3162 件掲載中 月間賞発表 毎月10日 コメント機能終了のお知らせ
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

弔いと決別

-デビュー10周年を前に、amazarashi・秋田ひろむが歌う「今」と「宣言」-

「ありがとう‼」
ステージからの叫びに応えるように、終わりのない拍手と歓声が湧き起こる。
その中で私は、ひとつの物語の終わりを見たような気持ちで佇んでいた。
  

2019年7月10日、ロックバンド「amazarashi」が東京都・中野サンプラザでツアーファイナルを終えた。
同年4月29日から始まった全国ツアー「未来になれなかった全ての夜に」は、レコ発ではない初めてのものである。
(※レコ発ツアー:CD発売にあたり、お披露目や記念として行われるライブツアーのこと)
 
 
ツアーは、わずか2ヶ月強で17公演を行うという濃密なスケジュールだった。ゆえにどの公演においても思い出を語るには事欠かない。
たとえば、1公演目の大阪では緊張が見られたものの、2公演目の愛媛では早くも完成度の高い安定した演奏や歌声、感情の起伏を披露した。
ツアー後半では5月の青森公演から愛知公演までベースの中村武文氏(以下、中村氏)が欠席するアクシデントを乗り越え、翌6月には復帰した中村氏と共にあいみょんとの対バンも行った。
紆余曲折を経ながらも、各公演を終えるごとにこのツアーは完成度を高めていった。

そして全公演が終わった今、私は、ボーカル・ギターであり、全楽曲の作詞作曲を務める秋田ひろむ氏(以下、秋田氏)がリスナーへある「宣言」をしたように感じたのである。
 
 
そもそも、今回のツアーのセットリストは
「今日は、昔を振り返るライブなんですが」
と各公演のMCで秋田氏が語ったように
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1.後期衝動
2.リビングデッド
3.ヒーロー(テレビドラマ「銀と金」タイアップ)
4.スターライト(前口上あり)
5.月曜日(漫画「月曜日の友達」タイアップ)
6.たられば
7.さよならごっこ(アニメ「どろろ」タイアップ)
8.それを言葉という
9.光、再考(前口上あり)
10.アイザック
11.季節は次々死んでいく(アニメ「東京喰種」タイアップ)
12.命にふさわしい(ゲーム「NieR:Automata」コラボ)
13.ひろ(前口上あり)
14.空洞空洞
15.空に歌えば(アニメ「僕のヒーローアカデミア」タイアップ)
16.ライフイズビューティフル 
MC
17.独白
18.未来になれなかったあの夜に(初公開)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と、これまでにタイアップやコラボを行ってきた曲を織り交ぜつつ、amazarashiの原点やこれまでの軌跡を振り返る曲「スターライト」や「光、再考」「ひろ」を前口上と共に交えながら、最後に新曲「未来になれなかったあの夜に」で締める構成であった。

本公演において、秋田氏が振り返る「昔」は、アマチュア時代に作られた曲「スターライト」の前口上から始まる。
『一つが終わって、一つが始まった、遠い遠い夜のことです』
銀河鉄道の夜を思わせる映像と共に演奏されるこの曲は、秋田氏がどん底の中で自分を鼓舞するために作ったものである。
『夜の向こうで何かが待ってて それを照らして スターライト』
(歌詞:スターライト)
未来に期待をして前に進む「昔」の彼は、続く「たられば」「さよならごっこ」「それを言葉という」を通して、叶えられなかった願いや大事な人との別れを経験しながらも、険しい道のりを歩いていく。
  

やがて、amazarashi結成後、全国初リリースしたミニアルバム「0.6」に収録された曲「光、再考」が、長い夜に夜明けの端緒となる。
『僕は今から出かけるよ ここじゃないどこか そんな光』(歌詞:光、再考)
次に続く2曲「季節は次々死んでいく」「命にふさわしい」は、苦悩という雨の中でも歌い続ける彼の姿を彷彿とさせる。
『雨に歌えば 雲は割れるか』
『そうだ行かねばならぬ 何はなくとも生きて行くのだ』
(歌詞:季節は次々死んでいく)

『次の一歩で滑落して そこで死んでもいいと 思える一歩こそ
 ただ、ただ、それこそが 命にふさわしい』(歌詞:命にふさわしい)
夜はまだ明けていなくとも、雨は止まずとも、前進している。確実に夜明けは近づいている。

