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第1回 入賞 | 2016年2月26日

N_mura (23歳)
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“2016/1/10 ZEDD TRUE COLORS TOUR at 幕張メッセ”

 日本におけるEDMの現状は厳しい。やれブームが来ただの、定着しただの言われているけれども、実際に現場に足を運んでみるとEDMが流れているだけのただのパーティになっている事の方が多い。雑にヒット曲を繋いだだけのミックスCDや、無残にもEDMのテンプレに書き換えられた往年のヒット曲のコンピレーション等、音源を巡る状況も見ていて辛いものがある。本当のEDMの良さってそこじゃないだろう? 一つの世界観を共有したオーディエンスが快楽を極限まで詰め込んだダンスミュージックで一体となって踊る。そんなパンクにも通じるような刹那こそがEDMの良さだったはずだ。海外のEDMフェスティバルのような光景を日本で見る事は出来ないのだろうか?
 EDMにおける重要なキーワードとして“PLUR”がある。元々レイブが隆盛を極めていた頃に存在していた言葉だが、“Peace”、“Love”、“Unity”、“Respect”の頭文字を取って“PLUR”である。毎日のように日本のどこかで開かれているEDMパーティで、この全てを満たしている空間がどれほどあるだろうか? 本当はファッションも、ダンスの実力も、コミュ力も、ドラッグも、何一つ必要無いはずだ。そこに“PLUR”があるか。それだけが大事だ。
 2015年、サマーソニック東京会場でZeddを見た。度肝を抜かれた。冒頭から会場を埋め尽くす大合唱。ドロップが投下された瞬間に、沸騰する何万人ものオーディエンス。何度も足を運んだサマソニだけど、こんな光景は見たことが無かった。あらゆる年齢の、あらゆる音楽好きが、同じ空の下で無邪気にEDMを楽しんでいた。まだ日本にEDMが定着していなかった頃、YouTubeの向こう側に映っていたあの景色が目の前に広がっていたのである。あの瞬間、確実に何かが変わった。
 そして2016年、新譜『TRUE COLORS』を引っ提げて世界中で繰り広げられた“TRUE COLORS TOUR”がついに日本に上陸した。会場は幕張メッセ。言わずと知れた日本最大級の会場である。チケットはソールドアウト。昨年、本ツアーに先駆けて開催されたプレミアムライブの会場は新木場スタジオコーストだった。わずか半年の間に、Zeddの人気がいかに上がったのかがよく分かる。そして、そのきっかけとしてサマソニがあったのも間違いないだろう。一緒に行った友人も、サマソニを体感してしまったがために行かずにはいられなかったと言う。
 会場に着いてまず目を惹いたのが、前日に開催されたEDM主体のダンスミュージックフェスティバル“electrox 2016”との客層の違いである。派手なファッションに身を包んだ、いわゆる「パリピ」がかなり目立っていたelectroxと比べると、明らかに普段の延長線上の格好をした人々が多い。electroxではほとんど見かけることの無かった、フェスTやバンドTを着た人々もかなり目にした。勿論一概に言うことは出来ないが、electroxに来る人々の多くが「巨大EDMパーティ」に来たのに対して、ここに来る人々は「Zeddのライブ」を観に来たのであろう。そこには大きな違いがある。
 オープニング・アクトであるHaywyreが、Michael Jackson“Smooth Criminal”やPorter Robinson“Flicker”等を織り交ぜつつ、Monstercat印の豪腕ハウスセット&全編に亘って弾きまくるシンセフレーズで場を温め(踊る人が少なかったのは少し切なかった)、名曲“Insight”でフィニッシュした後、いよいよZeddが登場する。
 予定時間を15分ほど過ぎ、あまりの焦らされぶりに会場の空気が張り詰める中、ついに姿を見せたZedd。凄まじい大歓声が上がり、そのままサマソニと同様に“Spectrum~Beautiful Now”が投入される。しかし、合唱の量がサマソニの比ではない。これはヤバいことになる。そう確信した直後、ドロップに突入し、ステージ全体を覆い尽くす超巨大な3面ディスプレイ&客席上空に浮かぶ2枚の巨大横長ディスプレイ&左右に置かれた通常のディスプレイで構成されたステージセットに炸裂するド派手なVJ&凄まじい量のカラフルなライティングが一挙に覚醒し、ついに“TRUE COLORS TOUR”がその全貌を明らかにした。そのあまりのスケール感と、巨大な会場に響く“Beautiful Now”の破壊力にオーディエンスも覚醒し、幕張メッセは瞬時に超巨大なダンスフロアと化した。開演前に呑気に話していたお兄さんは「ヤべ――――!!!!!!」と何度も絶叫しながら理性を吹き飛ばしていた。
