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まだまだ醒めない夢の中から

SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 "MIKKE"で溢れた23年分の軌跡を

定刻通りの18時30分。

会場が暗転し舞台上に現れた10数本の電飾が、幕が開くように上へとスライドする。
そこに4人のシルエットが浮かび、きらきらと煌めくようなイントロが奏でられる。
ああ、いる。この目の前に、スピッツが。

《再会へ!流星のピュンピュンで 駆け抜けろ 近いぞゴールは》
 /見っけ 2019

音の粒がピュンピュンと飛び込んでくる。
ああ…もう…。
ぎりぎりの表面張力を保っていたナニかがぶわりと溢れた。

《ぼやけた六等星だけど 思い込みの恋に落ちた》
 /渚 1996

冴えない自分を“ぼやけた六等星”と表現する感性に、落ちたのはこっちの方だよ、と自覚したのは23年前のこと。
 

《君の青い車で海へ行こう おいてきた何かを見に行こう もう何も恐れないよ》
 /青い車 1994

派手さはないけれど爽やで、可愛らしい。甘酸っぱい果肉を思い出すようなそれが、はじめの印象だった。

《片隅に捨てられて 呼吸をやめない猫も どこか似ている 抱き上げて 無理やりに頬よせるよ》
 /ロビンソン 1995

その一方で、少しの衝撃でパリンと割れてしまいそうな、薄いガラスを彷彿とさせる繊細さが見える。

《君に会えた 夏蜘蛛になった ねっころがって くるくるにからまってふざけた 風のように 少しだけ揺れながら》
 /プール 1991

かと思えば、キレイなところだけみてくれるなよ、と言いたげな尖った部分が見え隠れする。
 

爽やかな“僕”というガワの中に、繊細で尖った“俺”を抱えて、でもその“俺”にはなり切れずに、ぐるぐるとしている男の子。
 

そのイメージはマサムネさん(Vo&Gt 草野マサムネさん)に、寸分の狂いなくぴったりと重なった。
小柄で華奢な体型も、ときどきキリっとなる目元も、さらさらなおかっぱヘアーも、ちょっとダサい服装も。
可愛らしい笑顔の奥にある複雑な世界を想うと、人間らしくて泥臭くて、とてつもなく愛おしいと思った。
昔の曲から最新の曲まで、あの曲からもこの曲からも、いろんな“僕”や“俺”を宝物のように取り出してはにんまりと眺めていた。
みんなは知らんやろう?という優越感のようなものがそこにはあったし、わたしだけがその奥の部分まで知っているような気がしていた。
 

そうやって過ごした数年のうちに少しずつ世界は広がっていったのだけれど、大学で入った軽音部の仲間たちは驚くほど一気にその世界を広げてくれた。
そこで出会った音楽はジャンルも幅広く、カッコいいものから美しいもの、エモいものまで粒ぞろいで、新しいものに出会う度にときめいた。
所謂“J-POP”にカテゴリされる音楽を軽く見るような風潮にも流され、だんだんと“僕”や“俺”を取り出してにんまりしている自分に、気恥ずかしさを覚えるようにもなっていた。

そんなときに起こったのが『放浪カモメはどこまでも』事件だ。

《いつか素直な気持ちで会いに行きたい 愛にあふれた短い言葉を 差し上げたい》
 /放浪カモメはどこまでも 2000

はじめて聴いたときには強い違和感だけが残り、数回聴いたところで気がついたのだ。

“僕”はこんなに強くないし、“俺”はこんなに真っ直ぐじゃない。
わたしの焦がれていたあの頃の彼はどこに行ってしまったんだろう、と泣きだしたい気持ちだった。
周りに目移りしている自分はしれっと棚に上げて、わかりやすくヒーローを失ったヒロインになった。

以降の楽曲も心に小さな棘がささるような想いがして、それは胸の中でチリチリチリチリと静かに焦げついていた。

けれどそれらは全て、【三日月ロック】というアルバムを聴いたとき一気に覆された。
衝撃だったのはアルバムラストの曲、ゴリゴリに歪ませたベースのイントロから始まる『けもの道』。

《あきらめないで それは未来へ かすかに残るけもの道 すべての意味を 作り始める あまりに青い空の下 もう二度と君を離さない》
 /けもの道 2002

これまでいつもどこか自信なさげに佇んでいたのに、真っ直ぐに前を見据えているのがわかった。
今まであまり前面に出てこなかった楽器の音が、ガツンと内臓に響いて身体の中にしみこんできた。

そこにいたのはいろんなものをこねくり回している“僕”も“俺”も脱ぎ捨てた、新しい“彼”だった。
これまで鬱屈していたはずの何かがスコーンと突き抜け、ぱっと目の前に快晴の青空がひろがった気がした。

それからだ。
バンドとしてのスピッツが好きになったのは。
スピッツは最高のロックバンドだよ、と胸を張って人に言えるようになったのは。

いちばんはじめに目に飛び込んできたのは、絶え間なく手足を動かす﨑ちゃん(Dr 﨑山龍男さん)の姿。前に出る派手さはないけれど、手数が多くて技巧的なドラムプレイ。
多くを語らず、いちばん後ろのポジションでバンドを支える姿はまさに屋台骨で、うたえるドラマーは職人芸で、佇まいはいぶし銀で見惚れてしまった。

エッジの効いた髪型にピアスにサングラス。オシャレ番長テッちゃん(Gt 三輪テツヤさん)は今日も尖っていた。それなのに、珠玉のアルペジオからもかき鳴らすリフからも、やさしさが滲みすぎていてニヤけてしまう。
トークでもいちばんゆるゆるしていて、実はスピッツいちの癒しキャラだなあとおなかのへんがあったかくなった。