続いて、自らの立ち位置を確認する歌「ひろ」の後「空に歌えば」で彼は雨続きだった空に晴れ間を見、「ライフイズビューティフル」で夜明けの確信をする。
『失意の濁流を抜けて 曇天から射す一条の光
 その時、既にもう 雨は上がっていた』(歌詞:空に歌えば)

『けどな これだけは絶対言える 俺らの夜明けはもうすぐそこだ』
(歌詞:ライフイズビューティフル)
 
そして、MCで
『今まででは、歌えなかったことを歌いたいと思っています』
『今だからこそ 歌えることがあります』 
と語ったのちに演奏される2曲「独白」「未来になれなかったあの夜に」こそ、彼の夜明けそのものであった。

『私自身が手を下し息絶えた言葉が
 この先の行く末を決定づけるとするなら
 その言葉を 再び私たちの手の中に』
『言葉を取り戻せ』(歌詞:独白)

先の見えない夜の中で自分が奮い立つために歌ってきた彼が、リスナーへ喚起をする。外の世界にも彼は強く声を発することが出来るようになってきたのだ。やがて完全な夜明けが次曲でついに訪れる。

『あの夜、言いたくても言えなかった言葉を!
 あの夜、ずっと誰かに言ってもらいたかった言葉を!
 未来になれなかった全ての夜に!!』

会場を震わせる叫びの後、演奏される新曲「未来になれなかったあの夜に」によって、amazarashiは完全な夜明けを迎える。この歌は今日に至るまでの彼を表した集大成だ。

『そんな夜達に「ほら見たろ?」って 無駄じゃなかったと抱きしめたいよ』
『今更弱さ武器にはしないよ それが僕らがやってきたことの
 正しさの証明と知っている 今この僕があの日の答えだ』
(歌詞:未来になれなかったあの夜に)

7分弱のメロディ内に散りばめられた言葉が、彼が見てきた幾つもの「夜」とここに立つ「今」を交差させ、全ての夜が受け止められていく。 
もう、夜明けを見た彼は声を大にして「あの夜」言いたかった言葉を歌うことができる。
 『そんな夜達に「ざまあみろ」って 今こそ僕が歌ってやるんだ
  未来になれなかった あの夜に ざまあみろ』
(歌詞:未来になれなかったあの夜に)

ついに夜の向こうへ到着した彼の想いを「今こそ僕が歌ってやるんだ」という言葉から痛いほど感じる。会場いっぱいに響き渡る「ざまあみろ」が彼の暗闇を切り裂いてゆく感動を、私は忘れることはないだろう。 

 『終わらせる為に始めたこのライブも、もう終わりです。(略)
 わいと、あなたの、人生の続きを始める為に』
演奏ののち、ひとり照らされた秋田氏が私たちに語りかけ、ライブは幕を閉じる。彼の夜は明けた。これからは夜明けを迎えた彼の人生が始まる。私たちも、また夜明けに向かって歩いていくのだという決意を抱く。そんな余韻が残る。本公演のセットリストは過去に立ち返り、彼の原点から夜明けまでを見届けるような構成であった。

その後の愛知、大阪での追加公演では、セットリストに変更が見られた。
4曲目が「スターライト」から「もう一度」へ変更になり、5.6.7番目の曲順と、16曲目の「ライフイズビューティフル」が「千年幸福論」に変更されている。
本公演が「リスナーたちと過去をたどり、振り返る」セットリストであったなら、追加公演のセットリストは「現在から贈る過去への清算と、秋田氏の願い」だろう。
「スターライト」は、秋田氏がアマチュア時代に作った「未来」を見つめる歌だ。それに反し「もう一度」は秋田氏が「今」から過去の自分を思い出して作った歌である。

『もう一度 もう一度
 あの日離れていった希望に ざまぁみろって言ってやる為に
 何度も立ち上がるんだ もう一度』(歌詞:もう一度)