 その後も、Clean Bandit“Rather Be”リミックス~Magic!“Rude(Zedd Remix)”と鉄板の流れで、巨大な合唱を誘いながらオーディエンスをひたすらにブチ上げ続けるのだが、一方で幕張メッセという、必ずしも音響面で優れた会場では無いのにも拘らず、見事なサウンドコントロールで強靭なボトムを振り回す彼の姿に気付く。一つ一つのビート、そしてシンセの洪水が寸分の狂いも無く体に襲いかかる。サマソニでも痛感したが、会場の規模や状況に合わせてその都度完璧に音響を掴んでいるのだろう。さすが世界トップクラスのプロデューサーにしてDJである。
 一見単純でテンプレ化しているように見えるEDMには実は様々な音楽性が存在する。歌モノを矢継ぎ早に連射することで合唱によるオーディエンスの一体感を誘うDJもいれば、トラップやダブステップ等のベース系を主体にダンスミュージックの強靭さでフロアを揺り動かすDJもいる。Zeddの手掛ける楽曲はその多くが歌を重要視しているが、そこには常にダンスミュージックの強靭さが伴っている。これはDJセットにも顕著に表れており、2時間のセットの中で“Stay The Night”や“Find You”といった自身のアンセム群とKnife Party“Destroy Them With Lazers”といった完全フロア仕様の楽曲が、その都度過剰なまでの演出と共に展開されていく。極彩色のレーザーが会場を貫き、ステージには炎が舞う。あまりにも日常から逸脱した空間に、思わず笑いが込み上げてくる。
 楽曲といえば、これまでの来日公演とは異なり、新作の楽曲はほとんど全てがセットに組み込まれていた。フロアでの盛り上がりよりも、アルバムとしての物語性に重きを置いた楽曲群がどのように組み込まれるのかが非常に興味深かったが、そのどれもが、2時間に亘るストーリーの一部分として見事に機能しており、特にそのアンセミックな魅力を全面に押し出した“True Colors”や“Transmission”はフロア仕様にマッシュアップされつつも、物語に叙情性をもたらしていた。更に“Done With Love”はセットを締めくくる“Alive(Zedd Remix)”の前という重要なタイミングで投入され、大合唱と共にこの壮絶なライブのクライマックスを彩っていた。ただ盛り上げるだけであれば、必ずしも自身の楽曲をここまで使う必要は無い。Zeddのアーティストとしての意地がそうさせるのだろう。あるいはアルバムを作った段階で既に今回のライブが見えていたのかもしれない。
 とはいえ、やはりピークを演出するのはZedd自身による、極限まで洗練されたメロディが輝くアンセム群である。特に彼の最大の代表曲である“Clarity”が投入された時のオーディエンスの絶叫にも似た大歓声は圧巻だった。最早誰と一緒に来たのかは関係無く、その場に居合わせた人々が一体となってメロディを歌い上げる。その動きは会場全体で連鎖し、何万人もの人々が一つになる。この光景を僕は見たかったのだ。ドロップが投下された瞬間、誰もが笑顔になり、ここにいる喜びを全身で表現していた。この瞬間が存在する限り、EDMは残り続けていくだろう。安易に消費することの出来ない何かがここには確実にある。
 Haywyreで踊っていた時、近くにいた夫婦らしき二人組と話をしていた。すると、女性の方が既に身動きも取れないくらいに混雑しているというのに、お酒を買いにいってしまった。「多分戻ってこれないと思いますよ?」と伝えると、男性の方が「どこかで踊ってるんだから大丈夫だよ」と答えた。僕自身も、ライブが始まってすぐに友人の姿を見失ったけれど、ずっとその場で出会った人々と共に歌い踊っていた。後で友人達と合流したら、誰もがその場でどれだけ盛り上がったかを熱く語っていた。帰り道で何度もZeddの曲を歌った。そこには確実に“PLUR”があった。

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