まるでうたっているかのような、印象的なベースラインライン奏でるリーダー田村氏(Ba 田村明浩さん)。基本的に静なスタンスの他メンバーをよそに、絶好調の動で右へ左へ前へ後ろへさらには上へ。踊るうねる跳ねる。
意外にも可愛い声だし、話は長いけど、ベース弾かせると別人。激しめのベースプレイは耳も目もくぎづけにされるし、ゴリゴリのゴリゴリで誰よりもかっこいい。ほんっっっっっとにたまらなかった。

長年サポートメンバーを務めている姉御クージー(key クジヒロコさん)には何度「あなたになりたい…」と思ったかしれないけれど、多彩に奏でられる音と、男前でストイックな発言を聴いていると「完敗だ…」という言葉しかうかばなかった。

そこに乗っかるのびやかなハイトーンボイス。もはや国宝だ、国宝に認定。しなやかでぶれない、透き通ったそれは、心の中にあるもやもやとしたものもすうっと流してくれた。
独特の言葉選びで唯一無二な世界観を築きあげている、マサムネさんという存在。きっと動物だったら絶滅危惧種に指定されているであろうその姿は、尊い以外のなにものでもなかった。

目の前で展開されるそれは、夢の中にいるようなふわふわ感でありながらも、絶大なる安心感の中にあった。
 

スピッツはこれまで33年間、メンバーチェンジも活動休止もなく続けてきた稀有なバンドだ。
彼らはきっと愚直なまでに、その瞬間その瞬間で目の前にある“自分たちの音楽とは”という問いに向き合ってきた。

これはのちに旅の途中という書籍の中で知ったことだけれど、【インディゴ地平線】以降のスピッツは曲作りや音作りにおいての迷走期だった。
それぞれのパートが“もっと上手くならないと”という強い信念を持って修業を積んでいたし、違うプロデューサーやミキサーと組んで試行錯誤していた。
世間の知名度が上がったことによるプレッシャーで、不自由になったこともたくさんあったはずだ。
その時期に発売されたベストアルバム【RECYCLE】は、彼らの意思の外側で発売が決まったアルバムで、ずいぶんと複雑な事情や想いがあったようだ。

それを乗り越えて発売された『放浪カモメはどこまでも』。
あれはバンドとして蛹から蝶へと羽化する、その過程を眺めていたのだなと、今になって分かる。
そして振り返ってみれば、変態の過程で生まれた楽曲たちもものすごくカッコいい。
その変化に、わたしが追いつけなかっただけのことだ。

ここ最近はテレビに出演していても、ファンクラブの会報を読んでいても、ラジオでも、そこに在るのは変に肩に力の入っていない彼らの姿だ。
今回のライブのMCではお菓子のカールの話題に触れ「おれ、うすあじ派!」「おれ、チーズ!」などと、52歳のオジサンたちがキャイキャイと盛り上がっていた。可愛いかよ。
そんな自然体な彼らの間には、荒波の時期を共に駆け抜けてきたことで培われたであろう、揺るぎない信頼感が透けて見える。

﨑ちゃんのカウントで、重厚感のある音が一斉に鳴りはじめる。

《君と過ごした日々は やや短いかもしれないが どんな美しい宝より 貴いと言える》
《謎の不機嫌 それすら 今は愛しく 顧みれば 愚かで 恥ずかしいけど いつか常識的な形を失ったら そん時は化けてでも届けよう ありがとさん》
 /ありがとさん 2019

“死”というテーマはいつだってマサムネさんの書く詩の中に、身近にある存在だった。
だけどこんなにも日常の中に溶け込んだ“死”の歌ははじめてで、確実に年月が流れているのだということを感じさせてくれる。

多感な中学生だったわたしは2児の母となり、20代だった彼らは「後ろの方の(座席の)人達のこと、よく見えてるんだよ」と老眼をネタにする齢になった。
クージーの美しい鍵盤音に酔いしれながら、お互いに円熟しましたね、と思う。
 

そんな感慨に浸りながら油断していると、次々にキラーチューンが放り込まれる。

《燃えるようなアバンチュール うすい胸を焦がす これが俺のすべて》
 /俺のすべて 1995

唯一マサムネさんがギターを持たないこの曲では、彼もタンバリンを叩きながら右へ左へと駆け回る。
届かないのは承知の上で、思わず「マサムネさーーーーーん!!!!!」と全力で叫ぶ。
田村氏はいつもどおりベースを弾きながら動き回り、ついにシールドが抜けて音が出なくなってしまったのに、バカみたいに笑顔だ。
舞台袖ではお揃いのTシャツを着たスタッフさんが、満面の笑みで全員で飛び跳ねているのが見える。
なんて胸熱でエモでハートフルなんだよ。

ライブの終盤、マサムネさんは「ここにはまあるい空気がありますね。この空気は今日ここにいる誰が欠けても出来なかったと思います。」という趣旨のことを話してくれた。
 

こんなにやさしくて安心できるロックヒーローがいるものか。
 

山吹色の照明に彩られた舞台の上で、ラストを彩るテッちゃんのギターが響く。

《あれはヤマブキ 続くよ独自のロードムービー 陳腐とけなされても 突き破っていけ 突き破っていけ よじ登っていけ 崖の上まで》
 /ヤマブキ 2019

こうやってしっかりと前を見据える彼らに、きっとこれからも背中を押されながら生きていく。

熱に浮かされて、ずっとまともじゃないってわかってるけど、まだまだ醒めない夢の中で。

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