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「僕と一緒に唄おう」

BUMP OF CHICKEN『pinkie』を発売から10年経った今、私なりに紐解いてみる

桜の花が咲き、春の風が吹き、春の雨が降る。
雨が去ると花びらは散ってしまって、どこかもの寂しげな桜の木が佇む景色を、私は毎年、何故か楽しみにしている。

桜の木を見ると、いつ咲くのかな、どんな色で咲くのかな、夏はどんな装いを見せるのかな、秋は?冬は?と、四季の移ろいを感じずにはいられない。

そんな桜を唄った、『pinkie』という歌がある。
私が大好きな、この世で1番、大好きなBUMP OF CHICKENのシングル『HAPPY』でカップリングされた曲にあたる。

『pinkie』の歌詞を考えたり、その背景を考えたりすることは今まで避けてきた。
なぜかといえば、宇宙のようにどこまでも解釈を広めることが出来るから、私自身の解釈をひとつに絞る自信がなかったからだ。
今回は『HAPPY』がシングルカットされて10年という節目もあり、自分自身の中でも折り合いが着いたのもあり。
長らく対峙してきたこの名曲に、私の解釈を添えてみたいと思う。そのため少し長くなるが、時間のある方はお付き合い頂きたい。

『pinkie』を解釈した結果をお伝えするにあたり、一つお伝えしたいことがある。
この解釈は私自身のものであり、なおかつ私自身の物語でもある。ストーリー性を持たせたいわけではないけれど、BUMP OF CHICKENというバンドが紡いできたこの曲の世界観を損なわないよう、丁寧にお話したい。そのため、ひとつの「絵がない絵本」と思って、読んで欲しい。感じて欲しい。
この絵本の設定はこうだ。

★★★★
「ある、サクラちゃんという女の子がいます。
サクラちゃんは、タンポポくんという男の子と仲良しです。」
★★★★
 
 

それでは、1ページ目を開くとする。
 
 

《未来の私が笑ってなくても あなたとの今を覚えてて欲しい》
歌いだしは、「お願い」から始まる。
この「お願い」は、いったい誰から誰へ向けられたものなのか。
私の思いつきうる言葉では、表現しきれない。次の歌詞も含め、サクラちゃんとタンポポくんの有りようをみていこう。

《心の始まりは強すぎて 言葉じゃ間に合わなくて
足りないからどんどん足すから 弱くなって終わりにした
繰り返す事を疑わずに 無くす事を恐れずに
自分のじゃない物語の はじっこに隠れて笑った
そうしなきゃどうにも 息が出来なかった
たいして好きでもない でも繋いだ毎日》

サクラちゃんは、いつもの二人の遊び場所、集合場所、お別れの場所である桜の木の下で、タンポポくんとけんかをしてしまいました。

些細なけんかだったけれど、仲直りしたい心と、意固地になっている心と。

言葉じゃ到底、壁ができてしまったタンポポくんとの距離は詰められなくて。
思ってもいない言葉をどんどんぶつけてぶつけて、最後はサクラちゃん自身がどうしようもなくなっちゃって、二人は離れ離れになってしまいました。

もしあのとき、素直に仲直りをしていれば。
もしあのとき、すぐにごめんねって言えていたら。

一度、仲直りさえできれば、何度だってけんかできるのに。

心ではそう思っていても、頭ではわかっていても、口から出るのは思ってもいない言葉ばかり。

サクラちゃんは、もう自分が自分じゃないみたいだ、と、桜の木の幹に隠れて、自分を戒めるように、悲しく笑いました。

だって、笑ってでもしていなければ、うまく息ができなかったから。
タンポポくんとの楽しい日々が、壊れてしまったこと。
もうずっと、これからずっと、タンポポくんとの線は交わらないかもしれないこと。

輝いていた毎日は、一瞬にして崩れ去ってしまって、たいして好きでもない、単調な時間が流れるものになってしまいました。
それでも息はしないといけないから、サクラちゃんは何とか一秒、また一秒と時を繋いでいました。

サクラちゃんは、どうしてもタンポポくんに言いたいことがあった。
「ごめんね」って。

だから、散っていく桜の花びらに、願いを込めて、タンポポくんに届くように、そっと桜の木の下で願いました。

《あなたのためとは 言えないけど
あなた一人が聴いてくれたら もうそれでいい 》

自分勝手にけんかして。
タンポポくんと離れてしまった。
だから、タンポポくんのためとは言わないけど、それでも、この桜の花びらに誓って、君に言いたいことがあるんだ。
もう届かないかもしれないけれど。

