になんかなりたくない。将来のこと?この国の未来?アーティストが訴える社会問題?励まし?そんなものは知らない。メッセージソングに少々感動したからと言って、そのアーティストを支持したりはしない。
資本主義経済の下で鳴っている殆どの音楽は大衆に消費されいずれ消え行くもの。その時代に良ければ売れれば良い。ほんのひととき、快感を与えてくれればそれでいい。

『狂(KLUE)』はそんなわたしの諦念をいとも簡単に揺さぶった。このアルバムを通して聴いた後に言い知れぬ爽快感と感動を覚えるのは、GEZANが政治的、社会的な問題を愛と想像力で包んでいるからだ。

「理屈じゃない/素晴らしい世界で/甲州街道 吹き抜けた風 混乱と生きた日々に/幸せになる それがレベルだよ」(『I』)

攻撃的な音で散々問題提起をし、世の中をディスった挙句、最後にこれでもかというほど優しい音に乗せて世界は素晴らしい、すべてを信じ愛している、レベルとは幸せになることだと歌ってのける。
自分が勘違いをしていたことに気づいた。レベルミュージックの目的とは体制に抗うことではない。幸せになること。
このアルバムを最後まで聴けばすべての言葉が愛と想像力からの発露であったことがわかる。
全曲がBPM100で作られているのは全部同じ人間から出たものだということを表しているのかもしれない。

GEZANというバンドとマヒトゥ・ザ・ピーポーという人間にとても興味が湧き、YouTubeで観られる限りの動画を見た。ライブの様子に度肝を抜かれた。マヒトの野生の獣のような覚悟と決意を湛えた目、魂の底からのシャウト、声や表情だけでなく、その細い身体全体を使ってのパフォーマンス。こんなに全身全霊でライブをする人を見たことがないような気がする。きっと音楽をやる為に生まれて来たのだろう。
大抵のアーティストは音源とライブが別物だがGEZANはそれが顕著だった。だが動画ではわからないことがたくさんある。どうしてもその場の空気を吸いたい、生でこの音を聴きたいと思い、ツアーの仙台と恵比寿のチケットを入手した。こんなバンドのライブを観てしまったら膝から崩れ落ちるかもしれない。何でもいい、とにかく観たい。

GEZANの過去作やマヒトのソロ作品や他のアーティストへの提供曲を聴きまくった。
2017年リリースの『Absolutely Imagination』やマヒトが川本真琴に提供した『へんないきもの』を聴いて、かつて若者たちの絶大な支持を集め、多くの人の心の拠り所であったブルーハーツが響かなくなった令和の日本にカウンターパンチを喰らわすのがGEZANでありマヒトゥ・ザ・ピーポーだと思った。

ネットや雑誌のインタビューを読み漁った。はっきりと言葉にしてメディアに断言できない思いも沢山抱えているのではないかと思ったが、全感覚祭の開催を思いついた時点でマヒトの資本主義への考え方や人間に対する信頼に共感を覚える。今年の全感覚祭の実現と成功を祈った。参加する心の準備も万全である。

マヒトの著作である『銀河で一番静かな革命』を読んだ。何かの新人文学賞でも獲ったかのような小説だった。彼の文才に驚くと同時に、当たり前かもしれないがGEZANの世界観と同じものを感じた。
繋がる点と点、交差する音楽と文学。愛しみに溢れた作品。この小説にもGEZANの曲『東京』にも出てくる「ホームレスのじいさん」に、わたしは昨年12月に新宿の高層ビルの最上階から綺麗な夜景を見た直後、地上に降りた際に目に留まったダンボールを敷いて眠っていたホームレスの人を思い出す。
その人を見た当時は正直、これがこの街の現状なのだとしか思わなかった。
しかしマヒトの作品に触れると、あの人は元気だろうか、今年は暖冬だったから然程寒くなかったかもしれない、良かった、でも風邪をひいていないだろうか、などと思いを巡らせてしまう。
愛や想像力をもって作られた作品というのは、触れた者にもその愛や想像力が伝播するのだと実感する。

「あなたはあなたの宝石と、ゆうきを生きてね。またね。」(『銀河で一番小さな革命』マヒトゥ・ザ・ピーポー 幻冬舎)

マヒトの小説の登場人物である小学生の女の子が発する言葉である。どんな事態にあっても決して悲観することなく卓越した想像力で未来を見つめ、少々捻くれた物言いで、しかし真っ直ぐただひたすら純粋に愛を配る。わたしには、この女の子にマヒト自身が投影されているように思える。
マヒトはその澄んだ鋭い目で見るべきものをしっかりと見据えると同時に、優れた想像力を最大限に働かせ、カリスマ性と言い換えても良いような表現力を武器に力強い音を鳴らしている。
昨年のフジロックのホワイトステージで彼は「ここに連れて来てくれたものが金とかコネとかそういうものじゃなくて自分たちの想像力だと思ってて」「これからどんな時代が来ても想像力だけ捨てずにぶちかましましょう」と言った。

「戦いの日々よ 傷だらけのあなたよ/もう少し 戦いは続くだろう」
「ちゃんと笑えるだろう/ちゃんと笑うんだよ/そのために生まれてきたんだもの」
(『I』)

過去の自分が一体何に巻き込まれ、何と戦い、何に傷ついたのか、間違っていたか正しかったか、よくわからなくなった。よくわからないものから逃げようとしていた。傍観者であろうとした。
けれども、もう少し、できる限りの想像力で挑んでみたくなった。戦う相手を間違えないよう気をつけながら。
ちゃんと笑いながら。
大切なことを教えてくれたマヒトゥ・ザ・ピーポーに感謝しながら。

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