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2017年9月・月間賞 最優秀賞 | 2017年8月17日

タナイユウ (36歳)
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彼らが“Shimmer”を鳴らした理由

―ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017 the HIATUS のライヴを観て―

いつかROCK IN JAPAN FESTIVAL(以下ロッキン)のステージで、the HIATUSのライヴを観たいと思っていた。彼らと出会い今年で4年目を迎え、チャンスがないわけでもなかったのに、毎年タイミングが合わなかった。けれど、先日立て続けに私は身近な人を亡くし、いつかは今に変えないとダメだと急に思うようになった。そんな大袈裟な、と思う人もいるだろう。しかし、実際にロッキンに行き、the HIATUSのライヴを観終えた今は、行って良かったという気持ち以上に、ステージから伝わる5人の想いに強いシンパシーを感じたあの時間があったから、私は自分の気持ちに正直に生きる決意を固めることができたと実感している。
 

2017年8月11日。私がロッキンの会場に着いたのは、the HIATUSのライヴ開演時刻の約15分前。焦る気持ちを抑えつつ、小走りで賑わう人の波をすり抜けながら、GRASS STAGEに向かう。ようやくステージが視界に入るようになると、ちょうど総合プロデューサーであるロッキング・オン渋谷陽一氏の前説が始まったばかりだった。しかし、私には胸を撫で下ろす暇はない。ステージが良く観える場所まで、更に足早に向かった。

メンバー登場のSEが流れ、細美武士(Vo&G)、masasucks(G)、ウエノコウジ(B)、柏倉隆史(Dr)、伊澤一葉(Key)が現れると、轟音のような大歓声が上がる。一曲目に演奏されたのは、最新アルバム『Hands Of Gravity』より“Clone”。浮遊感漂うシンセの音を耳にすると、ホッとしたのか涙で目の前が滲んだ。今年から導入したというステージの背後のLEDビジョンには同曲のMVが流れ、浮かない曇り空の下でも心には七色の虹が架けられる。しかし“Geranium”の投下により、会場一帯はシリアスなムードに染め上げられ、大地を呑み込むような細美の野太い歌声に思わず息を呑んだ。立て続けに、厳つい重低音と挑発的なエレキギター、そして繊細なピアノで織りなす壊滅的なバンドアンサンブル“The Flare”を全身に浴びてしまうと、視界は揺らぎ、脳内が乱暴にえぐられながらも、私はカタルシスを味わうことになる。

今年のロッキンのタイムテーブルが発表され、the HIATUSが朝一番の出演だとわかった時は正直戸惑った。彼らのライヴを観るなら、夕方から夜にかけての時間帯が一番似合うと、個人的にずっと思っていた。しかし、そんな自分勝手なこだわりなんて、とっくに忘れている。目の前に広がる絶景を見逃すまいと私は必死だ。

すると、どこからか遠吠えが聴こえてくる。“Thirst”の時、ふと真横にあるビジョンを見上げると、鮮やかな青と金のツートンカラーの髪型からも気合が漲るmasasucksが、ピックを口にくわえ、額から大量の汗を垂らしながら、真剣な眼差しでエレキギターと向き合っていた。遠吠えの正体は彼。その姿を観た途端、ぐっと来てしまった私は確信する。彼らは今日このステージに、間違いなく命を掛けている。

一音でもずれたら雪崩が起きそうな壮絶なアンサンブルを聴かせる“Bonfire”には、ライヴだからこそ堪能できるスリルがある。跳ねまくる伊澤のピアノリフ。細かいリズムを猛獣のように叩き続ける柏倉。2人の打つ変化球に見事に低音を当てていくウエノ。それは音のバトルを見ているようで、「あぁもう最高!」と声を上げてしまいたくなるほど興奮せずにはいられない。そして、エレクトロポップナンバー “Unhurt”が投下されてしまえば、広大なGRASS STAGEは心地良いグルーヴと共に開放感で溢れ返る。辺りを見渡してみても、誰もが自由に身体を揺らしている。私はここにいることができて幸せだ。ハンドマイク姿の細美の歌声なんて、翼が生えたかのように自由で、どこまでも飛んでゆけそうな強さもある。

いつにも増して情緒豊かなピアノが響き渡り、細美の掛け声によってロックバンドとしての衝動へと変わる“Lone Train Running”は、己の道を突き進み続けるthe HIATUSそのものだ。《Away now》というサビのシンガロングは、正直もっと声が上がってもいいのにと私は思ったけれど、それでも細美は嬉しそうだった。今、自分の目の前に集まっているお前ら(細美は自分のファンのことを「お前ら」と呼ぶ)へ、次に捧げられた曲は、オーソドックスなミディアムバラード“Radio”。美しいバンドサウンドの真ん中に存在する、身振り手振りしながら必死に想いを伝えようとする無敵の細美の歌に、私の胸は熱くなった。
 

「懐かしい曲をやります」

アコースティックギターを抱えた細美がそう言うと、キラキラとした輝きを放つあのイントロが聴こえてくる。私の両目からは、大粒の涙が零れ落ちた。先日、the HIATUSが6年ぶりに出演したフジロックフェスティバルで、久しぶりにこの曲を演奏したことは知っていた。けれど、これはフジロックというロッキンとはまた違う特別な場所だからこそ演奏したのだろうと思い、当日その場に居合わすことが出来なかった私は、後悔の念に駆られていた。

