3563 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

夜更かしはデーモン・アルバーンの歌声と共に

『エヴリデイ・ロボッツ』の夜行性

夜更かしの時はデーモン・アルバーンの歌声を聴きたくなる。彼がフロントを務めるバンド、ブラーが脚光を浴びていた90年代中頃にはさほど感じることのなかったヴォーカリストとしての魅力を、25年の時を経て今ようやく感じられるようになったことが我ながら不思議な気がしている。

その当時はブラーのライバル、というか、敵対するバンドのようなポジションだったオアシスの方が断然好きだった。程よくハスキーで愚直に歌い上げるリアム・ギャラガーに比べ、デーモン・アルバーンはまるでおぼっちゃまみたいな上品さがあって、何かが足りないような気がした。なのでブラーはあまり熱心に聴くこともなく、持っていたレコードやCDは全て手放してしまっていた。

そんなブラーの評価が少し変わったのが、ギターのグレアム・コクソンが脱退してしまった後に制作された7枚目のオリジナル・アルバム『シンク・タンク』を聴いた時だった。初めは終始ダウナーでこもったような音響に面食らったのだけど、次第にその独特のマッタリとした魅力に取り憑かれ、ブラーで唯一の愛聴盤と呼べるものになっていった。

しかし、その後ブラーは長期活動休止となり、デーモン肝入りのプロジェクト、ゴリラズも、どこかいまいちピンとこなかったことも相まって、長らく彼の存在を過去のものとして葬り去ってしまっていた。それなのに、今現在は日常的に欠かせないアイテムとなっているのだから、音楽というのはホントに油断のならない気まぐれなものだと思う。

そのきっかけになったのが『シンク・タンク』以来、実に12年ぶりとなるオリジナル・アルバム『ザ・マジック・ウィップ』を聴いた事だった。グレアム・コクソンの復帰によってギター・バンドとして全盛期の勢いを取り戻した『ザ・マジック・ウィップ』が、唯一の愛聴盤だった『シンク・タンク』をも凌ぐ作品だった事にとても興奮した。

その流れで、それまでほとんど注目していなかったデーモンの純粋なソロ・アルバム『エヴリデイ・ロボッツ』も聴いてみたのである。ロック・バンドのフロントマンがソロでやると、大概が弾き語りのような地味系の音楽に寄る傾向があって、このアルバムもまさにそういったパターンのものだった。それゆえに初めは薄い印象しかなかったのだけれども、何度も聴くに従ってなんとも言えない心地よさを感じるようになっていった。

別に意識しているわけではないけれど、聴くのはたいてい夜、それも割合遅い時間帯だ。オープニングのタイトル曲が始まると、「ああ、夜も更けてきたなぁ」といった塩梅になる。デーモンの歌声は25年前からほとんど変わっていないように思えるのに、どうしてこんなにも心に染みるようになったのだろうか・・・おそらく、デーモン・アルバーンというアーティストは元々ミディアムやスローな曲との相性が良いからなのではないか。だからブラーの時はなんとなくガラじゃないような、噛み合っていない印象を受けたのかもしれない。

そう思うと、アッパーな曲が皆無で全てミディアム&スローで埋められた『エヴリデイ・ロボッツ』の出来が抜群なのも当然の結果と言える。タイトル曲を筆頭に、シンプルでメロディアスな、何度聴いても飽きのこない、デーモンのシンガー・ソングライターとしての真価が存分に発揮されたアルバムに思える。

奇妙なパーカッションとアコースティック・ギターが孤独感を掻き立てる「ホスタイルズ」、ストリングスをバックに、ささやくような儚い歌声が切なさに輪をかける「ロンリー・プレス・プレイ」、不穏なピアノの旋律に導かれザラついた倦怠感が浮遊する「ザ・セルフィッシュ・ジャイアント」、心臓の鼓動を思わせるバスドラの音が静かに響き、大切なものを失ってもなお生きてゆかねばならぬ無常を思わせる「ユー・アンド・ミー」・・・そんな物悲しい音楽を聴きながら、色々と考え事をしているうちに時計の針は午前1時をまわり、いつしか僕はウトウトと眠りに入ってしまう。耳には「ホロウ・ポンズ」の沈み込むような旋律がかすかにこだましている。

うたた寝からハッと目が覚める。部屋にはアカペラのような「フォトグラフス」が流れていて、寝ぼけた頭の近くで寂しさが小さく渦を巻いている。しまった、もう朝か、焦って窓の外へ目をやるとそこは依然として真っ暗闇、時計を見るとまだ2時前である。なんだ、ほんの数十分しか経っていないじゃないか、なぜだか妙にホッとして思わず胸をなでおろす。そして、最終曲「ヘヴィ・シーズ・オブ・ラヴ」の仄かに希望を抱かせるようなデーモンの歌声を聴きながら、僕は安心して再び目を閉じる・・・

こんな具合に、デーモン・アルバーンの歌声はいつのまにか僕の生活に寄り添う欠かせないアイテムとなり、その影響でいまいちピンときていなかったゴリラズさえもあわてて買い揃えてしまうハメになるのだから、音楽というのはいつ何時味方になるのかわからない風見鶏のような存在だと思う。この『エヴリデイ・ロボッツ』は、デーモン・アルバーンという優れたアーティストの真価に気づくきっかけを作ってくれた、僕にとっては恩人的なアルバムなのである。

(曲のタイトルはCDの日本語表記によります)

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい