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相川七瀬の追い続ける夢

ギターの圧に埋もれないボイス

好きこのんでベースを手に取ったわけではなかった。なかなかギターが上手くならなかったのだ。僕には「6」という弦の数は多すぎた。ピックを通して弦に触れるという感覚にも、いつまで経っても違和感があった。それでも何らかの形で「演奏者」でありたいと願っていたので、消去法のような形で市民ベーシストとなった(キーボーディストやドラマーにならなかった理由もあるのだけど、長くなるので触れません)。

今でこそベースという楽器を愛しており、ギターを奏でることへの未練は(ほとんど)ない。それでもギタリストの出す音に、時として嫉妬を覚えることはある。相川七瀬さんの1stシングル「夢見る少女じゃいられない」の冒頭を飾るディストーションのかかったサウンドや、5thシングル「恋心」の印象的なイントロを、自分が出せたら爽快だろうなと思うことがある。

ただ、本記事で強調したいのは、そのようなギターサウンドに飲み込まれない相川さんの声調が、それこそディストーションでもかかったかのような、力強いものであるということだ。それは恐らく、強い信念を持たなければ出せないボイスなのではないか。

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織田哲郎氏が作詞・作曲した「夢見る少女じゃいられない」がリリースされた時、相川さんは二十歳前後だったはずだ。この詞に当時の相川さんの気持ちが投影されているのだとしたら、これはミュージシャンとして(あるいは1人の女性として)成長していこうという宣誓のようなものだったのではないだろうか。

<<もう自分の涙になんか酔わない>>
<<解ってる いつまでも 夢見る少女じゃいられない>>

たしかに人間は、いつまでも少女で(少年で)いることはできないし、涙をこらえることが求められる場面は、加齢とともに増えていくものだと思う。そういう意味では、ドリーミーであることは若い人にしか許されないことなのかもしれない。

それでも相川さんが、リスナーに何かを届けたいという<<夢>>をいだいているのだとしたら、少なくとも僕のもとには「何か」が届きつづけているし、多くのファンが相川さんの楽曲を愛でつづけているのではないだろうか。ある意味、相川さんは、夢を追い続けているし、リスナーを夢のなかへいざなっているとも考えられる。

「恋心」の主人公も、涙を流すことのある人物である。それに酔っているとまでは言わない。彼女は恐らく、もう<<少女>>ではないという自覚を持っているのだろう。それでも相川さんは歌う。

<<ガラス越しの闇にそっと 涙隠してる>>
<<時の迷路まよいこんだ 愛を探してる>>

本曲でも相川さんは、しっかりと<<夢>>を追いつづけているのではないか。<<愛>>というものが、探して見つかるものなのかは、何とも言い難いものだと個人的には思う。自身の内奥を見つめてみても、あるいは外界にそれを見出そうとしても、多くの場合「徒労」に終わるのではないかと感じることさえある。それでも僕は不遜にも思うのだ、夢を見ることさえできなくなってしまったら、それは退屈な「成熟」なのではないかと。

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相川さんが作詞に関わった「Nostalgia」も優れた楽曲だ。本曲の主人公も、若さゆえの弱さと、それを認めようという気概をもった、チャーミングで勇ましい人物である。

<<人の悩みなら 一緒に泣けるのに>>
<<行き交う人の波に 君に似てる背中をまた探してる>>

これが相川さんの直情なのだとしたら、<<夢見る少女>>の面影は、まだ残っている。忘れられない誰かの姿を追い続ける主人公は、ある意味では泣いている。心のなかで泣いている。

それでもデビュー20年目にリリースされた「満月にSHOUT!」には、以下のような勇猛なセンテンスが含まれる。それは相川さんの、ヴォーカリストしての、そして人間としての成長を示すものではないだろうか。

<<みんな自信なんてないからね>>
<<なんとかみんな ギリギリでやってくだけなんでしょ>>

かつて<<夢見る少女>>だった相川さんは(個人的な宣誓からキャリアをスタートさせた相川さんは)ついに<<みんな>>を代弁するような境地に至った。そう、僕だって<<自信>>など持っていない。きっと誰もが、程度の差こそあれ強がっている。色々な意味で<<ギリギリ>>の日々を送っている。それは未成熟さや弱さを意味するのだろうけど、同時に誰の心のなかにも、少年や<<少女>が生きつづけていることを示しもするのではないだろうか。

相川七瀬さんをデビュー当時から敬愛してきた人たちは、いつしか大人になっている。立場上、いくつもの叫びを飲み込むようになってしまっていると思われる。だからこそ相川さんが<<満月にSHOUT!>>と歌ってくれることに、拍手を送りたくなるのではないだろうか。

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相川さんの歌声に合わせて、エレキギターをかき鳴らせたらいいなと、ここまで書いて、あらためて思った。いい歳になったというのに、僕は未だに「夢見る少年」である。それでも、それが無様なことではあっても、悪いことだとは限らないのを、相川七瀬さんのキャリアが示してくれているようにも感じるのだ。

<<どんな時でも 正解見つかるわけがないでしょ>>

僕がギターを捨て、ベースを弾きつづけてきたことが<<正解>>なのかは分からない。もっと言うなら、相川さんの楽曲を愛聴してきたことが、はたして<<正解>>なのかも分からない。それでも、たとえそれが不正解な選択だったとしても、僕自身が選んだという事実は、もしかすると尊いものなのかもしれない。そんなことを思わせてくれる相川七瀬さんの声は、粗野なだけではない、ノイジーなだけではない。手垢のついた表現をつかえば、そこには「慈愛」も含まれている。

ありがとうございます、相川七瀬さん。できれば、まだ夢を見つづけて下さい、追いつづけて下さい。そんな姿を、きっと多くのリスナーが望んでいます。

※<<>>内は相川七瀬「夢見る少女じゃいられない」「恋心」「Nostalgia」「満月にSHOUT!」の歌詞より引用

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