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松たか子が高らかに歌い上げる意志

「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」を歌う、ずっと前から

映画「アナと雪の女王」は、正直、あまり気が進まなかったのだけど、言うなれば「立場上」鑑賞しておく必要があった(というと偉そうだけど、要は少年少女の感性を知っておきたいと願っただけです)。本記事ではストーリーについて詳しく述べるつもりはないし、そうしたいと思ったところで自分にはできないだろう。

それでも書いておきたいのは、登場人物のエルサが雪山を登りながら「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」を歌うシーンは、実に印象深かったということである。私よりも先に、この映画を鑑賞していた知己が「『Let It Go』を『ありのまま』と訳すセンス自体に度肝を抜かれた」と述べており、まさにと思った。エルサが<<このままじゃ ダメ>>な姿から脱却し、たどりついた場所で<<これでいいの>>と歌い上げる場面には鳥肌が立ったものだ。どんな屈託をエルサが持っていて、それを捨てる決意をし、そのあと、どんなフィナーレを迎えたかは、ここで述べることを避けたい。

エルサは、これでもかと言わんばかりに、エモーショナルに歌う。その声は松たか子さんによって放たれたものだ。前出の知己は「あの女優が、あれほどまでの激情を宿しているとは思っていなかった」とも言い、それまでに持っていたイメージを覆された、圧倒されたとも語った。たしかに松たか子さんが、エルサとして放つ「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」には、燃えるような思いが込められているように感じられる。

<<ありのままで 空へ風に乗って>>

そんなフレーズが、もし淡々と歌われていたとしたら、この映画の輝きは、いくらか弱まってすらいたのではないだろうか。

それでも私は、松たか子さんが、遠い日に「似たような激情」を解き放っていたのではないか、その炎は、穏やかそうにお見受けできる彼女の心のなかで、ずっと燃えつづけていたのではないだろうかとも考えた。

***

松たか子さんが歌手としてのスタートを切ったのは、1997年のことである(ごく個人的なことを述べるなら、それは私にとって生涯の親友と出会った、革命的な年だった)。楽曲の題は「明日、春が来たら」である。すでに女優としては輝かしいキャリアを築かれていた松たか子さんが、シンガーとしての魅力さえも持っていることに、私は驚かされた。「明日、春が来たら」の歌詞と旋律は、繊細なものであり、かつ力強いものでもあり、それは人間・松たか子さんの姿を見事に描き出したのではないだろうか。

ふわりと宙に浮くようなキーボードの音で本曲は幕を開ける。Aメロは単調にさえ感じられるような、繰り返しと言っていいかと思う。それがまるで、朝焼けを待つ時のような、静かなる期待感を私に(聴き手に)いだかせる。

<<走る君を見てた>>
<<放物線描いて>>

これは「過去」の物語なのだろうか、それとも「今」を歌う楽曲なのだろうか、そして主人公と相手は、どのような関係性にあるのか。それに対する(いわば)多義的な答えが、熱を帯びるBメロで明かされる。

<< I LOVE YOU あれは多分 永遠の前の日>>

このセンテンスを、どう読み解いたらいいのか、いまだに私には分からない。<<永遠の前の日>>、つまり、そこから<<永遠>>が始まったと解釈していいのだろうか。<< I LOVE YOU >>と歌う松たか子さんは(楽曲の主人公は)その<<永遠の>>恋を味わいつづけているのだろうか。<<多分>>という、さりげなく添えられた単語が、この曲を「多義的な」ものにしているように思える。恐らく作中の2人は、不安定な関係性にあるのだろうと、当時の私は考えたし、今も考えつづけている。

だからこそサビで放たれる、松たか子さんの歌声から、切実な思い、あるいは意志とでも称すべきものが感じられるのだ。

<<明日、春が来たら 君に逢いに行こう>>

この力強い決意は、「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」で放たれるそれと、ある意味では似通っているのではないだろうか。ためらう己に声をかけ、行くべき場所へ行こうとする姿。<<春>>を待ち焦がれる「明日、春が来たら」の主人公と、雪山を登っていくエルサの姿が、私のなかでは重なる。

<<夕立ちが晴れて時が 止まる場所をもう一度>>

これは恐らく、かつて2人が心を通わせていた瞬間の暗喩なのではないだろうか。それを<<もう一度>>求める松たか子さん。センチメンタルでありながら、勇ましさをも持ったシンガーが、目の前に立っているように感じられる。歌い手の姿を思わせる楽曲というのは、作品として「成功」していると、不遜にも考える。

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私たちが変革を果たすには、まずは<<誰にも 打ち明けずに 悩んでた>>自分を認めることが必要なのだろうと思う。その上で発する<<それももう やめよう>>という言葉。それが私たちを(比喩的な意味で)<<少しも寒くない>>と感じる境地へ、あるいは<<夕立ちが晴れて時が 止まる場所>>へと運んでくれるのではないだろうか。

松たか子さんというアーティストが、長く活動をつづけてきた、その歩みのなかには、寒い日や雨に降られる日もあったのだろうと察する。それでも勇気あふれる発信をつづけることは、周囲に心ある人がいるだけでは、きっと果たしえなかったのではないか。松たか子さんが、他ならぬ松たか子さんご自身に、語りかけ、歌を届けてきてからこそ、その心が折れなかったのではないかと私は思う。

映画や音楽といった「芸術作品」に励まされ、キャラクターの発言やシンガーの放つ歌声に鼓舞される私たちが、自分で自身を励まそうと思い立てた時に、あるいは「奇跡」のようなものが起こりうるのかもしれない。

<<自分を好きになって>>

私には、それは「奇跡」に近いような、とても難しいことのようにも思える。それでも「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」と「明日、春が来たら」は、私たちそれぞれに、少なくとも可能性がありはすることを、示唆してくれているとも思うのだ。

※<<>>内は松たか子(※日本語詞は高橋知伽江による)「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」、「明日、春が来たら」の歌詞より引用

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