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Theピーズが奏でる無添加の音

なんとなく心地がいいロック・バンド

最近になって時々Theピーズを聴くようになった。多分、なんとなく心地がいいからなんだろうと思う。音的にはゴリゴリのガレージ系なのに、何故かそんな風に感じてしまう事がちょっと不思議な気がしていた。

Theピーズを初めて聴いたのは今から30年前。その当時、カステラというバンドが好きでよく聴いていたのだが、ヴォーカルの大木知之には温之という兄がいて、彼が組んだバンドTheピーズがデビューするという情報を知ったのがきっかけだったと思う。

早速、デビュー・アルバムなのに『グレイテスト・ヒッツVOL.1』、『グレイテスト・ヒッツVOL.2』なんていう人を食ったようなタイトルのCDを購入して聴いてみたところ、これがどうにもピンと来なくて、さほど聴き込むこともなく結局2枚とも手放してしまったのである。

おそらく、無意識のうちにお気に入りのカステラの方へ寄せるような聴き方をしたせいかもしれない。実際、彼らは顔が瓜二つの上、音楽性もシニカルでパンキッシュな部分において類似していたのは確かなのだけれども、本来全く別物であるものを同じ型枠にはめようとした客観性に欠けた行為が、Theピーズ本来の魅力を見落とす原因となった事は否めない。

そして現在、カステラはとっくに解散して大木知之はソロとして活動中、一方Theピーズはというと、ヒットと呼べる曲も無く、存在自体もほぼインディのような状態のままどうにか生き延びて、なんと2017年には武道館で30周年記念ライヴを開催したというのだから驚いてしまう。僕が感知していなかった30年の間には、かなりヘヴィな紆余曲折もあったらしいのだけれど、それでもバンドを持続出来たという事実に好奇心が刺激され、未聴だったCDを買い集めて30年ぶりに聴いてみることにしたのである。

入手したのは『どこへも帰らない』(1996)、『リハビリ中断』(1997)、『Theピーズ』(2003)、『アンチグライダー』(2004)といった顔ぶれ。果たしてその結果は、良い意味でズバッと裏切られたと言えるものだった。デビュー当時と比較すると、ヴォーカルを含めた音の厚みが格段に増していて、バンドのグルーヴ感をアップデートさせつつ、いい感じでラフなガレージ系の骨太ロックン・ロール・バンドへと変貌を遂げているように感じられた。

だがしかし、何度か聴いていくうちに「うーん、何か今ひとつ物足りないなぁ」という気持ちが芽生え始めたのである。同じくガレージ系のTHEE MICHELLE GUN EREPHANT、NUMBER GIRL、BLANKEY JET CITYなどの圧倒されるような高揚感が、Theピーズには明らかに希薄な気がしたのだ。やっていることはバリバリの王道ギター・ロックなのに、これは一体どうしてなのか。

それは単にサウンドの勢いやヴォーカルのキャラが違うから、というだけでは説明のつかない漠然としたモヤモヤ感が晴れたのは、ある瞬間「んっ?ピーズってサビが無いな」と感じた時だった。サビが無いというのは大げさかもしれないが、「ハイ、ここがサビ!」というインパクトの強いサビが極端に少ないのは確かだと思う。

それにしても、いつから「ロックにもサビがあって当たり前」と思い込むようになっていたのだろうか。Theピーズに限らず「Aメロ→Bメロ→サビがなくてギターソロ」なんていうシンプルでカッコいいロックは山ほどあるのに、過剰にサビ映えするような曲を摂取し過ぎたせいで、知らぬ間に感覚が麻痺していたのだとしたら、何だかちょっと情けない気持ちにもなってくる。そう考えると、Theピーズの物足りなさは、刺激に慣らされてしまった耳を正常な状態へ戻す特効薬になり得るのではないかと思ったりもする。

実際、効用は徐々に出始めている。中でもバンド再始動後の2003年にリリースされた『Theピーズ』は、まるで人里離れた湯治場に来ているような心地よさが味わえる。ギター、ベース、ドラムの音がこんなにも気持ちよく感じられたのは久々な気がする。オープニングを飾る大名曲「生きのばし」から最終曲「グライダー」に至る珠玉の全12曲、そのほとんどがゴリゴリのラウドなロックンロールなのに、まるで五臓六腑に染み渡るように優しいのだ。ぶっきらぼうで突き放すような大木温之のヴォーカルまでもがなぜか子守唄のような安堵感を抱かせる。

Theピーズのそういった効用はメロディやサウンドだけではなく、その独特な詩世界にも感じられる。痛みや悲しみに打ちのめされた者に力強く救いの手を差しのべる・・・なんて要素はほとんど無く、もう既にそんな状態なんぞとっくに突き抜けてしまったような虚無感で覆われた出口の見えない淀んだ日常、それでもまんまと生きている。そういう人間の呆れるくらいしぶとい生命力に仄かな希望を見出し、とりあえず虚勢を張っておく。それが大木温之の世界観なのではないかと勝手に解釈している。

ロックを聴くのに年齢は関係ないと思っているが、果たして今よりも若い頃にTheピーズを聴いたとして、今と同じような心地良さを感じることが出来ただろうか・・・まぁ、そんな事を考えたって、今更わかるはずもないのだけれど、おそらくは今、それなりに長い年月を生きてきちゃった今だからこそ、Theピーズが奏でる無添加の音が心に響くのだろうと思う。

(曲のタイトルはCDの歌詞カードによります)

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