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the brilliant greenが訳さなかった詞

誰かの意固地さを溶かそうとする川瀬智子

いま手もとにthe brilliant greenの2ndアルバム「TERRA2001」がある、その歌詞カードを見ている。青春期に購入したもので、聴き返すのは、読み返すのは、ずいぶんと久しぶりのことだ。ヴォーカリストであり作詞者でもある川瀬智子さんは、時に英語で歌い、また時には日本語で歌う。「TERRA2001」の歌詞カードには、英語で歌われる曲の対訳が載せられている(あるいは僕の持たないアルバムにも、同じようなサービスが用意されているのかもしれない)。それを読んでみると、自分の英文和訳のセンスが、貧困で退屈なものであることを痛感させられる。

たとえば「FUNNY GIRLFRIEND!!」の<< She does it to me, yeah she’s so nice >>という部分を、川瀬さんは<<彼女にすっごいハマってる! 何てゆうかナイスっていうか>>と訳す。もちろん英語詞を読んだ時点で、その言わんとするところは僕にも何となくは分かる(直訳のようなものをすることはできる)。でも、それに愉快な訳をつける川瀬さんの小粋なセンスは、作中の主人公が持つ友人の言動よりも、ある意味で<< funny >>だとさえ言えるのではないか。

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the brilliant greenは色々な意味で<< funny >>な存在だと考えている。「TERRA2001」に収められた曲ではないけど「Rock’n Roll」という題の付けられた曲は(少なくとも僕の感じる限り)典型的なロックンロールではない。アコースティックギターに乗せて歌われる穏やかな曲だ。歌詞も柔らかで、ゆったりとしたものである。<< I’ll paint the world your favorite color blue >>というセンテンスには唸らされる。こういう類の優しさが世界にはあるんだなと。世界を愛しい人の好む色で彩りたいという願いを、かつて僕はいだいたことがあっただろうか。

私人としての川瀬さんが、どのような育ち方をして、バイリンガルとでも称すべき作詞者となったのかは分からない。何にしても、日本語詞で届けることと英語詞で伝えることを巧みに分け、そして時には対訳を書いてくれる川瀬さんは、とても親切なアーティストだと思う。

その川瀬さんが(the brilliant greenが)あえて対訳を載せなかった曲が「TERRA2001」に収録されている。「Round and Round」だ。歌詞カードに<<アーティストの意向により対訳は省略させて頂きます>>と明記されている。その「意向」を、少なくとも僕は知らない。

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もちろん辞書を引いたり、ほかの人の意見を聞いたりしてみれば、その届けようとしているメッセージを(語学力の乏しい)僕にも察することは不可能ではない。それでも川瀬さんが、この詞を訳さなかった理由について、今から僕が述べることは完全な「推論」である。この詞に込められたのは、恐らくは近しい誰かに対する忠告のようなものであり、それを訳してしまうと日本語圏のリスナーには、いくぶんキツいものに感じられるだろうと、川瀬さんは判断したのではないか。まったく的外れな考えかもしれない。それでも僕が、センスを持たないなりに意訳を試みてみると、そこから感じ取れるのは、少なくとも「穏やかな」メッセージではない。

<< I don’t understand your cynical ways >>
<<あなたの皮肉なやり方が私には理解できないの>>

<< And stop acting like a fool >>
<<バカみたいに振る舞うのもやめてよ>>

僕が感じる限り、これは「批難」ではなく「忠告」であり、もっと言うなら愛情のこもった呼びかけである。主人公と相手が、どういう関係にあるかは分からない。それでも、理解できないからといって、やめてほしいと願うからと言って、相手と断絶したいのなら、川瀬さんは(楽曲の主人公は)最後に、こうは歌わなかっただろう。

<< I want you to understand >>

相手のかかえる問題点を嘆き、それを指摘する川瀬さんは、最後の最後には言うのだ。

<<私はあなたに分かってほしいのよ>>

と。

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僕自身も時として<< cynical >>になってしまう人間である。男女を問わない、心ある知己を持つにも関わらず<< fool >>な面を見せてしまうことはある。幸いなことに彼ら彼女らは、きつい言葉で僕を諭しはしない。ただ僕が<< understand >>することを願ってくれるような、本当に温かな人たちだ。だから本曲から僕が連想するのは、その人たちの姿である。「Round and Round」に込められた、厳しくも優しいメッセージは、まるで僕個人に寄せられているようにも感じられる。そして思う。自分で訳してみたからこそ、川瀬さんの言わんとすることが、少しくらいは自分に理解できたのかもしれないと。それが対訳の省略された理由なのだろうと持論を述べるつもりは更々ないけど。

the brilliant greenは、川瀬智子さんは<< you >>を大事にするアーティストだ、少なくとも楽曲のなかでは。「Rock’n Roll」の最後に置かれたセンテンスも、以下のような優しいものである。

<< Just you and rock’n roll yeah >>

このストレートな詞を僕が意訳するのは、きっと無粋なことだろう。それでも僕が、愛聴してきたthe brilliant greenという存在を<< you >>と呼ぶことを認めてもらえるなら、そしてthe brilliant greenの楽曲群が<< rock’n roll >>にカテゴライズされるのだとしたら、僕もまた川瀬智子さんや奥田氏、そしてかつて所属していた松井氏に同じことを伝えたい。そして、こうも言いたい。

<< I’ll paint the world your favorite color blue >>。

彼ら彼女らが何色を好むかは分からない、そして僕が世界を彩れるような絵筆を持つのかは分からない。それでも敬愛するアーティストのために、その好きな色を塗りたくりたいという「願いを持つこと」だけは、恐らくは許されるのではないかと思う。

「the brilliant green」。僕はブリリアントなものを本来的には、それほど望まない人間である(鮮やかな光を苦手とし、くすんだ色の古着や薄曇りの日を好む人間だ)。それでも、そのバンド名は、やはり素敵なものだと思う。その活動や楽曲群は、美しい緑の葉を連想させてくれる。

※《》内はthe brilliant green「FUNNY GIRLFRIEND!!」「Rock’n Roll」「Round and Round」の歌詞より引用(※「Round and Round」の日本語訳は投稿者による。また歌詞カードから対訳を省く旨も引用した)

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