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投げ出せないものとは何か

Mr.Childrenに限らず持つはずの自問

<<自分らしく 生きる事など 何の意味もないような 朝焼け>>

My Little Loverの「NOW AND THEN 〜失われた時を求めて〜」には、上記のセンテンスが含まれる。それを聴いて衝撃を受けてから、もう20年以上の時が過ぎる。「自分らしさ」を希求すること、変わらないでいること、それは多くの人が心に期しているはずのことであり、また周囲から期待されてもいることなのだろう、それでいて叶えるのが難しいことなのだろうと思っていた。いや、そう今でも思いつづけているかもしれない。

久しぶりに会う人から「変わらないね」と言われると、何だか嬉しいものだ。「きみらしいね」と言われると褒められたように感じられる。それでも僕は、いったい何が「自分らしさ」なのか、この歳になってもハッキリとは分からないし、その正体の知れないものが、はたして価値あるものなのかも確信できていない。

Mr.Childrenは「幸せのカテゴリー」のなかで、こう歌う。

<<本当の自分なんて 何処にもいないような気がしてる>>

もしかすると僕たちは日々、刻々と変わりつづけているのかもしれないし、それが避けがたいことならば、せめて良い方向に舵を取ろうと努めるべきなのかもしれない。その「良い方向」さえも、情けないことに未だ僕には分かっていない。

それと少し似たような苦悩を、椎名林檎さんは楽曲「アイデンティティ」のなかで解き放っている。

<<何処に行けば良いのですか>>
<<あたしは誰なのですか>>

この曲をリリースした時、椎名林檎さんは今の僕より、ずっと年少だったはずだ。だから僕が「椎名林檎さんでさえ悩んでいるのだから自分が悩むのも仕方ない」というような自己弁護をすることは、もしかすると赦されないのかもしれない。だとすれば僕は、少しは鳥瞰的に半生を振り返り、どのような道を歩んできたかを省みて、残された時間で何をするかを再考するべきなのだろう。それでも、自分自身のことを見つめるというのは、実は最も難しいことなのではないかとも思ってしまうのだ。

そういうわけで、せめて愛聴してきたミスターチルドレンの系譜を辿ることで、彼らの楽曲の主人公が、どのように成熟を果たしてきたのかを学びたい(あらためて知りたい)と思う次第である。

***

「LOVE はじめました」には、次のようなセンテンスが含まれる。

<<「相変わらずだね」って 昔付き合ってた女にそう言われた>>
<<良く取っていいのか悪い意味なのか>>

仮に今の僕が<<昔付き合ってた女>>に、どこかでバッタリと会ったとしたら、<<相変わらずだね>>と言ってもらえるだろうか。まず、それが分からない。そして言ってもらえたとして、それを自分が喜ぶことになるかも想像がつかない。

ここまで書いて、何だか惨めになってきた。自分が年甲斐もなく「分からないこと」を大量に抱えていることを再認識し、悲しくさえなってきた。それでも書きはじめた以上、最後まで書いてみようとは思う。そうした試みに、Mr.Childrenは愛想を尽かさず付き合ってくれるだろうか。

ミスターチルドレンは「LOVE はじめました」よりも後に発表した「fantasy」で、こんなことを歌う。

<<誰もが今もより良く進化してる>>

<<進化>>というのが「変わること」を意味し、こだわっていた「自分らしさ」を捨てることを意味するのだとしたら、ミスターチルドレンは答えのようなものを獲得したと言えると思う。それでも上記のセンテンスのあとには、こんな言葉も置かれている。

<<たとえばそんな願いを 自信を 皮肉を>>

実に<<皮肉>>という単語が含まれるのだ。もしかするとMr.Childrenは、皆が昨日の自分を超えられているとは限らないことを歌おうとしているのかもしれないし、<<進化>>というのが望ましいものとは限らないことを歌おうとしているのかもしれない。そうなのだとしたら彼らは<<誰もが>>と呼ぶ人たちのなかに、含まれているはずのミスターチルドレン自身を、いくぶん斜に構えて見ているのだろう。なかなか確かな答えを見いだすことができないのは、Mr.Childrenと僕が、ある意味、共有してきた嘆きなのかもしれない。