「ごめんね。それから、ありがとう」って。

直接、言う勇気はまだないんだ。
それでも、いつかは君に伝えに、会いに行くから、
桜の木の下で、たんぽぽがたくさん咲いて風に揺れる、日の当たるあの丘で。
桜の花びら伝いに、この言葉が届いたらいいなあってそう思いながら。
 

《約束は誰かと作るもので 誰かが頑張り屋で
追い付けなくて離れて 自分だけがまだ持ってる
明日に望まなくなったのは 今日がその答えだから
諦めて全部受け入れて でもはじっこに隠して持ってる 》

何年か経って、サクラちゃんとタンポポくんは別々の航路へと、帆を張りました。

タンポポくんは、初めての航路に胸を膨らませながら、心の真ん中で引っかかるサクラちゃんの泣き顔に、後ろめたい気持ちをかかえていました。

あのころは毎日、「またあしたね!」と夕焼け空の下でお別れしていて、それがあたりまえだとばっかり思っていたけど。
今になって、「またあしたね!」ってお別れすることは、同時に「明日会うこと」を約束していたんだなって。
約束しないと、サクラちゃんには会えない。
自分が頑張ったって、サクラちゃんが頑張ったって、追いつき追いつかれ、また離れては寂しくなる。

タンポポくんは、自分だけがまだ、あのけんかしてしまった日にいるような気がしていました。

サクラちゃんに会いたい!会って、ごめんねって、言いたい。

いくら毎日そう思っても、新しい航路に帆を張って、出発してしまった身。
明日も明後日も、その次の日だって、サクラちゃんに会って謝ることは、会うことだって、叶いやしない。

タンポポくんは、諦めて受け入れて、波の揺れにすべてを預けます。
それでもどこか、心のはじっこに、「会いたい」って気持ちを隠したまま。
 

《滲んでも消えない ひとり見た桜
眠りの入り口で 手を繋いで見てる 》

それからさらに時は流れて、二人は会えないまま、おじいちゃんとおばあちゃんになりました。

不器用な二人は、不器用な旅路の果てに、正しさが待ち構えていることを切に願いながら、あの日帆を張りました。
そして各々、たどり着いた旅路で、年を重ねました。

サクラちゃんは、ある小さな島で、たんぽぽの咲く小さな丘に、お家を建てました。
それはいつの日か小さな教会となって、森の動物や小鳥、村人までも祈りに来る場所になりました。
優しいおばあさんは、もうあまり体を動かせませんが毎朝、何かを呟いて微笑みます。

タンポポくんは、寂しがりなライオンが毎日つり橋を渡って、雨の日も風の日も、雷の日だって会いに来てくれる、そんな柔らかな風が吹く谷に、お家を建てました。
その谷は、谷底まで金色の化粧をしたように、一面にたんぽぽの花が咲く、きれいな丘です。
その日のライオンからのお土産は、金色に輝く小さな琥珀でした。

二人は遠く、遠く離れた地で、あたたかい日差しに包まれながら、すこし眠りました。
二人は同じ夢を見ます。
まだ小さな子供だった、あの日。
サクラちゃんと、タンポポくんと、けんかして、それっきりになってしまったあの日。
大きな、桜の木の下でけんかした、あの日のことです。

夢のなかで、二人は桜の木の下に立っています。
もうずいぶんと昔のことなのに、なんだか懐かしい気持ちになって、瞳から優しい雨が降ってきます。
木の幹のむこうがわ、誰かがいるようです。
サクラちゃんとタンポポくんは、夢のなかで、あの桜の木の下で、再会しました。
何年振りだろうか。
年月なんてすっとばして、二人はそっと手を繋ぎます。

《変われなくて いつも戸惑うけど
誰か一人が認めてくれたら もうそれでいい
過去からの声は何も知らないから 勝手な事ばかり それは解ってる
未来の私が笑ってなくても あなたとの今を覚えてて欲しい》

