4030 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

「会いにきたんでしょう!」と彼は言った

hide 20th memorial SUPER LIVE「SPIRITS」

2年前の春、友達が死んだ。
突然の別れだった。

彼女は洋楽、私は邦楽、好きなジャンルやバンドは違えど、思う気持ちは同じで、飽かず話した。毎晩のように。
音楽だけじゃない、仕事、恋愛、家族のこと、世界情勢のこと、昨日食べたスイーツのこと、何でも。
何を話すのも楽しかったけれど、彼女が好きなバンドを語るのが好きだった。まるで自分の命より大事なんじゃないかと思うほど、その思いは真剣だった。音楽がなければ生きる意味がない、とふとした時に口にすることもあった。
こんなに気の合う友達は初めてだったし、彼女の中に見える強さ、優しさに憧れてもいた。
仕事でトラブルが起きた時、人との付き合いで悩んだ時、こんな場面で彼女ならどうするだろうと考えることがあった。大事なことを決める時には、自分ではなく彼女を思い描いて決めることもあった。何でもダメダメな自分にとって、その方がより良い人間になれるような気がしたから。
実際に打ち明けたこともあった。平平凡凡な私のような人生の中でも山もあれば谷もある。時には思いもよらない嵐が襲ってくることもある。そんな中でこれはもう耐えられないかもしれない、と思った時、思わず弱音を吐いたことがあった。
その時彼女は真っ直ぐに言った。

「何があっても、世界中が敵に回っても、私は最後まで味方だよ」と。

漫画か映画みたいだよ、と私は笑った。彼女も笑った。
でもその後私は何度もその言葉を噛み締めた。漫画や映画のようであっても、実際に声に出して言われたら、こんなに心強いものなのだと、生まれて初めて知った。そして彼女のような友達がいれば、本当に、何があっても大丈夫かもしれないと思えた。この先の長い人生も。彼女と一緒におばあちゃんになって、こんなふうに毎日を過ごしながら。もし嵐がきた時には私もまた彼女を支えられる強い人間になりたいと心から思った。

「失ってはじめてわかる」なんて言葉がある。でも失わなくてもわかっていた。これは得難い友達。人生最高の友達。こんな出会いがあるのなら生きるのも悪くないと思ったし、神様なんて信じたこともなかったくせに感謝した。出会えた奇跡に感謝した。そしてこんな出会いがあるのなら、自分という人間にも少しは価値があるのかもしれないと思ったりもした。
その得難い相手が、人によって家族だったり恋人だったりするだろう。私にとっては彼女という友達だった。
 

訃報は、彼女の母親からもたらされた。
あまりに突然で、電話を持ったまま私はそこから動けなかった。
その夜のことはあまりよく思い出せない。
翌朝会社には行った。けれど仕事ができる状態ではなかったのかすぐ帰された。心配して送ってくれた同僚がサンドイッチを持たせてくれた。でもそれは次に見た時には黒くなっていた。
仕事に行くどころか、食べることも、眠ることも、何もできなくなった。何も受け入れられず、受け止めきれず、ただ彼女を探していた。何度電話しても留守電のメッセージが流れるだけ。わかっているのにどうしても電話してしまう。そして電話を見つめていると、あの日聞いた彼女の母親の声が聞こえてきた。どんなに打ち消したくても、その現実は耳の奥にこびりついていた。
彼女が亡くなったとも知らず送った、好きなラジオ番組に「楽しみだね」というLINEは未読のままだった。

朝も夜もわからず、何日過ぎたかもわからなかった。
ただ身体中が痛かった。心なんて見えも触れもしないのに、身体中を覆ってしまっていた。痛みだけがまだ自分が生きていることを感じさせた。

そんなある日、同じバンドを好きな友達から連絡がきた。約束していた月末のイベントはどうする?と。
そのチケットを買った時には彼女はまだ生きていて「邦楽はあまり聴かないけどROCKET DIVE好きだよ」と言っていたのを思い出した。思い出したらまた泣けてきたけど「行く」と返事した。
「行かない」の四文字より簡単に言えたのと、もしここで出掛けなかったら、一生家から外へ出ないままかもしれない、とどこかで思ったからだった。

