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ポストロック、今どうなってる?

モグワイ『ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル』の生命力

今、ポストロックという単語はどの程度世間に流通しているのだろうか。最新の音楽情勢を常にチェックしているわけではない僕でも、ポストロックがほぼ死語となっている気配は感じられる。シューゲイザーやインダストリアルなどはメインストリームでも細々と受け継がれているおかげでギリギリセーフのような気もするが、ポストロックとなると世代によっては「なにそれ?」なんて言われても不思議じゃないように思われる。

ポストロックをわかりやすく定義するなら、”ロックに代わる音楽をロックバンド形式でやる音楽”といった感じだろうか。そういった実験的な試みを、ヴォーカル抜きの基本インストゥルメンタルでやっているような音楽が、広く一般的に聞かれることが少ないのは当然だろうけれど、歌詞のメッセージ性やミュージシャンの人間性が重要視される風潮が強まれば強まるほど、純粋にサウンドだけで意思表示できる音楽の存在意義は一層高まるのではないだろうか。

インストゥルメンタルには環境音楽のように癒しを目的としたものや、クラシックのように誰もが美しいと感じることができるものがある一方、これは一体なんの目的で奏でられている音楽なんだろうと疑問符が浮かんでくるポストロックのようなものもある。そういった摩訶不思議な音楽をやっている代表格がトータスだろうか。彼らは禁欲的で起伏の少ない乾いたサウンドを得意とし、感情に直接訴えかけてくるような要素は極めて少なく、ギター、ベース、ドラム、ヴァイヴの音が淡々と繰り返し鳴り響くのみ。トータスには一見、インダストリアルやテクノなどと近いニュアンスもあるのだけれど、聴き込むほどにはそれらとは異なる特有のベクトルと音楽性が感じられる。そういったところがシカゴ音響派と言われる所以なのかもしれない。

それを踏まえた上で、ここで僕が推したいのはポストロックもう一方の雄、モグワイである。彼らはドライでストイックなトータスに比べると非常にドラマチックでウェットな音楽性を持ったバンドであり、トレードマークとなっている静寂から突然の轟音というスタイルには、アヴァンギャルドや現代音楽に近い要素も見受けられる。トータスのように頑固一徹クールなものも好きなのだけれども、複雑な感情を多彩な音で表現するモグワイにはより特別な愛着を感じる。

さて、モグワイの代表作として挙げられる機会が多いのは、ファーストの『モグワイ・ヤング・チーム』か、セカンドの『カモン・ダイ・ヤング』あたりだろうか。僕は全てを聴いているわけではないけれど、よりドラマチックでセンチメンタル成分が多めのサード『ロック・アクション』が一番の愛聴盤となっている。中でも「トゥー・ライツ・メイク・ワン・ロング」という曲は、静と轟の対比から湧きあがるカタルシス、溢れ出る叙情性、荘厳なる構成美、音の鳴りの迫力と余韻の豊潤さ、その全てが最高値に到達したこれぞ集大成と呼ぶべき名曲であり、おそらくこれを超えるものをモグワイが創造することは無いであろう。

・・・と、長年思い込んでいた僕の耳に突如飛び込んできたのが7枚目の『ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル』だった。オープニング・ナンバー「ホワイト・ノイズ」はまさに青天の霹靂、一聴「えっこれがモグワイ?」と思った。あたり一面を優雅に浮遊するギターとキーボード・シンセ、確信と喜びに満ちた重厚で強靭なドラム。この力強い躍動感と爽やかな開放感は一体どういうことなんだ。こんなのモグワイじゃない、というかポストロックですらない。いや、そんな事なんて、もうどうでもいいじゃないか。今、この耳に響いている音が最高ならそれ以外何にこだわる必要があるというのだろうか。

「メキシカン・グランプリ」の鬼気迫るスピード感、「ラノ・パノ」の豪雨のごときギター・シンフォニー、「サン・ペドロ」のたたみかけるような怒涛のエイトビート、「ジョージ・スクエア・サッチャー・デス・パーティー」の燃え上がるヴォコーダー・ヴォイス、「ハウ・トゥ・ビー・ア・ウェアウォルフ」のどこまでも舞い上がってゆくサウンド・タペストリー・・・この大いなる生命力に僕は猛烈に感動していた。これはポストではなく正真正銘のロック・アルバムである。

・・・いや、ちょっと待て。ここで鳴らされている音が放つ真のメッセージとは一体なんだろうか。愛するがゆえの勝手な妄想かもしれないが、これは、時代の寵児と担ぎ上げられた挙句、いつのまにか隅に追いやられ、消滅しかけていたモグワイが高らかに掲げたポスト・ポストロック宣言なのではないかという気がしてくる。この『ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル』は、モグワイに期待するのをやめていた僕や、「ポストロックは死んだ」などと物知り顔でのたまう輩に「いや、死ぬのはお前の方だ」と言い放つ、痛烈なるカウンター・パンチだ。

経済最優先が大手を振って闊歩する今の世の中で、受容する側の選択枠が少なくなればなるほど供給する側にとっては効率的で都合がいいのはわかる。それに対して警鐘を鳴らすほど僕はお人好しではないけれど、新しいものを消費させるために有るものを無きがごときに扱う風潮には流されたくはないものだ。モグワイが放った『ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル』の一撃には、決して多勢に流されない屈強な反骨精神が宿っているように思えるのは、単なる僕の勝手な願望に過ぎないのだろうか。

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