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aikoが愛する日本語

独創性と溢れる優しさ

時々、気分転換に、好きなアーティストの歌詞を英訳してみることがあります。どちらかというと洋楽の詞を和訳するほうが易しく、もし高校時代をやり直せるとしたら「ビートルズ訳詞サークル」のようなものを興すかもなあと考えたりもします。ただビートルズの訳詞を試みている人は多いでしょうし、青春期に戻れたらというのも叶えようのない望みです。

これは英訳しやすそうだと感じる楽曲を見つけられると嬉しいものですが、これは自分には訳せないと唸らされる楽曲と出会うというのも、別種の嬉しさを感じさせる瞬間です。

aikoの楽曲には、英訳することが難しいものが多いと感じられます。それはaikoがユニークな作詞者であることを意味するでしょうし、日本語というものの奥深さを示しもするのではないでしょうか。もちろん、どの言語も伝達や表現のための尊いものであり、日本語が他言語を上回っているなどと言うつもりは全くありません。それでも本記事でピックアップしてみたいのは、これは訳すのが難しい(だからこそ素晴らしい)と感じられるセンテンスです。

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まずは代表曲と言えるはずの「ボーイフレンド」から。

歌い出しの<<早く逢って言いたい>>や、サビの最後に置かれる<<好きよボーイフレンド>>は(ニュアンスを再現することができるかは分かりませんが)もちろん訳せます。

ただ、この部分などはどうでしょうか。

<<テトラポット登っててっぺん先睨んで宇宙に靴飛ばそう>>

本曲は「ボーイフレンド」への愛情を歌った曲ですから、作中のヒロインがテトラポットを登ろうとするほどの、空に靴を飛ばしたいほどの昂揚感をいだいていることは察せます。それにしても、日本人を母語とする私にさえ、奇想天外だという印象を与える独創的なセンテンスです。

<<宇宙に靴飛ばそう>>

これを私などが直訳してしまったら、恐らくはaikoを知らない外国籍の人には「この行為には、どういう感情が込められているのかな」と不思議に思われてしまうのではないでしょうか。「天才」という言葉は、あまり好きではないのですが、これはもう考え出そうと思って考え出せるような詞ではないと思います。

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あるいは「キラキラ」の歌詞。愛しい人が帰ってくるのを待つヒロインの、健気な姿を描いたラブソングだと思われますが、以下の部分を直訳してしまったら、aikoの言わんとすることは読み手に届くでしょうか。

<<羽が生えたことも 深爪した事も>>

ここには恐らく、どんな小さなことでも相手と分かち合いたい、聴いてほしいという切望が込められているのだと思われます。<<羽が生えた>>という非日常的な(あるいは起こりえない)ことから<<深爪した>>という日常的なことまでをも相手に伝えたいのだという切望、それほどに相手を好いているということ。それが伝わってくる詞ですが、このように理屈っぽく説明しないと、私にはaikoの世界観を(たとえば)英語圏の人たちに伝えることが困難なのです。

「あんなことからこんなことまで」とでも言い換えられそうなフレーズですが<<深爪>>という日常に根差したリアルな単語が含まれることで、本曲は「キラキラ」と輝いているのだと私は感じます。

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「ストロー」の歌詞も独創的です。

<<君にいいことがあるように 今日は赤いストローさしてあげる>>

それはヒロインのジンクスのようなものなのでしょうか。それをすれば<<いいこと>>が起こりうるという期待をこめての試みなのでしょうか。それともヒロインは、相手が<<赤いストロー>>を好むことを知っており<<寝癖ひどい>>様を見かねて、とっておきのサービスをしてあげようとしているのでしょうか。どちらでもなく、ちょっとした思い付きでさしてみる<<赤いストロー>>なのでしょうか。

私には分かりません。分からないからこそ、aikoを尊敬します。はたして私は、誰かの幸福な一日を願う時、どんなことをしているでしょうか。貧困な発想しかもたない人間です。少なくとも<<赤いストロー>>をさそうとはしません、aikoに教わるまで、そういう愛情表現があることを知りさえもしませんでした。それでも、もし誰かが私のために<<赤いストロー>>をさしてくれたら、戸惑うのと同時に、不思議な幸福感に包まれるのではないかとも思います。aikoの詞は、独創的であると同時に普遍的でもあると言えそうです。

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以上のようにユニークな歌詞をつづるaikoが、以下のように語りかけてくれる「ぬるコム 4」は、純粋な「楽曲」ではありませんが、もしかすると私が最も多く再生したトラックかもしれません(歌詞カードがないので、漢字変換するか平仮名で書くかの判断は、当方による勝手なものです)。

<<笑うのが苦手な人 人ごみが苦手な人 会社が苦手な人 学校が苦手な人>>

すべて私にあてはまりそうです、この時点で目の奥が熱くなります。aikoはつづけます。

<<君だけじゃないよ>>

いま引用しただけで頬が濡れました。ありがとうございます、aikoさん。

<<明日もいい日になりますように>>。

※《》内はaiko「ボーイフレンド」「キラキラ」「ストロー」の歌詞、「ぬるコム 4」より引用
(ぬるコム 4は「まとめⅡ」の特典DISCに収録されています)

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