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すべての人を受け入れて、唯一無二の色を生む

Official髭男dism 「ビンテージ」

「あったかい。」
それが「ビンテージ」を聴いた私の、最初の感想だった。
 
 

Official髭男dismのメジャー1stアルバム「Traveler」。既に彼らの楽曲の虜となっていた私は、2019年10月9日、日付が変わると同時に再生ボタンを押した。あえてフラゲ日には聴かず、発売日になった瞬間に「よーいドン」で聴き始めるのが好きなのだ。

明日の朝も早いのにどうしても聴きたくてたまらなかった。一部の楽曲が先行配信されており、既に聴いていたとはいえ、やはり曲順通りに聴いていこうと決めて「イエスタデイ」に耳を傾ける。
どれもこれも、本当に素敵な曲だと思った。
一つひとつの曲も美しいけれど、その曲たちを使って、アルバムという別の素晴らしい作品が作られていく過程を追っているような感覚だった。一輪ずつの花も美しいけれど、それらを使って別の美しさをたたえた花輪を編む様子を傍で見ているような。
 

粒揃いのこのアルバムの中でも「ビンテージ」は、特に私の心を掴んで離さなかった。それは、自分とリンクしたからとか具体的に誰かを思い浮かべたとか、そういう理由ではない。美しい小説を読んだ、あるいは美しい絵画や写真を見た、そんな感覚と近いものがあった。
聴き返してみては、その度に心にぽっと浮かんでくるあたたかさが、たまらなく愛おしくなる。曲に形があるのなら、そのままギュッと抱きしめてしまいたい。
 

イントロのスライドギターが心地よい。滑らかで軽やかな小笹さんの演奏には余計な“くどさ”がなく、ちょうどよい歪みがかかった音色。少し捻りを加えたあの音は、ビンテージものの絵や写真だからこそ出る、セピア色を表していたのかもしれない。

藤原さんの歌声は優しく語りかけるよう。語りかける相手は誰だろう。そう思いながら聴き進めていくと、それが「僕」のお付き合いのお相手だと分かる。慈しみに溢れたその「声の表情」に、思わず惚れ惚れとした。

メロディの裏で松浦さんが刻むビートには、確かな優しさがある。決して弱々しいわけではなく、むしろ、中央に強くてしなやかな芯が通った音。そんな安心感に身を任せながら私がこの曲を聴けていたのは、松浦さんのビートによるところも大きいのだろう。

楢崎さんのベースは、グルーヴ感が最高に良い。0コンマ何拍分かの僅かなリズムの波が、心地よいところにピタリと噛み合っている。特にサビ直前1小節のフレーズには、心が躍る。どっしりと構えて余裕を見せつつも、優しく寄り添った音。まさに楢崎さんの人柄そのままだ。
 
 

そんなことを考えながら聴いていると、とりわけ好きな歌詞に出会った。

「キレイとは傷跡がないことじゃない 傷さえ愛しいというキセキだ」

初めて聴いたときからこの歌詞が忘れられない。なんて素敵なんだろう。「あぁ、私の好きな歌詞だ…」と、直感で感じた。
 

未だに私には、恋とか愛とかいうものがよく分からない。いろんな人から間違いなく愛を受けてきたとは思うけれど、具体的にどういうものなのかと問われると、答えに詰まってしまう。
おそらく答えは十人十色だ。でも、この歌詞はその答えのひとつと言えるだろう。私にとっての最適解に巡り合った気がした。

たった17年ほどしか生きてきていない私は、残念ながら「ビンテージ」に当てはめられるような人生経験は積んでいない。だから、あの歌詞が「愛」や「恋」を表す模範解答だと言い切ることもできない。それでも、私の心の琴線に触れたのは紛れもない事実だ。
この曲を我が身に置き換えて聴けるようになったら、どんな別な味わいがあるのだろう。仕方ないことだけれど、自分の人生経験の少なさが少々悲しくもある。

作詞家・いしわたり淳治さんは、しばしば「良い歌は感情をしまえる棚」とおっしゃる。今の私には、この「ビンテージ」という棚そのものが素敵に思えて、ただただ愛おしい。その棚にしまうのにぴったりな置物を、のんびりと探している。
この先、「ビンテージ」という曲が、リスナーの手元でそれぞれのときを重ね、リスナー自身でしか生み出せない色味を帯びていく。私もこの曲とともに“大切に日々を重ね”たとき、どんな色が見られるのか、心から楽しみだ。

また「ビンテージ」は、「SWEET TWEET」に代表される髭男の甘酸っぱいラブソングシリーズとはまたひと味違った、深みのあるラブソングだと私は思う。Official髭男dismというバンド、そしてメンバー自身が年月を重ねたからこそ生まれた色が、楽曲にほんのり出てきたのかもしれないと思った。

しかし、彼らの道のりはまだまだ続いていく。私たちと髭男との年月も、まだまだ重ねていける。だから、彼らの出せる色はまだまだ変化し増えていく。「ビンテージ」と髭男と私たち、この3つが揃うことで、新たな味わいを日々生み出していける曲。この曲に出会えた私は幸せ者だ。

曲を聴いての感想はリスナーごとに異なるはずだが、それを「ビンテージ」は残らず受け止めてくれる。その懐の深さが私は好きだ。
そんな優しさを直感的に感じられるから、あの「あったかい」という感想に繋がったのだと思う。
 
 

誰ひとり取り残さず、すべての人を受けて入れてくれる、こんなかけがえのない曲に出会えることはそうそうない。自分のそばに一生置いておきたい、大切な、大切な宝物だ。

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