***

それでも「fantasy」よりも、さらに後になって発表された「皮膚呼吸」では、Mr.Childrenは以下のように力強く歌う。

<<変わっちまう事など怖がらずに まだ夢見ていたいのに>>

「夢を見よう」と言い切らないところに、いくぶんの躊躇いが溶けているようにも思える。それでもMr.Childrenは、少なくとも「願いを持つこと」を、本曲では果たしたのではないだろうか。変わることを恐れないでいられたらという願いを。優れた楽曲を作り上げ、多くの人を救ってきたMr.Childrenにも、決別しなければならない弱い面が、きっとあるのだろう。あるいは「こんな風であれたら」という理想像を持っているのだろう。

Mr.Childrenの楽曲を聴きながら年を重ねてきた僕が、はたして成長してくることができたのかは分からない(それは自分が決めることではないとも思う)。それでも不遜にも思うのは、Mr.Childrenは少しずつ強くなってきたのではないかということだ。僕の感じる限り、「LOVE はじめました」の主人公よりも「fantasy」の主人公のほうが確信めいたものに近づいているし、さらに言うなら「皮膚呼吸」の主人公は、いよいよ目的地に辿りつこうとしている。

<<昔付き合ってた女>>の指摘をどう受け止めていいのか分からなかった楽曲の主人公は、<<皮肉>>まじりの<<自信>>を手に入れて、ついには何を願っているのかをハッキリと見定めたように感じられるのだ。変わること、それでいて夢を捨てないこと。それは自分のなかにある「変えるべきもの」と「守るべきもの」を見極めようという決意だとも言い換えられるのではないだろうか。

***

そしてMr.Childrenは最新のシングル曲「Birthday」では、こんなことを歌い上げる。

<<何度だって 僕を繰り返すよ>>
<<いくつになっても 変われなくて>>

変化を恐れずに生きていこうと決意したMr.Childrenは、変化することが難しいことを認めるという境地に至った。Mr.Childrenが繰り返そうとしているのが「夢を見る自分」であり、何歳になっても変えられないというのがネガティブな部分ばかりではないのだとしたら「Birthday」の主人公は、Mr.Childrenの系譜のなかで、もしかすると最も強いのではないだろうか。

このようなMr.Childrenの旅は、僕のように頼りない人間の模範となるかもしれない。僕もまた<<僕を繰り返す>>ように、着実に減っていく日々を生きるよりほかないのかもしれない。そんな自分を認めることができたなら、ほんの少しは前進することができるのではないだろうか。僕にだって命ある限り変えたくない部分はある。そして僕が、どうしても変えられないと嘆いている性分のなかに、他人様には「あなたらしいね」と感じてもらえるような、価値を持つものがあるのかもしれない。それこそが「アイデンティティ」なのではないだろうか。

***

Mr.Childrenの歩んできた道を振り返るべく書いてきた本記事を、aikoさんの楽曲から歌詞を引用することで締めくくりたいと思う。今までは「そんなことは難しいよ」と感じられていたセンテンスが、いま少しばかり柔らかく感じられるようになったからだ。それはMr.Childrenのおかげだと思う。aikoさんの曲が、今までよりも更に強く僕のなかで輝きはじめたのは、Mr.Childrenがいてくれるからだと思う。

<<君は君らしくいて 忘れないで>>

※<<>>内はMy Little Lover「NOW AND THEN 〜失われた時を求めて〜」、椎名林檎「アイデンティティ」、Mr.Children「幸せのカテゴリー」「LOVE はじめました」「fantasy」「皮膚呼吸」「Birthday」、aiko「飛行機」の歌詞より引用

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