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井上緑、中原くん、ちゃるけんというアーティストを知らないあなたへ

22年間生きてきたって、知っている物も触れてきた物もこの世に存在するほんの一握りなんだろうと思っている。じゃあその中で好きだと感じたものは?心動いたものは?もっともっと小さくなる数を思い浮かべて、「好き」を見つけるためにはたくさんのものに触れる必要があるのだと知った。私の知らないメロディーが、声が、歌詞が、まだ知らない場所にたくさん溢れていて、私の好きなものを知らない人だっていっぱいいて、それが何だか悔しい。テレビに毎日のように映ってなくても、サブスクのランキングでいつもTOP10に入ってなくても、誰もが「詳しくはないけど知ってるよ」って口を揃えて言うようなアーティストじゃなくても、素敵な音楽を確実に私たちの心に届けて、多くの人を励ましてくれるアーティストを私は知っている。
 
 
 

「nanoha project.」というインディーズレーベルがある。これを読んで少しでも興味を持ったら調べてほしい。動画でもいいから歌を聴いてほしい。もっと知りたくなったらライブに足を運んでほしい。
 
 

私がこれから語る、そこの所属アーティストを知るきっかけとなったのは、Twitterで大きな反響を呼んだ『バカップル死ね』の動画だった。幼そうな男の人がギターを片手に「街中で惚気てるカップルは死ね」と歌っていた。えっなにその過激な歌詞。たった30秒で終わってしまったその歌が、なんだか耳に残った。あれ、歌詞ちょっと意味わかんないけど良い曲じゃない?と知らないうちに2回目を再生していた。よく聞いたら良い声でもある。井上…緑?変わった名前だなあ、なんて思いながらYouTubeでその名を検索した。「売れないミュージシャンのうた」というまた一風変わったタイトルに惹きつけられて開いた動画が私をどっぷりとnanoha project.に引きずり込むことになる。
 
 

「君に会いに行く時間もお金もない」とポップな感じで始まるこの曲は、「もしも僕がみんなから必要とされてたなら一番必要としてくれてる君に会いにいけるのに」とめちゃくちゃリアルに聞こえる歌詞が綴られている。「こんな歌うたっててごめんね」というサビにやられた。頭を殴られたような気がした。こんなこと言われたらどんなに遠距離でもどんなに会えなくてもいいんじゃない?って思った。だってこんなシンプルに会いたいって届けてくれる人なんじゃん。もう井上緑っていうアーティストがだれかに向けた曲、ではなくて、自分がこの歌に出てくる「会いたい」と言われている女の子の立場で聞いていた。「もしも僕が売れていたら君も自信持って言えるのにね、彼氏はミュージシャンなんだよってまだ笑われる僕だけど、すぐすぐすぐ絶対」強くギターをかき鳴らすその人が作る歌をもっと聞きたくなった。こんな素敵なメロディーを作る人が「売れないミュージシャン」って歌を作る世界ってどうなってんだ、とも思った。
 
 

「これで以上です。最後に何か質問はありますか?」特徴的な歌い出しの「以上です。」はこのフレーズを語り掛けるように始まる。面接で何度言われた言葉でも、こうやって客観的に絶対に聞くはずのない場所で聞くと、すごく尖ったナイフのように突き刺さる。以上です、という言葉はただ終了を告げる合図で、そう言われるまで気にしたこともなかったのに。
 
 

「家族構成年齢住所学歴 趣味は音楽鑑賞です
 A4の紙に収まる程度の僕の人生はどうでした?」
 

「なりたいものもやりたい事も憧れる大人も見つからない
甘やかされて育ったから 悪いのは親か先生か
環境か国かそれとも神様か あなたか僕か」
 
 

この歌がどう締めくくられるか、どういう気持ちで聞き終われるのかは自分にどれだけ納得しているかで決まるんだと思う。前向きにこの曲を聴けるように頑張りたいと思ったし、この問いかけにすぐ答えられるような自分で在りたいと思った。綺麗事じゃなくて、本当にリアルな心情だったから、痛いぐらい刺さった。今はどうやったって「A4の紙に収まる程度の人生」だから、その人生をとびっきり褒めてあげられるように「私が」頑張らなくちゃいけないんだと思った。
 
 

その一方で、繊細なラブソングだって歌う。
「お願いダーリン 僕のそばにいて 喧嘩した夜も笑った朝もずっとずっと」—Stand by me
「会いたいんだよ文字とか声だけじゃなくて」—月の下君に贈るうた
 
 

こうしたラブソングが分かりやすい例だけど、彼の歌はいつもシンプルだ。必要以上に飾った言葉もない、回りくどい事も言わない。だからいつもファンの心にまっすぐ届く。彼のライブを見て、彼の歌を聴いて、涙する人が多いのだってそういうことだろう。『ラブソング』という曲に「簡単な言葉は案外難しいもんで。喉の奥の方で引っかかる。出て来たがらない」ってフレーズがある。確かに好きも大事も会いたいも、簡単なのになかなか言えない。「簡単な言葉と単純なメロディーをつなぎ合わせたそれが僕のラブソング」これがすべての答えなんじゃないかと思った。日々頑張れと励ましてくれる応援ソングも、否定的な気分すら肯定してくれる後ろ向きな歌も、まっすぐなラブソングも、誰もに伝わるように簡単な言葉に変換して飾らずに届けてくれる。だからこそ突き刺さる。そんな彼に会いたくて、みんなライブへ足を運ぶ。
 
 

井上緑、で検索して動画を見ているとき、いつも視界の端に坊主頭でサングラスをかけて、花柄のシャツでギターを抱える男の人が映っていた。興味本位でマウスをクリックしたあの時の自分を、5年経つ今も褒めてあげたい。「この1曲、僕に4分間だけ時間を下さい」え、なになに?そう思った時にはもう遅かった。人は見かけで判断できないって誰が言ったか知らないけど、その通りだ。坊主頭でサングラスをかけた花柄シャツの人がこんなにも歌が上手いだなんて、誰が思うだろう。今まで聞いた誰よりも歌が上手い。声も歌い方も曲も、全部がどストライクだった。
 
 

CDを買って、これまでのYouTubeの動画もTwitterの動画欄も全部遡った。複雑なコード、歌詞に出てくる例え一つ取り上げたってこの人の世界観はちょっと変わっていて面白くて難しい。井上緑さんを「シンプル」だと言うならこの人は「コンプレックス」だと思った。描かれる情景はどんな解釈でもできそうだし、設定は複雑だし、使う単語は難しい。めちゃくちゃ好き。そういえば彼の名前を言っていなかった。
 
 

中原くん。名前はシンプルだよ。
 
 

中原くんの好きな曲は数えきれないほどあるのだけど、代表曲は『禁断少女』『タミフルスターダスト』『君カノ』ってとこだろう。彼のライブに行くと絶対に笑顔で帰れるし、「テクマクマヤコン」って大声で魔法の呪文だって唱えて帰れる。上に挙げた3曲はすべてキャッチーなメロディーだから、覚えやすいし耳に残りやすいし、良い曲だ。
 

彼の世界観が面白いって言ったのは、『禁断少女』に出てくる呪文に続く言葉もそうだし、『タミフルスターダスト』に出てくる「骨の髄まで星降る夜」っていうロマンチックな例えもそう。『明日もし僕がタツノオトシゴになったら』という名曲も、どうやったら自分がタツノオトシゴになったらなんてシチュエーションが思い浮かぶんだろうと不思議だった。ちなみに『君カノ』は「君のことが彼女よりも可愛く見えることがあるんだ」というサビの曲。自分が彼女だったら怒ってしまいそうだけど、こんなに長い言葉をキャッチーなメロディーに収めてしまう中原くんはやっぱり天才だと思う。
 

そんな底抜けに明るい曲も書くけど、例えば『遺書』っていうタイトルからして暗い曲も書いたりする。いつも笑っている人が、いつも楽しいわけじゃないってこと。いつも元気を届けてくれる人が、いつも元気なわけじゃないってことだ。語るような口調で繋がれていくこのメロディーは、中原くんにとって大事な曲だろう。心から辛い思いをした人じゃないと、人の痛みは分かってあげられない。誰よりも痛い思いをしたからこそ、皆に笑顔を届けられる。中原くんがたった30分の配信でも最初から最後まで完璧に仕上げてしまうような、誰にも負けない歌い手でありエンターテイナーである理由は、代表曲を聞いて、その後にこの曲を聴けば分かる。
 
 

繊細さと力強さを併せ持った彼を一言で表すならば、「カラフル」だろう。歌う曲によって、届けたい言葉によって、表情も歌い方も直前のMCも別人のように変わってしまう。白も黒も、ショッキングなピンクもマイルドなグリーンも1人の人間が表現してしまう、そんなカメレオンみたいな人だから、曲の幅も表現も色とりどりで、見ていて飽きない。自分の彼女よりほかの女の子が可愛く見えると歌う『君カノ』を聞いた後に、チャペルに隕石が降ってこないかと願う『メテオストライク』を聞いてみてほしい。一人の人間が描ける世界はこんなにも広いのだと思い知らされる。
 
 

ここまで書いていて思うけど、中原くんの魅力を文章で伝えるのは難しい。何故なら彼の一番の魅力が「歌の上手さ」だからだ。私はボカロがとても苦手でどんなに良い曲があっても触れられずに損をしていたのだけれど、彼がカバーしたボカロはとても心地よく聞けた。冒頭で述べたように、どんなに良い曲があったって知らなければ「無」と同じだから、いつも原曲を上回りそうな中原くんの声と歌い方を通して私はこれまで知らなかった名曲を知る。そういうカバー曲でもいいから、経路はどうだっていいから、できるだけ多くの人が彼に辿り着いてほしいなと願う。
 
