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ケミカル・ブラザーズの00年代。

イギリスから遠く離れて。

ケミカル・ブラザーズを初めて聴いたのはいつだろう。たしか2003年あたりのことだと思う。『カム・ウィズ・アス』だった。旭川に居た田舎の大学生には、クラブ音楽は興味をそそられるものだった。それほどの田舎者だったのである。セックス・ピストルズが好きだった当時の自分には、アンダーワールドやケミカル・ブラザーズは素敵なものだった。他に、ジャミロクワイ、エイジアン・ダブ・ファウンデイション、レフトフィールドも聴いていた。ジョン・ライドンのソロ「オープン・アップ」は、今聴くと古臭さしか感じないけど、これも90年代当時はかっこよかったのだった。

2019年に、ケミカル・ブラザーズの新譜が出た。『ノー・ジオグラフィー』。
これは、一介のビッグビートバンドに過ぎない彼らの発展した、現代のテクノだと思う。2007年に『ウィ・アー・ザ・ナイト』を発表したとき、発売されたと同時には聴いていなかった。これは、2010年に『時空の彼方へ』へと進化する彼らの、前段階だった。もうすでにクラブ音楽の中でもテクノの時代ではなかったけれど、ケミカルはその先に進もうとしていたのだと思う。アンダーワールドは『オブリヴィオン・ウィズ・ベルズ』で、相変わらず美しいアンビエント風な音楽をやっていた。ケミカルは、毛色が違った。テクノだが、進化しようとしていた。

レフトフィールドも、殆どもう活動していない。ファットボーイ・スリムことノーマン・クックは、元祖ビッグ・ビートとしていまだ健在だけど。残っているのは、オービタル、ケミカル、アンダーワールドくらい。プロディジーのキース・フリントは、もういない。
北海道の田舎者として、90年代に活躍していたテクノのバンドが未だに活躍しているのを見るのは、なぜか嬉しい。もうテクノなど時代遅れだとわかっているのに。
『ノー・ジオグラフィー』は、はっきり言って新しくない。『時空の彼方へ』の進化系としては、素晴らしいけど。冒頭の「イヴ・オブ・ディストラクション」から「バンゴ」への流れは、10年以上前に『ウィ・アー・ザ・ナイト』に喜んだ人間には、やはり納得するけど。
アンダーワールドの『ドリフト(漂流)』は、純粋に音楽の豊かさの披露だった。カール・ハイドという人間の才能には、いつも驚く。
『ノー・ジオグラフィー』、2019年でもクラブ魂を忘れていない。「踊れ」と我々に命じている。そこから既に新しくないけど、相変わらずカッコいい。

私事だけど、アナログ・プレーヤーでジャズやオールドスクール・ロックを聴く習慣がある。近所に中古レコード店があるからだ。『ノー・ジオグラフィー』や『時空の彼方へ』はアナログで聴くものだと思っている。アナログ特有の微妙ないい感じのノイズが、ビッグビートと相性がよいのではないか。
昔、『ディグ・ユア・オウン・ホール』のLPを持っていたが、手放してしまった。あれはアナログで聴くには素晴らしい。冒頭の「ブロック・ロッキン・ビーツ」の興奮は未だ、CDで聴いてもイイ。

テクノは、ある意味で現代のプログレッシヴロックではないか。別にテクノバンドがすべてB面の全てで大仰な演奏をするわけではないが、実験精神とアヴァンギャルドな演奏は、70年代から舞台が90年代に変わっても、我々に受け入れられている。
ケミカル・ブラザーズは、10年代の終わりでも、90年代風のプログレを頑なに行っていた。ギターもベースも使わず、快楽と実験を尽くしていた。ロック・ポップスに馴染みのない人間には単なる雑音だろうが、00年代に彼らに会い、聴いてきた人間からすれば、その雑音がいいのだ、と開き直ることにしている。これは、少々値段が高くてもアナログで聴くべきかもしれぬ。

片やアンダーワールドは、ひたすらに美麗なメロディを我々に供給している。もう90年代から生き残っているテクノなど皆無に等しいけど、音楽という実験の場で、彼らはひたすら音の快楽を求めていた。それは、北海道の田舎にいる自分にも届いていた。そういえば、マッシヴ・アタックはまだ活動しているそうではないか。久しぶりに新作でも聴きたいけど、どうだろう。もうテクノの時代でもなく、トリップホップなど忘れられているけど、実験精神を忘れて欲しくはないと、ひたすらに思う。と、札幌市内で未だにアナログでジャズを聴いている人間が思うことである。

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