本公演では「スターライト」を皮切りに、どん底の「過去」から今日に至る道のりを辿ったが、追加公演では「今」が根底にあるように感じた。
「もう一度」が原点となり、「千年幸福論」では夜明けを見た彼が、幸せが続くようにと祈る想いを歌い、そして「未来になれなかったあの夜に」で「今日」から過去へ「ざまあみろ」と歌い、「もう一度」での誓いを果たすことで現在から過去の夜を清算するようなセットリストの構成に思えた。
そして本公演、追加公演を通して過去からの出発と、現在から過去への清算を終えると、ツアーファイナルでは「千年幸福論」の後「ロングホープ・フィリア」が弾き語られた。

『今日の君が笑ったことで 敗北も無駄にはならなかった
 故に咲くどん底の花 友よ、末永い希望を』
(歌詞:ロングホープ・フィリア)

「千年幸福論」では彼自身の幸福を祈っていたのに対して、「ロングホープ・フィリア」では夜のど真ん中で苦しむどん底の花への希望が祈られる。
今ツアーの集大成であるツアーファイナルは、自分自身の為にも、彼の歌を聴くリスナーの為にも歌えるようになった彼の「今」をはっきりと私たちに示してくれた。
 

しかし、セットリストについては、デビュー当時からamazarashiを知るファンには疑問が湧いたかもしれない。なぜなら、セットリストを構成する曲は比較的新しいアルバム・シングルから抜粋されたものが多くを占めるからである。
秋田氏が語ったように「昔を振り返るライブ」であり、ツアータイトル通り「未来になれなかった全ての夜に」捧げる曲なら、報われなかった時の歌、すなわちもっと古い時期にリリースされた曲が多いのでは、と考える人もいるだろう。

ここで秋田氏がMCで語った言葉を思い出したい。
「皆と『ここまで来たんだぜ』っていう、共感するライブがやりたくて、今回は、このセットリストにしました」(2019.4.29.Zepp Osaka Bayside)
ここまで、とはどこを指すのか。

思えば、このバンドの知名度が目に見えて高くなり始めたのは、2015年にタイアップしたテレビアニメ「東京喰種」が発端だった。
それまでもテレビドラマなどでタイアップはしていたけれど、やはり人気漫画の影響は大きかったのだろう。タイアップ曲「季節は次々死んでいく」の再生数は、既にYoutubeで4000万回を超える。身近に感じたことで言えば、ライブのチケットが取れなくなってきた。知り合いにもamazarashiの存在を知る人が増えた。ファンが増えたことは間違いなかった。
それからどんどん大衆の目に触れる機会が増えていった。CM曲への適用、少年ジャンプ掲載漫画アニメとのタイアップ、絶え間ない新曲リリースやベストアルバムリリース、まさに息をつく暇もないほどの速さでamazarashiはその世界観を世界に発信し続け、また広く評価されてきた。
そして2018年11月、ついに迎えた初の武道館公演「新言語秩序」を経て、彼らは今回のツアーに至る。

また、秋田氏はこうも語った。
「アルバム出す前に、みんなにお礼言って周るツアーも、やっていいんじゃないかなと思って」(2019.6.29.ロームシアター京都 サウスホール)
なるほど。この言葉を聞いたとき、私はやっと秋田氏が伝えたかったメッセージを正面から受け取れた気がした。

彼の言う「ここ」は、数々のライブや武道館公演を終え、たしかに立っている「今」を指していた。そして「ここ」に立っているのは、幾多の苦労を乗り越えてきたバンドメンバーはもちろん、今日amazarashiを聴くリスナーたちのおかげでもあると、秋田氏は伝えたかったのではないだろうか。

タイアップやコラボは、そのバンドの知名度の高さ、もしくは推す必要性を示すものだ。実際、タイアップは確実にリスナーを増やしたし、様々なコラボなどの積み重ねが観客参加型の武道館公演という大舞台も成功させたのだろう。
 
原点を振り返る曲と、これまでの殆どのタイアップ・コラボ曲で進行するセットリストの組み合わせ。
amazarashiを古くから知るリスナーは、前者によって認知度の低い時も、彼らを応援し続けた日々も思い出すことができる。
比較的新しいリスナーは、聞いたことのあるフレーズからamazarashiの世界観に没入することができるため、置いてきぼりにならない。同時に、彼の原点を表す曲にも触れることができる。
このセットリストだからこそ、新旧問わずライブ会場で彼の歌を聴くリスナーたちが、彼の辿った道のりに共感することができたのだろうと私は思っている。
 

ところで、amazarashiは2019年でメジャーデビュー9周年を迎えた。
偏見であるが、9周年というタイミングで総まとめのライブツアーを行うのはなんとも半端なような気がする。キリのいい10周年を1つの区切りにした方が感覚的にはわかりやすい。
ではなぜ、このタイミングで秋田氏は「過去を振り返る」とともに「リスナーへ感謝を伝える」必要があったのだろうか?
 
