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スピッツとMY LITTLE LOVERの呼びかけ

悲しさをふりほどくことは難しいのだとしても

駄文とはいえ、なにかを書いて発信しようと試みている以上、所謂「差別用語」というものを使わないよう、日ごろから口にすることがないよう、細心の注意を払って過ごしている。決まりとして「使ってはならない」言葉というものが、社会には幾つかあるし、決まりではないけど「イヤがる人もいるので避けるべき言葉」というものもある。ここに具体例を挙げることは避けたい。

多くの文学作品に「現代では好ましくない言葉」が含まれるけど、それは何かを強く伝えるためにやむない選択だったのだというような注が、巻末に書いてあったりする。スピッツの歌詞も「文学的」と形容していいはずで、そうした意味で「言葉の選び方」に腐心しているのではないかと察する。だからこそ私はスピッツを敬愛している。

ルール上「絶対に使ってはならない言葉」がある一方で、個人的な感覚として「これは口にするまい」と決めている言葉も、もしかすると人それぞれにあるのかもしれない。

MY LITTLE LOVERは歌う。

<<悲しみの言葉は 全部すてたい>>

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スピッツの楽曲に登場する人物は、様々な種類の哀しさ(負の感情)をいだきながら、それと訣別したいというような決意を歌う。それは作詞者の、あるいはバンドとしての宣誓なのかもしれないし、リスナーへの呼びかけなのかもしれない。どちらであるにせよ、その切なくも力強い発信に、私は何度となく鼓舞されてきた。まさに私は<<悲しみの言葉>>を、スピッツの励ましに呼応するように、ほんの少しずつは捨ててこられたと言えると思う。だからスピッツを「恩人」だと感じているのだ。

楽曲「春の歌」が、そういった「私にとっての応援歌」の好例である。

<<「どうでもいい」とか そんな言葉で汚れた 心 今放て>>

本曲でスピッツは<<どうでもいい>>という<<悲しみの言葉>>を捨てるべく促している。あるいは、自分たちに言い聞かせている。私に限らず、なにかを諦めかけて、もうどうなっても構わないと思ってしまう時間帯が、人間にはあるのではないだろうか。一時的に落ち込むことは避けがたいことなのだとしても、その穴から自分を引き出せるのは、もしかすると自分自身なのかもしれない。優れた楽曲が手を貸してくれることはある。それでも<<心>>は、きっと当人が宿しているものなのだ。

スピッツは、別の楽曲で、こんなことも歌う。

<<君を不幸にできるのは 宇宙でただ一人だけ>>

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「会いに行くよ」の歌詞も印象的だ。

<<会いに行くよ 全てを捨てるバカになれる 心のまま>>

スピッツの意味する<<全て>>が何なのかを、私は十全には理解できない。それでも思うのだ、大事な人のもとへ駆けつけるには、<<会いに行く>>には、少しでも心を軽くする努力をするべきなのかもしれないと。怒りや哀しさ、もどかしさ、そういった鬱憤を捨てた時、人は良い意味での<<バカ>>になれるのではないかと。スピッツに限らず、負の感情を(比喩的に言うならば)燃料にして、佳曲をつむぎだすアーティストは多いのではないだろうか。<<捨てる>>べき何かを持っているからこそ、私たちには可能性があるのかもしれない。

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「正夢」の主人公は、それこそ<<悲しみの言葉>>を捨てながら、<<どんどん商店街を駆けぬけていく>>果敢な人物である。本曲でスピッツが捨てようとしているのは、諦めの言葉だ。

<<「届くはずない」とか つぶやいても また 予想外の時を探してる>>

楽曲の主人公が、どのような夢を追おうとしているのか、どういう関係性の相手に会いたいと思っているかは、やはり私には分からない。それでも彼(あるいは彼女)が、つい諦めの言葉をつぶやきつつも、完全には希望を捨てていない様に惹きつけられる。

本曲には、こんなセンテンスも含まれる。

<<打ち明けてみたい 裏側まで>>

あるいはスピッツは、表の側しか見せてこなかった自身を恥じ、ひた隠しにしてきた<<裏側>>さえも、見せようと腹を括ったのではないだろうか。そうなのだとすれば「正夢」でスピッツが捨てようとしているのは、着飾ろうとする<<言葉>>なのかもしれないし、誤魔化そうとする<<言葉>>なのかもしれない。その姿を手本とすることができたなら、私にも<<予想外の時>>は訪れるだろうか。

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MY LITTLE LOVERは楽曲「ALICE」で発信する。

<<不思議さを受けとめたら 誰だって いつだって 森に迷い込めるの>>

<<迷い込める>>というのは、字義どおりにとらえれば、ある意味ではネガティブな表現だ。それでも私は、MY LITTLE LOVER の意味する<<森>>は、きっと魅力ある場所なのではないかと思う。<<不思議さを受けとめ>>るには、常識とされていることを疑い、固定観念を捨てることが求められるのかもしれない。本曲でもMY LITTLE LOVERは、明示はされない幾つかの<<悲しみの言葉>>を捨てたのではないだろうか。

<<世界中に広がってゆく ネットワークみたいに>>

本曲が発表された時、今日(こんにち)ほどインターネットというものは広まっていなかった。それでもMY LITTLE LOVERは、人を励ますような歌詞を優れた旋律に乗せ、そのポジティブな発信は、はるか遠くまで届いたと言えると思う。少なくとも私のもとには届いたし、今なお「ALICE」のメロディーは胸のなかに響きつづけている。

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2020年代という時代が始まった。発信を遠くへ届ける方法は増えたと言えるだろうし、何かしらの発信を試みる人は、アーティストに限らなくなったと言えるだろう。そこにはプラスの面があり、マイナスの面もある。つまり<<悲しみの言葉>>も、またたく間に広まってしまう可能性があるということだ。

<<どうでもいい>>
<<届くはずない>>

たしかに、そう思うより他ない時はあるのかもしれない。それでもスピッツやMY LITTLE LOVERに励まされてきた以上、そして何かを発信するチャンスが与えられる時代に生きる以上、できることならば「歓びの言葉」を<<ネットワークみたいに>>広げていきたいものだ。

他ならぬスピッツとMY LITTLE LOVERの楽曲から「歓びの言葉」を引用して、この拙文をしめくくりたいと思う。彼ら彼女らの楽曲を愛でる人たちが、そしてご当人たちが、悲しさをふりほどけることを願って、歌詞からメッセージをお借りする。

<<こんな雑草も花を咲かす 教えてくれたんだラジオ>>
<<あなたも泳いでるなら きっと逢える 運命の時に>>

※<<>>内はMY LITTLE LOVER「白いカイト」「ALICE」「DESTINY」、スピッツ「春の歌」「8823」「会いに行くよ」「正夢」「ラジオデイズ」の歌詞より引用

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