何の準備もできないまま、ただその日青海に向かうことだけを頭の中で何度も唱えて電車に乗った。ZEPPに向かうため何度も行ったことのあるコース。それが、初めて通う道のようだった。知っているものが何もないようで、とても怖くなった。着いた駅で友達の顔を見るなり泣いた。そこからは何も考えるのをやめてただ友達について歩いた。ライブ会場でいつも会う人にも会ったかもしれない。でも何も見えていなかった。挨拶ができる状態ではなかった。
そんなに遠い場所ではないのに、歩き続けることができず、止まってはしゃがみこみ、しゃがみこんでは泣いた。しゃがみこむと友達が背中をぽんぽんしてくれた。そして立ち上がってはまた歩いた。会場に着く頃にはもうへとへとになっていた。

私たちの目当てのバンドは、最初に登場した。柵につかまって、ぼんやりと眺めた。まるで知らないバンドのようだった。好きなはずの曲、馴染んだはずの音なのに、自分ひとり水の中にでもいるみたいにぼうぼうと何も届かない。腕一本上げることもできず、つかまって立っているのが精一杯の有様だった。やっぱりまだ来るべきではなかった。こんな状態の私と一緒にいては、友達も気を遣って楽しめないだろう。もう帰ろうとした時だった。

「会いにきたんでしょう?」と声がした。

ステージを見ると、上を指している彼がいた。
馴染んだ声。何度も見た佇まい。空を仰ぎ、ステージから会場に呼びかけていた。

「会いにきたんでしょう! 一緒だよ!!」

会いに?そう、会いたい。ずっと会いたかった。どこを探してもいない彼女に。会いたい。会って話したい。もう待てない。出ておいでよ。そこにいるの?
あんなに大好きなジャンプなのに、跳ぶことはできなかった。ただ彼の指した上をずっと見ていた。
その先に、いるのだろうか。
見ているのだろうか。こんな有様の私を。
周りを見た。そして初めて気づいた。泣いているのは私だけではなかった。私よりももっと泣いている人もいた。
赤い髪をした人。イエローハートのタオルで顔を覆っている人。ピンクのマスコットを抱きしめた人。
色が飛び込んできた。世界は黒ではなかった。
もう一度上を見た。空が青かった。よく晴れて真っ青だった。ステージの向こうには緑の木々。そして赤や黄色やピンクの人々。
色とりどりで、空を見上げて泣いていた。
泣く人を奇異な目で見る人は誰もいない。
ここでは誰もが理解していた。
ここで泣いている人は、それを乗り越えた人だった。
乗り越えた人が、その姿を見せている。
なんて綺麗なんだろう。
目の前で揺れている真っ赤な髪は、見たこともないほど鮮やかで強く、優しかった。
泣いてもいい、しゃがみこんでもいい、最後までいようと思った。ここはそれを許してくれるあたたかい、唯一無二の場所だった。

やがて日は落ちてステージ上は一層色鮮やかになった。
一日音楽に浸っている間に身体を揺らし、腕を振る感覚がよみがえってきた。動いたらお腹もすいたのでカレーパンを食べた。あんなに美味しいカレーパンは初めてだった。テーブルで相席した人たちと乾杯した。アルコールはふわふわと自分を守ってくれた。
そして音楽が。ずっと包まれているようだった。
止まってもいいのに、と思っていた心臓を外から鼓動させてるみたいだった。

どうして突然死んでしまったのか。
なぜ会えないのか。
いつまた会えるのか。
どうしたら会えるのか。
あれから何度も何度もずっと問い続けていた。
でも、答えはないのだと悟った。
TELL ME。
それでも問いかけることは止められないけれど。
LINEは既読にはならないのだ。もう永久に。
この先ずっと生きていけるのだろうか、そのことも。
誰にも答えることはできない。
ここにいる誰もが答えのない問いを抱えている。
声にならなくても。伝わってくる。流れ込んでくる。
痛みは消えない。でも。

がんばるね。
また会いたいから。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい