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そして音楽は今日も流れる

音楽を愛する心と その日々と 宮本浩次と

音楽は共通の言語だとどこかで聞いたことがある。
 
本当にその通りだと、この現状に在って尚、音楽でつながっている世界の人々を想うと勇気づけられる。
 
私たちの生活にはいつも音楽が在る。
寄り添ってくれたり、肯定してくれたり、鼓舞してくれたり、答に導いてくれたり……。
そしてその音楽を創り出してくれるミュージシャンの方たち。
フェスやライブ、コンサートや、新しい曲創りに、
きっと来る日も来る日も練習に明け暮れ、音創りに明け暮れ、私たちに最高の音楽を届けたいとの想いで準備を続けてくださるのだと思う。
そんな日々を経てのこの現状に、すべてのミュージシャンとスタッフの方たちがどれほどの衝撃を受けただろう。
 

3月。心待ちにしていた宮本浩次の「独歩。」ツアーライブが延期になった。
会場の調整等は難しいだろうに、そんな中でも迅速な対応で中止ではなく延期としてくださったことが本当に有り難かった。
しかし危惧していたことが起こり、ツアー予定は次々に延期となる。

宮本浩次の落胆はいかばかりかと、私たちファンは誰もが思ったに違いない。

そんな日々に、気付けばあの祝祭からちょうど2年が経っていた。
エレファントカシマシ30th ANNIVERSARY TOUR「THE FIGHTING MAN」だ。
桜の花が降りしきる中を歌っていた姿が、2年経った今も鮮明に脳裏に浮かぶ。

宮本浩次はしかし、あの時のあの花道で見せた笑顔のまま、メディアに姿を見せてくれた。
その懸命に歌う姿や熱いパフォーマンスに胸を打たれ、同時に、安心もした。
いや、それどころかこちらが励まされた、いつものように。
そう、いつものように。

宮本浩次の声を初めて聴いたのはアルバム「生活」だった。

――ひとりいれば人を思い
もてあます時は仕事を思い
道を歩めば人に出会い
町に出ずれば車に出合う
ああ平和なるこの生活が
なぜに我らを蝕むのか   ――「偶成」エレファントカシマシ

「偶成」を聴いた時、
暗い海の底から天を見上げ、祈るように歌っている印象を受けた。
あらゆるものから隔絶されることを望みながら、愛おしむ。
私はここにいるのだと、遥かかなたを見上げ
暗い場所から光に向かって祈りを歌っているようだった。

「偶成」から30年が経ち、宮本浩次はソロ歌手としての活動も始め
精力的に次々に曲を創り「ハレルヤ」を発表した。

――信じてみようぜ自分
ゆくしかないならtoday
please please please 
強くもなく弱くもなく まんまゆけ

please 孤独なheart 抱いて
戦う俺にもう一丁輝きあれ ハレルヤ
please 敗れし夢のその先にゃあ
ああ涙ぢゃあなく 笑いとともにあれ

ばからしくも愛しきこの日々を イエイ
ああ涙ぢゃあなく 勇気とともにあれ
ああ笑いとあれ 幸あれ

――「ハレルヤ」宮本浩次

宮本浩次は光の中、両手を開いて天を仰いでいた。
この歌の世界観のまま、彼が今立つのは、本当にこんな世界なのだろう。
あのころ暗い海の底から、わずかに射し込み降って来る光を見上げ祈り
歌っていた彼がたどり着いた世界は
こんなにも光に充ち、生きていることを祝福している。

そして彼自身、生きていま在ることを精一杯感じ取り、賛美している。

なんという美しさだろう。
「偶成」から「ハレルヤ」に至る道程はどれ程のものだっただろう。
私にそれを知ることはできないし、想像することさえ畏れ多い。 
ただ思うのは、生きるということに真摯であらなければということだ。

