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北海道札幌市の、とあるレコード店で。

クラウス・ディンガーが生きていた。

私は北海道札幌市の生まれで、札幌で育った。札幌には、HMVもタワーレコードもある。そこで私は青春を過ごした。中央区の古本屋通いもした。それが今の私を作ったのだった。札幌市内には大丸藤井セントラルがあり、そのてっぺんの階でコーヒーを飲んで暇つぶしをしたりしていた。

今はもう、ないけど、クラウトロックやプログレッシヴ・ロックのCDやレコードを専門に置いている小さい店があった。取り扱っているミュージックも、カン、ノイ!、アモン・デュール、マニュエル・ゲッチング、ファウスト、グル・グル、クラウス・シュルツェ等。17歳だった自分は、少ない小遣いで買えるものだけ買って帰り、MDにコピーしていた。

音楽雑誌に載るものには洋楽だと英語圏のものが多いけど、ドイツのプログレでも、いいものは載っているものだ。ノイ、クラフトワーク、ファウスト等は英米のアルバムに混じって、よく見るものだ。どちらがどれだけ優れている、というのではなく、こういうものがある、という紹介。レビュー。私は、カンのベストCD「カニバリズム」を初めて聴いたときのショックを覚えている。ロックとして、体はなしていて、むしろノイに比べればロックなのだが、それにしても個性的だった。マルコム・ムーニーのボーカルは異様で、『ユー・ドゥー・ライト』のボーカルは、異様すぎる。ミヒャエル・カローリのギターも、正気ではない。ヤキ・リーヴェツァイトのドラムスは、いわゆるチャーリー・ワッツのドラムスを、機械化したものに聞こえた。ともかく、正気じゃない。

実はこれらの演奏は、何時間もカンのメンバーがぶっ続けで演奏したものを、ホルガ―・シューカイが巧妙に編集したものである。もし無編集だったら、聴くにたえない雑音の塊であった。『カニバリズム』自体異様だが、実際は更に異様であった。

それはノイもそうだった。コニー・プランクがうまくミヒャエル・ローターとクラウス・ディンガーのギター、ドラムスを編集したから現代でも評価されているが、これも編集がなかったら、ひどいものであった。キャプテン・トリップから出たノイのライブを聴いたことがあるけど、ひどいにもほどがあるライブだった。聴くにたえない。これは単なる事実である。

当時のドイツの勇気ある若者は、ただ演奏したかったからしていたんだと思う。カンの面子はケルン城を根城に、好き勝手に演奏をした。それはマニュエル・ゲッチングもそうだったと思う。ドラッグの力を借りて、ひたすら快感を求めた。『E2-E4』という究極のアルバムがある。気持ちいい音楽を、ひたすら「やりたいから、やっていた」。他に理由はないと思う。カン、ノイのメンバーも似たようなものだと思う。その結果、とんでもなくユニークな音楽が生まれた。

アモン・デュール。「アモン・デュールⅡ」と別個のバンドだけど、『サイケデリック・アンダーグラウンド』という究極のアルバムがある。あきらかにドーピングセッションだ。それが不思議に心地よく聞こえるのだからすごい。行きつくところまで行った、臨界点のアルバム。こういうクラウト・ロックは、興味のない人にとっては、雑音だろう。

クラフトワークは、その中では異色なように思える。クラウス・ディンガーは、明らかにラルフやフローリアンを嫌っていた。デカいシンセを買って、大仰な演奏をしている。ドイツのアングラ層には、煙たがられるだろう。クラフトワークじたい、前身バンド及び初期の三作品は、いまだ非公式だ。

これらの個性ある作品を取り扱ってくれた札幌市のCDショップには、感謝している。ストリーミングサービスには入っていない音源が扱われていた(むろん2000年代当時、ストリーミングなどなかった)のだから。イマジネーションを大いに喚起してくれた。そのちいさな店も、もうない。大学在籍時に旭川に居たけど、そこでもクラウトロックを扱う店があった。今現在、存在しているだろうか。

有名雑誌に出ている大物バンドだけがすべてではないのだ。世界は広い。関係がない話だが、池澤夏樹が編集した世界文学全集、あれも素敵だった。ジーン・リース、ダニロ・キシュ、残雪、フォースター、ニザン、ジャン・ルオー……。すべて、素晴らしい思い出である。今でも読んでいるし、これからも読むだろう。聴くだろう。

そして、クラウス・ディンガーは死んだ。ディーター・メビウスも、コニー・プランクも、死んだ。ホルガーも、リーヴェツァイトも、ミヒャエル・カローリもいなくなった。コンラッド・シュニッツラーも、死んでいる。だが、彼らの遺した音楽は、レコードとして、CDとして残っている。彼らは音楽として生き残っている。『カニバリズム』を聴けば、いつでもホルガーに会える。『ノイ!』を聴けば、いつでもクラウスに会える。「たとい玉は砕けても、瓦は砕けない」と芥川龍之介は言った。その通りで、彼らはいつまでも生き続けるのである。

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