 
 

彼らの配信を見ていると必ずと言っていいぐらい映る男の人がもう一人いた。どうやら「ちゃるけん」っていう人らしい。見た目とちょっとギャップがある、可愛らしい名前。最初私はちゃるけんさんの歌を聞いたことがなくて、中原くんのときで学習したくせに勝手に見た目で判断して、荒々しい歌を歌う人なのかな~と思っていた。
 
 

だから、彼が紡ぎ出す音楽を聴いたとき、例えは悪いけど脱脂綿に化粧水が染みていくように、脳内に音楽が溶けていく気がした。すーっと、もとからそこにあったもののように、馴染んでいく気がした。純粋に綺麗だと思った。その曲の名は『恋』。MVまで含めて綺麗だから見てほしい。
 
 

「これからもずっと忘れられそうにもなさそうだ」「それでもいいなと思えてしまう僕を笑わないでね」どれだけ時が経っても、想いが届いていなくても、あなたを超える誰かはいない、という王道の失恋ソングだ。何回も言うけど、本当に曲が「綺麗」なのだ。良い曲だとか、切ないとか、そういう言葉で表すには勿体ないぐらい綺麗。心の奥に仕舞っていた恋の記憶をわざわざ引っ張り出して切なさを味わいにいったぐらいに。
 
 

2番のBメロで「越えてはいけない線をしっかり引いてたつもりだよ」と歌われるメロディーの良さは、まるでグラスを落としたときのような衝撃だった。欲しい音が欲しいところにぴったり当てはまった時の気持ちよさ、でもそれがなんだか痛くて、もうとにかく聞いてほしい。
 
 

『恋』『シンデレラ』『さらり』は個人的ちゃるけんベストソングだ。切なくて儚いのに、なんだか心の奥が温まるような歌を書く。『シンデレラ』では「忘れないでいて君には僕がいるじゃないか」と呼びかける。この曲はまるで彼の歌のようだ。「深い悲しみ その行方が優しさならやがて溶けるよ胸の中の氷柱だって」優しい歌を届けてくれて、それが私たちの悲しみに溶けたから、こんなにも温かくなるのだろうか。冷たさと温かさという真逆なものを兼ね備えた歌はそうそう出会えるものじゃないと分かっているから、大事にしたい。
 
 

『もしも』という曲は、『恋』のようにピアノやギターのみの弾き語りでも映えそうな曲なんだけど、しっかり色んな楽器を携えて録音されている。ほんわかとした午後にも流れていそうなリズムで運ばれてくるのに、そこに乗ったメッセージは胸が締め付けられそうなぐらい切ない。
 

「もしも歌が歌えたら 煙草だって吸えたなら
 少しくらいはあなたのことをわかったつもりになれたかな」
 

もしもの世界を考えるぐらい好きな人のことを、
「もしも生まれ変わったら君に出会わないように神様にお願いするんだ」
って言ってしまう世界がたとえフィクションでも切ない。
 

 彼の紡ぐ儚いメロディーが好きなので切ない曲ばかり紹介したけど、元気をくれる曲もたくさんある。『楽しいことを見つけに行こう』はその代表曲ではないだろうか。この曲を口ずさみながらノリノリでお散歩をしたら、なんだか幸せになれそうだ。「今日も昨日も明日も明後日もまだ見ぬ景色に胸は震えてる」「幸か不幸か道は続いているから楽しいことを見つけに行こう」本当にその足で楽しいことが見つかりそうな、ポップなメロディー。しっとり浸ったあとにはこの曲を聴いて、新しい一歩を踏み出せそうな希望にも浸ってほしい。
 
 
 

 長々とそれぞれのアーティストについて書いたが、彼らは毎回ライブが終わった後はどんなに疲れていてもサインをして記念写真を撮ってくれる。しばらくライブに行けていなくても名前を覚えていてくれる。ファンを喜ばせるためにTwitter上でカバー企画を行ったり、一緒にステージに立てるなんていう夢のようなライブ共演企画も開催してくれたりしている。フレンドリーなパパさんと、誰よりもアーティスト思いのマネージャーさん、彼らの音楽を愛するファンの皆を含め、彼らの音楽を愛する人たちは皆どこか弱くて、でもその芯は強い。私も数える程しかライブに行けたことがないが、ドアを開けて帰っていく人たちの目を見るとそれがはっきりと分かるくらいに。
 
 

 音楽はすごい。でも、音楽は脆い。どれだけ多くの人の胸に響くようなメロディーでも、誰にも届いていなかったり、掻き消されていたりする。家で過ごす時間が多い今だからこそ、聞いたことがなかった音楽にも触れてほしい。新しい「好き」を見つけてほしい。彼らの綴る1フレーズでも、新しい誰かに届くことを祈って。

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