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2017年8月15日

苅野 雅弥 (29歳)

マンチェスターが生んだロックンロール・スターも認めたグライムMC

バグジー・マローンの面白さ

 先日、雑誌GQのイギリス版を読んでいたら、リアム・ギャラガーがカヴァーストーリーに登場していた。さっそく読んでみると、リアムの子どもたちはスケプタやストームジーといったグライムのMCが好きで、リアム自身もこれらのMCが好きだと語っていた。イギリス北部にあるマンチェスターが生んだロックンロール・スターも、グライムにハマる。このことに筆者は嬉しい驚きを感じた。以前リアムは、ツイッターでスケプタを称賛していたが、まさかここまでグライムを好きでいてくれたとは…。
 

 こうしたリアムの発言を見て、ふと頭によぎったのがバグジー・マローンというグライムMCだ。リアムと同様、イギリス北部のマンチェスター出身であるバグジーは、グライム・シーンの中でも特に注目されているMCのひとりと言っていいが、その人気はグライムの枠を越えつつある。『Walk With Me』(2015)と、『Facing Time』(2016)の2作品を全英アルバムチャートTOP10に送り込み、商業面でも結果を出しているのだ。また、2016年のNMEアワード・ツアーではブロック・パーティーと共演し、幅広い層に存在を知らしめている。
 

 そんなバグジーは、今年7月に最新作『King Of The North』を発表した。本作はタイトル通り、自分こそイギリス北部の王だと宣言した力作だ。全曲ヘヴィーなビートを刻み、バグジーは速射砲の如く言葉を紡いでいく。それはまるで、バグジーの勢いがそのまま音楽に変換されているかのようだ。
 トラップの要素を前面に出すなど、現在のUSヒップホップに近い音を鳴らす一方で、「Bruce Wayne」ではUKガラージの性急なビートを披露したりと、イギリスらしい要素があるのも見逃せない。かつて刑務所に入っていたこともあるバグジーは、インタヴューでもアーティストとして成功したいと公言するなど、貪欲な姿勢を隠さない。バグジーにとって音楽は、自分を解放できる場であると同時に、どん底から這い上がるための手段でもある。ゆえに本作は、これまで以上にさまざまなシーンを意識した作品に仕上がった。そうした方向性は多くの人を惹きつけたようで、本作は全英アルバムチャートで初登場4位を記録し、初のTOP5入りとなった。
 

 イギリスらしい要素といえば、本作中もっともイギリスらしいのは「Memory Lane」だろう。というのもこの曲には、オアシスの大名曲「Wonderwall」から引用した歌詞が登場するのだ。
 さらに、「Memory Lane」には面白いエピソードがある。驚いたことに、オアシス側の許可を得ずに歌詞を引用したのだそうだ。こうした無許可状態は「Memory Lane」のMV制作中まで続いていたが、そのMVを完成させた数日後にノエル・ギャラガーから引用OKの連絡がきたという。そこでバグジーは、新たに「Memory Lane」のMVを制作。こうして、「Wonderwall」のMVにオマージュを捧げた、ノエルに対するバグジーからのお礼とも言える「Memory Lane」のMVが発表された。
 

 バグジーとノエルは、それぞれグライムとロックを主戦場にしており、別の世界で生きているように見える。しかし、共にイギリス北部のマンチェスター出身で、アーティストになる前はハードな生活をしていたという点は共通する。音楽のおかげで、ハードな生活から抜け出せたところも同じだ。そう考えると、ノエルなりにバグジーの背景を理解できたからこそ、歌詞の引用を許したのではないか。
 

 ここまで書いてきたことをふまえると、少々強引でもこう言いたくなってしまう。バグジーは、オアシスの精神を受け継ぐMCなのかもしれないと。

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