“Shimmer”が収録されているthe HIATUSの3rd Album『A World Of Pandemonium』との出会いが、私の人生を変えた。このたった一枚のアルバムと、アルバムツアーの模様を収録したLIVE DVD『The Afterglow Tour 2012』が、失望と絶望の真っ只中にいた私の心を、唯一明るく照らしてくれた。そんな個人的な思い入れが過剰なほどあるこの曲を、私は暫くワンマンライヴでもフェスのステージでも聴いていなかった。不意打ちの“Shimmer”の登場に驚きを隠せない。なぜ、彼らは“Shimmer”をセットリストに入れたのだろう?確かに歌詞には《Summer songs ring out in my ears /In young hearts/ Summer songs plays on all the same(対訳:夏の歌が僕の耳や/懐かしい心に鳴り響き/夏の歌はいつだって同じように流れている)》とある。夏を感じさせる曲だから選んだのだろうか?私は、様々な想いを膨らませていた。
 

すでにライヴはクライマックスへと向かっている。見上げた空は、一向に晴れ間を見せそうにない。“Insomnia”では、そんなひたちなかの分厚い雲を打ち破るかのごとく、《Save me》とバンドとオーディエンスが一体となった絶唱が放たれた。この声は日本中、いや世界中で助けを求め叫ぶ人々の元へと、届いたのだろうか。

私は、“Insomnia”を聴くといつも、the HIATUSが背負うものの重たさに気付かされる。荘厳で、無限大の世界観を描くバンドの音楽性であるがゆえに、新たに楽曲を生み出すとなると、想像を絶するほどの時間と労力が必要になるのだろう。昨年、『Hands Of Gravity』のリリースとツアーが続いたことを思うと、思いっきり爆音を鳴らせるMONOEYESをやりたくなる細美の気持ちだってわかる。

そして、MONOEYESの始動が関係しているのか、ロッキンを始め、それ以外のフェスでも必ずと言い切れるほど演奏されてきた、攻撃的で激しいロックナンバー“Storm Racers”が、この日披露されていないことに私は気付いていた。ライヴでこの曲が登場すると、客席では必ずモッシュが起こり、クラウドサーフする者も出現する。ただ、もしオーディエンスを思いっきり暴れさせてやる役割を、今はMONOEYESが担っているのならば、the HIATUSで同じことをやる必要はない。では、逆に彼らが今、受けて立つべきこととは一体何なのだろう?
 

細美は最後のMCで、「来年もここで必ず会おう!」とは言わなかったが、それは決して不自然なことではない。ロッキンのステージに立ったほとんどのアーティストは、ライヴの最後に再会の約束を、オーディエンスと交わすのだろう。しかし、当たり前だがその約束を、果たせない可能性だってある。

2011年3月11日に発生した東日本大震災をきっかけに、それまでぼんやりと生きていた私の意識は明らかに変わった。その数年後から、the HIATUSのライヴに行き始め、MONOEYESにthe LOW-ATUS、そして、細美の弾き語りライヴにも足を運ぶ中で、また、東北を始め広島や九州への支援活動(彼はこれを支援とは思っていないだろう。「やりたいから足を運んでいるだけだ」と否定するだろう)に率先して参加する細美達の背中を見ていくうちに、私は自分自身の足元を日々見直すようになった。そして今、顔を上げて、その視線を外へ向けてみると、美しい景色だけが私の目に映るわけではない。増加する大規模な自然災害、不穏な空気が流れ続けている日本の政治と世界情勢。いつどこで誰がどうなるかなんてわからない現実と、私達は表裏一体だ。

the HIATUS、2017年に出演したロッキンの最後を飾った曲は“紺碧の夜に”。伊澤も椅子から立ち上がって鍵盤を弾き、5人が向かい合って音を鳴らす曲の間奏部分は、いつ見ても泣けてきてしまう。《紺碧の夜を/見上げて君に会える》。この祈りのような願いを胸に、彼らは次の目的地へと旅立った。 
 

私はまた必ずどこかでthe HIATUSのライヴが観たい。GRASS STAGEに集まった誰もが、私と同じことを思っているに違いない。そんなことを思いながら残りの時間を過ごし、帰りの電車の中で“Shimmer”を聴いていると、歌詞のとある部分に耳にした時、私は静かに納得した。

今日、あの場所で“Shimmer”を鳴らしたこと。それが、the HIATUSとして、今、受けて立つべきことなのだろう。この曲は、希望であり、祈りであり、一言では伝えきれないメッセージが込められている。その事実に、涙がまた溢れてしまった。以下歌詞を抜粋する。

――――――――――――――――――――――――

Chemicals are burning off 
And it turns ‘em blinding blue
Still my mind will only recognize
The things that make me weak
Saw my heart it’s written across the wall
My heart is written across the wall
I’m waking up this time
I’m waking up this time

<対訳> 
化学物質が焼き払い 
みんな眩ゆい青に変わり 
僕の頭はまだ
自分をうつむかせるものだけを捉えている
僕の心が大きく壁に書いてあった
大きく壁に書いてあったんだ
今度こそ目を覚ますんだ
今度こそ目を覚ますんだ

――――――――――――――――――――――――

《夏の歌はいつだって同じように流れている》、そんな世界になればいい。
そうであって欲しいと願うのならば、来年の夏もまたここで、彼らに会いたいと思うのならば、さあ、《今度こそ目を覚ますんだ》。

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