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音楽に寄り添う「歌」

秦基博「コペルニクス」にふれて

2007年夏、私は「鱗」という曲に出会った。
イントロのピアノから心を鷲掴みにされ、ギターの音色や疾走感のあるサウンドは、どれも夏の日差しのようにキラキラしていて、すぐに虜になった。
何よりも光っていたのは、まっすぐで伸びやかな〝歌声〟であった。

歌っていたのは秦基博。

もともとハスキーボイスは好みではあったが、それだけでなく、彼の声はふわりと包み込むような優しさも持ち合わせていた。
この「鱗」では、サビをひと息で歌ってしまうダイナミックさや、確かに刻まれるビート感など、彼の歌唱力も大いに堪能できる。大サビの高音部なんて本当にしびれるし、最後のギターが鳴った瞬間、胸がいっぱいになって、(ブラボー!)と心の中で毎回スタンディングオベーション状態だ。
カップリングの「プール」もまた素晴らしい。こちらも夏をテーマにしているが、まるで正反対の趣である。楽器のきれいな音色に、穏やかに水面をたゆたうイメージが浮かぶスローなテンポ。そして、「鱗」とはまるで違って聴こえる、歌。

彼の声は不思議だ。
少ししゃがれた、反抗期の少年のような声でハラハラさせたかと思えば、優等生の合唱コンクールのような、角のまったくない声で、聴かせる。
「プール」はまさにその優等生、クラシック的と言った方が良いのだろう、美しい歌声が心地良い一曲だ。
この一枚のシングルCDに、私はすっかり魅了されてしまった。
「鱗」はとにかくキラキラしていて、聴き終えると、心が真っ白になっていくようにすっきりする。とても幸せな気持ちになるし、なんと言ったらいいのか…〝無敵感〟が得られる。マリオで言うと、スターをまとった感じなのだ。
これまで数え切れないほど聴いてきたが、この曲にときめかなかったことは一度もない。

当時はほとんどひとりで彼の歌声に浸っていたわけだが、やがて多くの人にその〝いい声〟は広まり、「アイ」や「ひまわりの約束」といった代表曲も生まれた。

しかし、「鱗」以上に私が心動かされる作品に出会うことはなかった。

2019年冬、秦基博が4年ぶりにアルバムを出すという。
新譜が出ると聞けば、毎回チェックはしていた。思えば、自分の中でずっと、(あの感動をもう一度)をやっていたのかもしれない。
予約していたことも半分忘れていた12月、私のもとにアルバムが届いた。
(どれどれ…)なぜか偉そうに、私は「コペルニクス」の封を開けた。

一音目から、私は息をのんだ。
音が研ぎ澄まされている気がして、グッと胸を掴まれた。
それからひとつひとつが身体中に染み渡り、あっという間にアルバムは2周目に突入していた。気づけば目には熱いものがあふれていた。

胸がいっぱいだった。

あの、「鱗」を聴いたときと同じ気持ちだ。

私は今まで、彼の〝声〟にばかり気をとられていた。
いや、声は間違いなく魅力的なのだが、決してそれだけではなかった。

彼の紡ぐ言葉、メロディーとのハマり具合、次の音へのつなげ方、その中で生まれる息遣い…そういったあらゆる要素が彼の〝歌〟であり、私はそれが大好きなのだと、分かったのだ。

〝コペルニクス的転回〟とは少し意味が違うが、この作品で私は、〝声〟と〝歌〟とは別物であることを、遅ればせながら気付かされたのである。

きっと彼は、自分の声の良さを主張したいわけではなく、楽曲の中でどんなふうに響けば美しいのかを常に考え、音楽に寄り添うイメージで歌っているのではないだろうか。そして、この「コペルニクス」で、私が息をのむぐらいハッとさせられたり、ひとつひとつが身体中に染み渡ったのは、音楽と彼の歌が、少しのズレもなく、しっかりとなじんでいたからではないだろうか。

秦基博は、音楽を通して私にたくさんの景色を見せてくれる。メロディーに乗せて、私の思いを叫んでくれる。喜怒哀楽では収まりきらない、言葉にできない感情を芽生えさせてくれる。

皆がひとことで済ませてしまう〝いい声〟の中身はきっと、
「あなたの音楽の中で響いているあなたの歌声がたまらなく素敵だ」
このようなものであることを、以前「声のことばかり褒められる」と嘆いていた秦さんには伝えたい。

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