 
ここで、冒頭で述べた秋田氏の「宣言」について私の考えを書きたい。
このツアーは、彼がこれまでに抱えてきた暗闇への弔いであるとともに、「先に進む」という宣言の場だったのだ。
暗闇への弔いは前述したように、彼のどん底の原点から今日に至るまでの道のりを辿るセットリストで行った。彼は確かに夜明けを見、新たな景色を見た上での人生の続きを始めると私たちに話してくれた。追加公演では現在から過去を改めて清算することで、完全に過去との決別をした。そして暗闇への弔いの総まとめを担うのが新曲「未来になれなかったあの夜に」である。

ただ驚くべきは、今回の新曲は暗闇への弔いだけでなく、彼の宣言をも包括していることである。

長い時間をかけて、彼が見ている景色は移り変わってきた。雨上がりの空も、夜明けも見えてきた。しかし、それにも関わらず、未だに彼がどん底に居続けることを期待するリスナーが存在するのも確かだ。
だからこそ、彼は、この新曲をもって私たちに宣言するのである。

『僕の事は忘れて 他に行きたい場所があるんなら』
『今更弱さ武器にはしないよ』
『そんな夜達に「ざまあみろ」って 今こそ僕が歌ってやるんだ』
(歌詞:未来になれなかったあの夜に)

僕はここまで来たのだと、夢を確かに掴むことが出来たのだと、そんな僕らは次のステージへ進むのだと彼は高らかに叫ぶ。
そもそも、彼の歌は彼自身の為のものだ。彼が歌いたい歌を歌うために、ロックバンドamazarashiは結成された。リスナーに感謝はしていても、彼の歌いたいことを変えることはできない。
しつこいようだが、ようやく夜の向こう側にたどり着いた彼は「10周年を迎えるときには次のステージに進んだ景色を歌う」という意志表示と「過去の暗闇と、暗闇から叫ばれる歌を期待するリスナーへの決別」をこの歌によって果たしたのである。
 

だからと言って彼の伝えたいことが変わったわけではない。
彼の歌は常に「今」を表しているし、彼の繊細な優しさやリスナーを想う気持ちも健在だ。それはライブの終わり際、暗転直前に彼が

「ありがとう!!!!」

と何度も、それこそ肺の中の空気を全て出し尽くすほどの力量で叫んでくれることからも、「ありがとう」の回数が年を重ねるごとに増えていることからもうかがえる。 
彼の歌に対する姿勢はこれから先も変わらないのである。変わっていくのはきっと私たちリスナーだ。もし、どん底の中で叫ばれる歌が聴きたいのであればそれがあなたの「行きたい場所」だから「僕の事は忘れて」と彼は歌うのだろう。

彼の歌を今後も聴き続けるも、彼の歌から離れるも、私たち次第なのだ。彼は決してリスナーに縋ることはない。歌を聴く権利はあくまでも私たちに委ねられているのだ。
 

2020年3月11日、前作から2年4ヵ月を経た5作目のフルアルバム「ボイコット」が全国リリースされた。
完全に過去の暗闇と決別した彼は、今どんな景色を見ているのだろう。
アーティスト・秋田ひろむが綴る実直で繊細な言葉は、どの世代の心をも震わせる魅力に溢れている。もちろん私も彼の言葉に魅せられたファンのひとりだ。
きっと新アルバムに収録された歌の数々も、彼が見ている景色に私の感情と記憶を重ね合わさせ、胸に隠した気持ちを陽光の下に照らし、力強く、時には優しく励ましてくれるだろう。
ツアーを見届け、抱いていた気持ちを言葉にすることが出来た今、手元にある新作をようやく聴くことができる。
私がこのツアーで受け取ったと思っている彼の「宣言」は、はたして本当に「宣言」だったのだろうか?
ひとつの物語が終わった後の景色はどんな感情を私に教えてくれるのだろうか?
答え合わせが楽しみでならない。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい