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何かを変えたい 何かは知らない

Young person's guide to KIRINJI

普遍性と時代性、記名性と匿名性。そんな対立するものが互いに相手に勝とうと争うことを相克と言うが、一方で一つの事柄が相反する二つの意味を持っていることを両義性と言う。矛盾しているその言葉をどちらも内包するのがポップスだ。
抽象的な物言いだがブライアン・ウィルソンを例に出せば明快だろう。ブライアンとビーチ・ボーイズこそはポップスの矛盾を体現している。
言葉にならない曖昧なものを掬い上げるポップスに我々は魅了されている。しかしいつまでも輝きつづけたり、一瞬にして古くなったり、また時を経て光が当たったり、ポップスの評価とはきまぐれで正直で残酷だ。
何を選んで何を捨て、何を目指して何を得るのか。ポップスの広くて深い海にその答えを探す旅に出たバンド「KIRINJI」が6年半に及ぶ旅を終えようとしている。

遡ること23年前。「キリンジ」は2人のソングライターからなるユニットとしてデビューした。そしてプロデューサー冨田恵一が2人のやりたいことを具現化した。ジョンとポールがジョージ・マーティンに導かれ探究を深めたような音楽的な進化がキリンジにもあった。
それは音楽リスナーとしての興味がミュージシャンとしてのスキルを伴い加速していくポップスのカレイドスコープだった。機智と諧謔を駆使した歌詞は凡庸なJ-POPを色褪せてみせる刃だと私には思えた。しかしその刃がシーンを切り裂くことはなく、エバーグリーンで良質なポップスとの評価だけがポツンと残された。

朽ちることのない色褪せない名曲、と言われればほめ言葉として通用するかもしれないが、別の見方をすれば発見されるのをじーっと待っている壁の花のようなものだ。そもそもポップスとは時代の空気を反映するもの。エバーグリーンとは結果的にエバーグリーンになった、という意味でしかない。
2013年、「キリンジ」は堀込泰行の脱退により6人組のバンド「KIRINJI」として再始動し、時代とコミットする意思を明確にした。それは「キリンジ」の限界を超えるための手段である。

プロデューサー堀込高樹がバンド「KIRINJI」をプロデュースするという客観的なスタンスが貫かれている。アルバム「11」「ネオ」で試みられたのは年齢性別バラバラなメンバーのスキルとキャラクターをバンドに落とし込む事。
冨田ラボをコンパクトにしたような印象だが、アーティストの客演が賑やかであればあるほど却って冨田恵一の存在を際立たせている冨田ラボに対し、KIRINJIはコトリンゴや弓木英梨乃がセンターになるとカラーが一瞬で変わり、記名性の強い堀込高樹の曲であることを忘れてしまう。そして極めて個性的なコトリンゴでさえも普遍的な匿名性を帯びる。
記名性と匿名性の相克関係がKIRINJIのポップスをアップデートさせ、ジャンルを自在に横断する奔放さ自由さを得た。「ネオ」は何をやってもKIRINJIになる無敵感すら感じさせる傑作だ。
「ネオ」のジャケットはCGのメタリックな質感で描かれた記号のようなもの。ウネウネと動いて今にもその形を変えそうな記号は当時のKIRINJIを象徴している。

そして「愛をあるだけ、すべて」「cherish」ではより先鋭化する。中心に据えられたのはベース。ベースがぶっとい音でブイブイ鳴ってるクールでモダンなダンスミュージックだ。キリンジでもダンスミュージックはあったが、一周まわって新鮮に感じるディスコ、のような屈折した批評的アプローチだった。今作はそれと一線を画している。ムダを削ぎ落とし音数がグッと絞られたトラック、低音を強調したサウンドデザインはヒップホップのマターであり現代のトレンド。KIRINJIはそれを巧みに取り込むといった表層的なアプローチではなく、丸ごと食らうがごとく血肉化していった。
 

「cherish」に収録の『休日の過ごし方』は現役をリタイアしたと思しき男の心象風景が歌われる切ない曲だ。

「life is too short
なぜ、持て余す?
life is beautiful
そうだ、そうありたいね

何かを変えたい
何かは知らない」

ぼんやりとした不安と寂しさを抱える男は叫び出したい感情を抑えて日をやり過ごしている。叫んだところで何が変わるわけでもなく、それでも吐露せずにいられない葛藤。変えたい「何か」はこの歌詞では明示されない。しかしテンポ早く4つ打ちのビートが展開されるダンサブルなサウンドが目指すべき「何か」を示唆している。

普遍的なポップスという曖昧さから逃れ、時代とコミットするポップスを捉え、バンド「KIRINJI」の6年半はポップスを定義し直した旅といえるだろう。

オフィシャルサイトでKIRINJIはこう発表した。
「本作を作り終え、現編成のKIRINJIとして出来うることは全てやってしまったという思いも生じてまいりました」
「以後は、堀込高樹を中心とする変動的で緩やかな繋がりの音楽集団(現在のメンバーも含まれます)として活動していくことになりました。」

次に目指すものはなんだろう。時代を切り拓くポップス、ということになるのだろうか。緩やかな繋がりの音楽集団、KIRINJIの旅は続く。

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