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What’s Going On?

Official髭男dismがくれた私の居場所

 もう消えてしまうんじゃないかと本気で思った。苦しい毎日。行き場のない想い。閉じ込めた言葉。そのすべてに埋もれて気がついたら自分がなくなってしまいそうなところまで来ていた。イヤホンをつけるあの瞬間までは。

 幼い頃の私からみた大学生はキラキラしていて眩しい世界の住人だった。友だちがたくさんいて、毎日みんなで遊びに行ったりとかして、恋人もいて、幸せいっぱいで、毎日家族とくだらない話で笑い合って。大学生は悩みとかも自分で解決できて、
きっと大人なんだろうななんて夢を持っていた。……でも、実際の私の住むこの世界はそんなに眩しいものなんかじゃなかった。
 友だちもできて、それなりに恋もして始まりは上々の滑り出しだった大学生活も、そう長くは続かなかった。入学してからしばらくした頃、誰も悪くないのに家族がすれ違うようになった。家族と過ごす時間が大好きで、週末はどこに行こうか考えて平日を耐え忍んでいた私には、だんだん家族の時間が減っていくことが苦しくてしかたなかった。どうにもできない無力さと、もう昔みたいには戻れないんだという切なさで、いつもは弾むような足取りで進んでいた家へ続く道も、いつの間にか涙があふれかえって足がすくんで進めないほどになってしまった。この不安を誰かに聞いてほしい。このまま一人で抱え込んだとしてもいつか崩れるのが怖い。そう思った私は、友だちに相談を持ちかけることにした。仲が良くて、いつも一緒に笑ってくれる友だちならきっと心を軽くしてくれると信じて疑わなかったから。私の話を聞いた友だちは少しの間を置いたあとひと言だけつぶやいた。

「なんか……話が重すぎてちょっと聞くのきつい。」

自分のいた空間がスローモーションになったような感覚だった。そっか、そうなんだ。この気持ちは誰にも言わない方がいい。この気持ちを表に出したらみんながきつくなるんだ。相談するたびに誰かがきつくなるくらいなら、それを見て自分もつらくなるくらいなら、自分の中に閉じ込めておいた方がきっと傷は浅くて済む。それ以来、中学時代からの親友に相談するときでさえ、私は笑うようになった。全然つらくなんてない。全然苦しくない。だから、あんまり心配しないでね。そうやって胸の苦しさを必死で誤魔化した。

私の気持ちなんか分からないのに励まさないでよ。

何も悪くないのに、何度も救われたはずなのに、いつも聞いていた熱い応援ソングも、儚いラブソングも私はもうまっすぐ聴けなくなってしまっていた。自分で希望して苦しんでるわけじゃない。それなのに何で突き放されなきゃいけないんだろう。何でみんなみたいに恋愛とかサークルとか学生らしい悩みじゃないんだろう。考えれば考えるほど心はすり減って、過呼吸が起こる日もあった。このまま苦しさの渦に溶けていってしまえば、もうこんな想いしなくてすむのだろうか。もうどうでもいい。どうにでもなれ。自暴自棄になって今にも消えてしまいそうなその瞬間にイヤホンから聞こえた歌詞に私は耳を奪われた。

『ああ神様 どうして
 生きていく事は こんなに辛い事なんだろう?
 感情がなくなってしまえば
 苦しくないのに』

元々音楽は専らダウンロード派の私のスマホから流れているのだから、自分でダウンロードして聞いたことのある曲のはずだ。だから誰の曲かも、曲名が何かも分かる。だけど、なぜか初めて聞いたような衝撃だった。

『What’s Going On?
 僕らはもう 生き抜いてやろうよ
 イヤホンつけたら
 1人じゃないから
 What’s Going On?
 イメージしよう 最高の世界を
 現実ばかりに
 縛られなくてもいいんだよ』

曲が進むにつれて涙が溢れて止まらなくなった。さっきまで私はこの世界に一人きりのはずだった。でもこの曲が再生された瞬間から私の周りにはOfficial髭男dismの4人がいて、私は孤独じゃなくなっていた。彼らはステージに立つ側の人間だ。私一人だけじゃない、その他大勢に楽曲を届ける存在だ。それなのにイヤホン越しに聴く彼らの楽曲は、その瞬間確実に私に向けての、私のために演奏されたものだった。彼らの楽曲が私にくれたのは、闇雲な励ましじゃない。適当な相槌じゃない。誰かが寄り添ってくれる居場所という、そのときの私が一番欲していたものだった。

『What’s Going On?
 What’s Going On?
 誰にも言えなくてもいいけれど
 What’s Going On?
 What’s Going On?
 このままお別れはないだろ
 待ってよ ダメだよ
 ダメだよ 辛いよ
 What’s Going On?
 愛してるよ この手を掴んでよ
 生き抜くことが
 反撃のビートだ 傷は消えないけど
 What’s Going On?
 愛してるよ 黒焦げた世界を
 超えていこうよ
 一緒に未来へいこうよ』

その日から、苦しいときはいつでもイヤホンでこの曲を聴いた。傷が消えたわけじゃない。この日から現状が大きく変わったわけでもない。それでも私は今前を向いている。イヤホンをつけたら一人じゃなくなること知れたから。絶対に寄り添ってくれる楽曲があるから。どんなにつらくたって生き抜くことが反撃のビートになることを知ったから。そして何より黒焦げたような世界を超え、一緒に未来へ進んでくれるOfficial髭男dismと、彼らのおかげで出会えた素敵な人たちがたくさんいるから。そう思わせてくれる彼らに出会えたことは私の誇りだ。先の見えない不安な時代で、次に会えるのがいつかもまだ不明瞭なこの世界だけど、彼らの楽曲はそんな中でもいつも一人一人に向けて響いている。何ヶ月後になったって、何年後になったって彼らがグッドミュージックをかき鳴らし続ける限り私は何度でも会いに行こう。そしていつか、私が思い描いた大人になれたなら、同じように悩んでいる若者に言葉をかけてあげたい。

『黒焦げた世界を 超えていこうよ
一緒に未来へいこうよ』

と。

『』内はOfficial髭男dism/What’s Going On?の歌詞引用。

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