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聞こえますか?夢ではなく、未来より

Travis Japan「夢のHollywood」

性分もあるが、学生のうちに勢いのままにありとあらゆる音楽を猛スピードで大量に消費しすぎたせいか、社会人になってからはめっきり音楽に強烈に感激することは少なくなった。性分もある。ただ、生ぬるい夜風が通り抜ける帰り道に、自転車を漕いで最寄り駅まで向かう朝の澄んだ空気に、人の頭と頭の隙間から覗く溶けた夕焼けの車窓に、そう言う些細な日常の中にいきなり後頭部をぶん殴られるような衝撃が、心と体のずっとずっと奥で得体の知れないエネルギーが渦巻いて思わず地団駄を踏みたくなるような衝動が欲しかった。私が知らないだけで世の中には目眩がするほど素晴らしい音楽がたくさんあるだろう。でも例えば当たりくじの分からないくじ引きの箱の中に手を突っ込んでぐるぐるかき回しても引けなければ、出会わなければ、それはないものと同じだ。極端に言えば。

社会人になってからしばらくして、毎日の生活や仕事にも慣れてなんとなく、以前のように音楽に夢中になることもないのだろうなと半ば諦めていたところ、私は出会ってしまった。
初めは耳慣れない、変な曲だなと思った。

まるでミュージカルの劇中歌のような、良く言えばトラディショナルな、悪く言えば古めかしい不思議な曲だった。

 |夢のHollywood 風が舞い踊る街
 |イヤなこと忘れて Allnight Dancing

(Travis Japan 『夢のHollywood』作詞:ma-saya 作曲:Josef Melinより)

ジャニーズJr.のグループ・Travis Japanのオリジナル曲『夢のHollywood』のサビ部分だ。ジャニーズの楽曲といえば言わずと知れた名曲揃いだが、いわゆる一般的に抱かれているであろう爽やかだったりカッコ良かったりするような王道のイメージとは全く異なる雰囲気を纏っていた。(この”Allnight Dancing”と言う一見ありふれた歌詞を誰よりも彼ら自身が体現し続けると言うのは後に知ることになる。)
とにかくこの曲は、聞いているうちに見たこともないはずのハリウッドの劇場のピンクや紫のネオン看板、重厚な木の床のステージやえんじ色の分厚いカーテン、その景色が脳裏に鮮やかに浮かんでくるような曲だった。その世界観に拍車をかけるように彼らは途中から光るステッキをくるくる回して踊り始める。目まぐるしく入れ替わるボーカル、単純な動きに見えて洗練されたダンス。気品すら溢れる曲調なのに、一人称を「俺」で外してくる歌詞のテクニックも堪らない。曲中に何度も出てくる「夢」と言う言葉と、それを「掴み取れ」「駆け上がれ」という力強い言い回しは、まるで彼ら自身を知れば知るほど、一緒にページをめくっていく物語のようだった。特に面白いのは、楽曲の後半の間奏部分。タップシューズで難易度の高いステップを踏む振付があるのだが、センターの宮近海斗が「みんなも一緒に!」と観客に向かって呼びかける。まさかそんな無茶な!と思うが、そのまま笑っている観客も実際に思い思いにステップを踏む観客もいる。踊っても踊らなくても自由で、そのお決まりのやりとりまで楽しい。飽きさせない。しかも、何よりこちらが驚くほどステージ毎に色が変わり成長し、違った表情を見せる。少年たちは時に余裕綽々で、時に泥臭く情熱的に愛すべき楽曲と共に生きている。いつのまにか大人になってゆく。

この曲が今の時代にシングルカットされて、爆発的に売れるか売れないかと聞かれれば、きっと難しいだろう。でもどこかアンダーグラウンドで、重厚で、精悍で洗練された、決して流行に流されることのない、100年先の未来でも不朽の輝きを放つであろうこの不思議な魅力あふれる楽曲を、彼らが誇らしげな顔と堂々たるパフォーマンスで披露する姿にどうしようもなく胸を打たれてしまう。

後頭部をいきなり殴られる衝撃、ではなかったが、怪しくも優しい手招きに誘われるままに見たこともないような眩い夢の世界へ来てしまっていた。
イントロでギターリフが鳴って、ボーカルが歌って、ドラムとベースが追うだけが全てだと思っていた。決してそうではないと10代の頃の自分に伝えたい。音源化されていない、まだCDを買えない楽曲を好きになってしまったと言ったら驚くだろうか。それでもスポットライトを浴びて歌い踊る彼らの一挙一動が、個性豊かな歌声が、ハリウッドを夢見る一人一人のその表情が、輝く未来をうつすひたむきな瞳が、光る汗が、間違いなく今、24歳の私のど真ん中で鳴り響く音楽の全てだ。
 

今はまだTravis JapanのCDを買えない私と、いつかCDが買えるその日を夢見る誰かへ

彼らのファーストアルバム、たぶんトラック7かな、(そのくらいの粋な演出はあるかも知れない)を再生するいつかの私より

きっと夢は夢のまま、夢じゃなくなるよ。
そう遠くない未来で。

心踊るイントロが流れる、カウントが聞こえる

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