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音楽がなきゃ大事なことだってすぐに忘れてしまうから

The Songbardsが唄ういとおしい普遍

 澄んだ声が、音が、言葉が、どこまでも響いていく。2列目、ぐんと手を伸ばせば届いてしまいそうなくらいの距離なのに、圧倒的な存在感がこの距離をやけに心地よいまま、遠く大きく見せる。The Songbardsは、どこまで広がっていくんだろう。
 あぁ、音楽とは、表現とは、なんて切実なんだろう。
  

 まるごと瓶のなかにでも閉じこめてしまえないかと思うくらいきらきらした夜だった、2月2日、HEAVEN’S ROCK宇都宮2/3(VJ-4)で、Helsinki Lambda Club、ズーカラデルとの対バンで行われた6公演目のThe Songbards CHOOSE LIFE Release Tour。
 最高の音楽を聴かせてくれた他の2組の曲ももちろんのこと、あの日に演奏された曲ばかりを聴きながら熱が冷めないままにこれを書いているのは、音楽に明るくなどなくても、愛してやまない音楽を伝えるために、愛してやまない“言葉”という表現を使っていたかったからだった。わたし自身も、切実であるために。
  

「昨日見たバンドがとんでもなく良かったの」
 大好きな友達が興奮気味に教えてくれたのがきっかけで知ったThe Songbards。一緒にライブに行こうと誘ってくれて、曲を聴きこんで行ったサーキットフェスではじめて彼らのライブを見てすっかりファンになってしまい、わくわくしながら待っていた、11月20日にリリースされたメジャー1stアルバム『CHOOSE LIFE』。

 舞台の幕が上がるようなドラムで始まり、垣間見える悲劇的な切なさとそれに覆いかぶさるような強い熱情、妖しさに胸を掴まれる、シェイクスピアの『オセロ』をモチーフに描かれた『Othello』、
 ベースラインと口笛が印象的で、個として、ひとりの自分として確かに生きていくことを軽快に鼓舞してくれるような『グッドラック・ドリー』、
 泣きたくなるような淡い声とメロディが、胸に染み込むような柔らかな情景とメッセージを歌ってくれる『青の旅』『春の香りに包まれて』など、
 口ずさみたくなるようなポップで多様な曲のどれもこんなにも鮮やかなのに、どこか懐かしい気持ちになる。乗せられた歌詞は、外国の文学や、映画をなぞらえた主題歌のようだと思った。
 確かに人が生きている、物語を垣間見ているような感触の中に聴いているわたしたちが自由にシーンを選べるような余白があって、けれど複雑ではない。
 ストレートなフレーズが捻れてしまった心にもすっと溶け込むのはもちろん音楽の力なのだけれど、それだけではなく、歌詞の中に、光だけでない、明るいだけでない普遍的な人のうつくしさがあるからかもしれない。
 
 
《生まれたが最後このはち切れそうな
ミツバチのように ぐるぐる目が回る
一人で行かなきゃいけないな》―『悪魔のささやき』

《いつか死ぬことを忘れなければ
別にどうって事はないんじゃない?》―『青の旅』

 『悪魔のささやき』『青の旅』のこの1節や『Life is But a Dream』というタイトルからわたしは、「メメント・モリ(死を忘れるな)」という、自分の座右の銘といってもいいくらい好きな言葉を思い浮かべていた。
 生まれたが最後、という強いフレーズも人生は夢にしか過ぎない、と訳されるタイトルも一見ネガティブに捉えられる言葉だけれど、けしてそうではないのだ。 
 ポジティブなだけではもちろんないけれど、それでも生きている今があって、そしていつか終わってしまう、そういう生と向き合うこと、本質的な孤独と向き合うことは、絶望でも人生への諦観でもない。
 だってもう産まれてしまったし、つまんないこともたくさんあるんだけど、こんなふうに心が揺さぶられるものに出会っちゃうときだってあって、もうどうせ自分でしあわせになるために選ぶしかないってこと、
 それぞれに目まぐるしく今を生きるわたしたちにとっては、生きていることの素晴らしさだけをただ歌われるよりずっと、これからを選び戦っていくための力強い希望だと思う。

 それからもうひとつ。繰り返し聴くアルバムの中で、何度も歌われていることがあった。
 

《失くしたものは 見つからないけど
大事なものは 多くはないな》―『風の吹くままに』

《ああいつもそばにあるのに 僕ら気づけないもの
手を伸ばし見失い 求めては旅に出る》―『オデッセイ』

《そんな大きなカバンいらないよ
歌を一つ覚えていけばいい》―『青の旅』

 メジャーデビューを迎え、これからどんどん世界を広げていくはずの彼らが歌うのは、そんな当たり前で、だけど、誰もが忘れてしまう普遍だった。
 大事なものなんて本当は数えるほどしかなくって、その数少ない大事なものを大切にすることもままならないくせに、わたしたちはすぐにそれを忘れて、どんどん色んなものを欲しがって、手の中からこぼしてしまう。
 誰にどれだけ言われたって分かってるよって突っ返してしまうようなこと、美しい音楽にのせて、歌ってくれる人たちがいる。そのおかげで、こうして、ちゃんと思い出せたりする。
 

「気軽に選択してほしい」
「音楽も、自由に選択してほしい。Songbardsの音楽を選択してくれた人たちが幸せでいてもらえるように。僕たちも、もちろん」

 興奮と感動でもちろん一言一句正しくは覚えていられなかったのだけれど、合間のMCで『CHOOSE LIFE』というアルバムタイトルについて、彼らはそんなことを言っていた。
 人生は選択の連続で、しかも自分で選ぶしかない。人のせいになんて本当はかっこわるいからしたくないし、責任とか、そういうの、みんなみんな自分につきまとってくるって、そんなのが怖くってたまらなくなるときがある。

 気軽に、自由に、選べたら。
 こうやって、今日聴く音楽を選ぶみたいに。再生リストから、The Songbardsの名前をタップするみたいに。気負いすぎず、自分の未来のために、いちばん、選びたいものを。
 それができたら、大事なこと、忘れないでいられたら、あんなふうに、あの夜の彼らみたいに、切実でいられるんだろうか。
 だって切実なものが、いちばん美しいから。

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