世の中は不条理なことばかりかもしれない。
けれどどんな時ももういち度歩き出し、前へ前へと突き進む。
抱える悲しみも孤独も、全部引きずりまわして道をゆく。
確かな生活がどういったものかはわからないけれど、
為すべきことが目の前に在るなら、それを理解し、受け容れてゆく。
そういった日々を繰り返すことがどれだけ偉大なことか。

――鳥が影落とし舞い上がる
あこがれてやまぬあの場所まで――「明日への記憶」エレファントカシマシ

宮本浩次はたどり着いたのではないだろうか。
「あこがれてやまぬ あの場所」に。
 

――『音楽があふれる街の中心部
1868年に開業したネオゴシック様式のセント・パンクラス駅
構内に1台のピアノが置かれている
誰もが自由に弾いていいピアノだ
2012年 ロンドン五輪を機に設置された
音楽を通して 世界中の人々が触れ合えるようにするためだ』

『市内在住の91歳』
ピアノの前に歩み寄り、風が降りるように椅子に腰をかけた。
黒いダブルのコートにベスト、蒼と紺のストライプシャツ、蒼いネクタイをした
とてもおしゃれな白い眉毛のご老人。
コートの釦を外すと、吸い寄せられるように鍵盤に触れる。
少し猫背にピアノに向かい、流れるように指を這わし、小さく歌いながら音を奏でた。

『ギブ・サンクス【ドン・モーエン】

弱き者には「私は強い」と
貧しき者には「私は豊だ」と言わしめよ
すべては神のなされる業なのだから
感謝を捧げよう』

そう、高らかに歌う

『第二次世界大戦前から50年以上市場の花屋で働いた
ピアノ歴は84年
自宅で弾き続けてきた』

演奏が終わると、立ち止まり聴き入っていた通行人たちから拍手が沸き上がり
恥ずかしそうに頭を擦っているとひとりの青年が駆け寄ってきた。

「素晴らしかったです!感動しました!」と、胸に手を当て握手を求めた。
「どういたしまして、ありがとう」

立ち去った青年の熱を感じながら彼はほほ笑んだ。
「感動してくれたんだ」と。

『周りのみんなに受け入れられて毎日を重ねてゆく
同時に、私の演奏が人々に喜びをもたらす
ああ 祈りが通じた気がするよ
ありがたいことだ
本当に幸運な人生だ
これのおかげでね』

そう言ってピアノを撫でた、優しい動きで  ――NHK「駅ピアノ ロンドン」
 

彼の姿に、宮本浩次が重なった。
 

――夢見る人 私はそうdreamer
明日の旅人さ
月の夜も 強い日差しの日も 歩みを止めない
忘られぬ思い出も 空のこの青さも
ぜんぶぜんぶこの胸に抱きしめたい
わたしの好きなこの世界――

これはまさしく 彼自身がこれまでの人生を想い、
確かに生きて得た大いなる愛のうただと思う。
どれだけ悩み、苦しんでも、太陽は昇り、またいち日が始まる。
それが受け容れ難い朝であったとしても、今日をまた生きる。
人の営みはそうして繰り返され、やがてこの世界を受け容れ、受け容れられ、
愛を生む。

これほどまでに美しい愛を、彼は今日も歌い、これからもきっと歌い続ける。
 

――ああ 町よ 夜明けがくる場所よ
そしてわたしの愛する人の 笑顔に会える町よ
ああ 心よ 静かにもえあがれ
風がいざなうその先の あたらしい明日に

会いにゆこう 未来のわたしに
会いにゆこう わたしの好きな人に
会いにゆこう あたらしい世界に  ――「夜明けのうた」宮本浩次
 

音楽の前ではみな等しく
おとなも子どもも お年寄りも赤ちゃんも
肌の色が違っても
話す言葉が違っても
音楽によってつながれるのだと
音楽を愛する世界中の人たちが歌ってくれている

世界中の 音楽を鳴らして
人々の声が美しく響き合う日が 早く戻ってきますように
そうしてまた あの場所で出会えますように

あの老人が、今日も穏やかにピアノを弾いていますように

彼が、今日も変わらず歌っていますように

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