けんかしたあの日、あんなに謝りたいって思っていたはずなのに。
いざ再会すると、素直になれなくて。
それでも、いつのまにか二人はもう仲直りしています。

素直になれなくて、いつも戸惑うけれど、誰か一人が認めてくれたらもう、それでいい。

この時、「誰か一人が」じゃなく、二人はお互いに、お互いを認め合いました。

けんかしていたあの時、口にしたひどい言葉が、どこからか聞こえてきます。

二人は散っていく桜の花びらを愛でながら、「私たち、本当に勝手なことばっかり言っているね」と、困った顔をして、それでいて優しく微笑みます。

この夢から醒めたら、サクラちゃんと、タンポポくんとお別れになってしまう。
それでも、あなたとの「今」を、自分が覚えていて欲しい。
それだけでもう、いいんだ。
 

《心の始まりは脆すぎて 言葉には嫌われて
何をどうしたって手遅れで 砕け散って終わりにした
終わりにしたら始まって 言葉も心も超えて
ささやかな響きになって さよならの向こうへ 》

この瞬間に至るまで、私たちの心はとっても脆かったんだ。

言葉にもたくさん嫌われて、時間にも嫌われてしまったね。
もう、何をしたってどうしようもなかったんだ。

いったん休んだ。休んだら、また時が流れ始めて、言葉も心も、そんなものぜーんぶ簡単に超えて、いま桜の下で、こうして君に会えた。
髪と髪を、通り抜けていく風が、桜の花びらを少しずつかすめて、ささやかな響きになる。

離れ離れになったあの時、さよならをしたあの時、その瞬間を、もう超えられないと思っていた。
けど、今こうして会えた。何年もの時を経て、桜の木の下で、こうして。

《変われなくて いつも戸惑うけど
誰か一人が笑ってくれたら 僕はこれがいい 》

サクラちゃん一人が笑ってさえくれれば僕は、もうこれでいいんだよ。
これが、いいんだよ。

《あなたのためとは 言えないけど
あなた一人が聴いてくれたら もうそれでいい》

タンポポくんのためとは言えないけど、それでも、この桜の花びらに誓って、君に言いたいことがあったなあ。
あのときは、もう届かないかもしれないって思っていたけれど。いま言うよ。

「ごめんね。それから、ありがとう。私とけんかしてくれて、ありがとう」

タンポポくんがこの言葉を聴いてくれたら、もう、私はそれでいいんだ。
これが、いいんだよ。

《未来のあなたが笑ってないなら
歌いかける今に 気付いて欲しい》

もう私はおばあちゃんだけど。
もう僕はおじいちゃんだけど。

いまよりもっと未来の私たちが、笑っていないのだとしたら。隣にいないのだとしたら。
今この瞬間、大好きなこの桜の木の下から、未来の私たちに向かって優しく歌いかけるよ。
だから、できれば、気が付いてほしい。心のよりどころに、してほしい。
 

《未来の私を思い出せたら
あなたとの今を忘れなくていい》
 

サクラちゃんが
タンポポくんが
隣にいる。

「未」だ「来」ていない、これから先を、今という幸せを。

未来の自分がそれらを思い起こせたら、いまこんなにも幸せな、約束の桜の木の下でのあなたとの今を、忘れなくれいいんだ。いや、忘れる必要がないんだ。

「またあした、この桜の木の下で待ち合わせね!」
あの頃そうやって夕焼け空に誓っていたように。

「またあした、夢の中で、ここで。」
私たちはもう年を重ねすぎたから、明日という未来にすら、この世界にいるかどうかわからないけど。
こんなにも幸せな今を離れて、また目を醒まして、時間の続きを進む。
続きを進む恐怖の途中に、続きがくれる勇気にも出会える。

「あなたをなくすのが怖いの」

「そうだね。僕も怖いよ。
でも、なくした後に残ってる、その空っぽは悲しい空っぽなのかな?」

「ううん、その空っぽは、空っぽなのになぜか、愛しいの」

「そう。その愛しい空っぽを抱きしめて、僕らは未来へ進むんだ。
だから、今はお別れだ」

もしも、悲しい空っぽが残ってしまったとしても、消えない悲しみがあるんだとしても。

それを糧にして、生き続ける意味にしてね。

だからほら、いまは、お別れだよ。
僕たちは、お互いに戻らないといけない場所があるだろう?

どうせいつか終わる旅なんだ。
さあ、別れの合図じゃなくて、再会の約束を交わすために。

「僕と一緒に歌おう」

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