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宮本浩次 独歩とサンタルチアにハレルヤ!

精神科病棟の愛すべき忘れ得ぬ人達に捧げる

エレファントカシマシのヴォーカリストであり楽曲を作っている宮本浩次が30数年の時を経て、まさに独歩たる名前のソロデビューを飾ったアルバムが発売された。
独歩と聞けば国木田独歩でしか頭に無かった響きが、今や私の中では宮本独歩だ。
そしてこのアルバムを全曲通して聴いたら、どうしても書き記したい衝動に駆られた。

私は彼よりも数年歳上で、昔はロックバンドで夢見る乙女とは自分では言わないが若人の1人であった。
読むもの見るもの出会うものすべてがバンドに繋がっていた。
時を過ごし、レコードからCDに変化していく時代を横目で見つつ、これといってゆっくり音楽を聴くこともなく生活と子育て親育ちに明け暮れていた。

息子が社会人娘も大学生で親元を離れ、相変わらずの労働とそんな中自分の趣味に時間を使える喜びとを噛み締めつつ暮らしていた中、エレファントカシマシの昨年の新春公演に接する機会に恵まれた。
はっきり言ってエレファントカシマシも知らずにいた自分であったが、たちまち熱き血潮がよみがえってくるような感覚に陥った。
その後あらゆる楽曲を聴き出した。
なんと魅力的な存在。

さて、そんな中このソロデビューアルバム独歩を語りたくなったか述べよう。

私は、第3次救命で看護助手として様々な生死の現場を経験した後、現在は精神病院の男性慢性期病棟で働いている。
そこで出会った、かつてこれほど涙が堰を切ったように流れてきた事がないほどの体験をした患者さんがいる。

彼は当時33歳。元々少し遅滞があったようだが、専門学校時代にいじめにあい発症したようだ。
すでに10年以上の入院である。
慢性期病棟といえど、彼は観察ゾーンと呼ばれる謂わば独居室で日々過ごしていた。
数時間部屋から出てきては、何をするでもないがずっと歌を歌っているのである。「サンタルチア」だ。イタリアの代表的なナポリ民謡のそれだ。
歌うと言えど言葉になんかならない。彼なりの声で延々歌うのだ。
きっと彼が中学生の頃音楽の授業で聴いたのではないかと想像する。
こちらから話してもただうなずいたりするだけの、時には食糞したりする可愛らしい人であった。年老いた父親が年に2回ほど面会に来られるくらいであったが、その彼が遠く離れた山奥の施設への退院が決まった。

慢性期病棟には数年で退院し、又、繰り返し入院するというパターンの人が多い中、彼の行く施設は二度と戻って来ることはないであろう、そんなところである。

その日はやって来た。
私なりに荷物を丁寧にまとめ用意して、休憩室で食事をとっていた。

まもなくこの数ヶ月歌うことも少なくなっていた彼が突然「聖者の行進」を口ずさみ出したのである。あのアメリカ民謡の「聖者の行進」だ。
びっくりしたことにそれだけではないのである。途中から「蛍の光」につながるのだ。スコットランド民謡のあの「蛍の光」。
延々と繰り返される彼の声に私はいてもたってもいられなくなり、彼のもとへ行き「なんでそんな歌、うたうん?なんで?行きたくないんか?」と泣きながら言ったら、また言葉にならない声で「うん、うん、うん」と表したのである。人目も憚らずに泣いた。彼もいくつかの涙を落とした。

好きな音楽、歌が彼のすべてのなかでそれが残っていたのだ。歌うことでしか表現出来ない彼の全て。

彼のようにその施設に退院する人を三人ほど見送ったがみな、別れ際私に「泣いたらアカン」みたいな表現をするのである。

そんな彼らに私はほんの小さな小さな小さなことでもいいから、幸ありますように!!!と願って祈って止まない。
 

宮本浩次という人間の歌にはそのもの自体に全てが在ると確信している。
身体の全てを使い、軟口蓋、硬口蓋を開き全身を響かせて出す声と技術は、あらゆる楽曲を自分の歌に変える凄まじい天賦の才能と努力、愛に溢れた育ちと暮らしと様々な経験が彼に宿り、それらが時には優しくて時にはこれでもかと試練を与えながら独歩を産み出した。

彼の作る楽曲は全てにおいてあらゆる旨味がジワジワ溢れ出てくるのであるが、今回の独歩では「夜明けのうた」「ハレルヤ」「昇る太陽」この三部作はCLASSIC に残る名曲であると信じている。今年はベートーベン生誕250 年である。宮本浩次の楽曲は後世にそうして残って欲しい。

宮本浩次は多くの人々に希望を与えられる役割を担った幸せな人である
サンタルチア歌っていた彼を「元気にしてるかな?」と時々思い出す。

ハレルヤ!!!「もう一丁祝福あれ」と捧げたい。
 

先日ラジオで「ジュリーの歌を自分なりの解釈で一生懸命歌った。心の底からおふくろに見せたいと思った」と言われていた。
きっと見ておられますとも!
私が親なら、地の底であろうと宇宙の果てのその果てであろうとどこに在ろうとも無かろうとも、息子の晴れ姿は見ているとも!
と、突如母目線にもなった幸せな私である。

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