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ずっと、友達

ピアノゾンビは何故売れないのか

不惑の四十を目前にして、唐突にピアノゾンビというバンドを知るに至った。
夫が最近になって始めた、「LET IT DIE」というアクションゲームの中でBGMとして彼らの曲が流れていたのである。

数年程前にリリースされたこのオンラインゲームは音楽にも力を注いでいたらしく、公式HP上には「日本国内の100のバンドが”レットイットダイ”をテーマにした楽曲を制作し、ゲームに参加!ゲームの垣根を越えたコラボレーションが実現!!!」と記載されていた。実に100のバンドがこのゲームの為に曲を書き下ろしたのである。プレイ中は順不同にこれらの曲がBGMとして流れるわけだが、オプションメニューからTOP5をループする仕様にも変更できる。
何を基に順位が決められたのか定かではないが、このランキングで耳に止まったのがピアノゾンビの「LET IT DIE~ゲームの歌~」であった。この曲がゲームのメインテーマだと言われても微塵も疑わない程にキャッチーなメロディーと小気味良い歌詞。

何気なくAWAで調べてみたら早速見つかったので、何曲か再生してみた所。

「めっちゃええやないか」

果たして、四十路間近のおばさんがパートの通勤時間にピアノゾンビをヘビロテする事態になってしまったのだ。

というわけで、ここひと月で突貫的に知り得た情報を元手に、ピアノゾンビについての所感を思いのまま書き連ねていきたい。

情報は彼らの公式HPやtwitter、youtubeを中心に仕入れた。
youtubeには公式がまとめたLIVEのダイジェスト動画が上げられていた。
ステージ上では、白塗りの顔で白いタキシードをきた華奢な男性が歌い叫び、ピアノを弾きつつも奇怪なパフォーマンスを繰り広げていた。もう一人、よく視認できないが小太りで黒いアダモちゃんみたいな男性も右往左往している。そしてその二人を物ともせず、泰然自若と演奏をする男性陣。ステージ上は雑然としていた。白塗りの男はどうやらピアノを担当しているようだ。

成る程、このバンドがピアノゾンビと名乗る所以は、この白い男性にあるのだな。
ふむふむ。と思いながらも、どこか釈然としなかった。
動画を進めるうちに、その判然としない違和感の原因に気付いた。
どうやら、白塗りの男がボーカルかと思いきや、その実バンドを率いてメインボーカルを務めるのは、白塗りの男の隣に立つ、金髪でギターを弾く男性なのである。
これは多くの初見者を襲う一種のアハ体験ではないだろうか。

硬派に演奏をする四人の男性と、みだりに踊り狂う白い男と黒アダモ。
一見さんの私には、両者が一向に乳化しない水と油のように見えた。

だがしかし、曲はやたらに良い。
公式から見られるPVには全て目を通し、itunesで一部アルバムも購入したが、とにかく曲のクオリティが高い。

陳腐な表現に終始する自分が情けないが、どの曲を聴いても「真面目」で「手抜き」をしていないと感じた。そしてバリエーションの広さにも驚かされた。
ラウド系のような曲がある一方でポップソングや切ないバラード、また昭和歌謡や特撮ソングを思わせるような曲調もある。ふざけた歌詞も沢山あるのだが、それにしたって楽曲そのものは、とてもハイクオリティなのだ。
高品質なメロディラインに全く意味のない歌詞、ふざけた歌詞を乗せるアーティストは他にも多々いるが、ピアノゾンビもまた、その色物臭さからは見当もつかない程に至極真面目なロックバンドなのである。

では何故、斯様なコミックバンドの如き体を成しているのか。

公式HPでメンバー紹介を調べてみた所、バンドは以下の要員で構成されていた。

ホネヌキマン(大王)
アキパンマン(ヴォーカル、ギター)
北松戸マン(ベース)
中島マン(ギター)
ヘルプマン(ドラム)
懺悔マン(ZANGEMAN)[Z]

この、ホネヌキマンというのが例の白塗り男なわけだが、彼の役割はピアノではなく「大王」である。
また、懺悔マンというのはどうやら黒アダモの事らしいが、彼の役どころはライブ映像を見ていても最後までよくわからなかった。
後はしっかりとしたプレイヤー4人で固められているわけだが、さてホネヌキマンとは。

ネットサーフィンしながらインタビュー記事などを見漁った結果、彼は元々、アキパンマン氏の前身バンド「スーパーサンダース」の熱狂的なファンであった事が判明した。
アキパンマンが「全国一アツイ男」と認めその熱心さを買い、新たなバンドのメンバーとして迎えたわけだ。
そんなホネヌキマンが任されたのが「ピアノ」。
ホネヌキマンはこの誘いを2度断ったという。何故なら、彼は楽器は何も弾けなかったからである。
しかし、次のバンドには絶対ピアノを取り入れたいと考えていたアキパンマンは
「こんなにもアツイ男なのだから、鍛錬すれば必ずや弾きこなせる」と信じて、地元九州で大学に通うホネヌキマンを中退させて迄、バンドに引き入れたのである。

早速、彼をピアノ教室へ通わせる等して鋭意工夫を重ねた結果。

弾けなかったのだそうだ。
公式を見ている限り数年は教室へ通ったようだが……。

彼はスーパーサンダースのファンとしては「全国一アツイ男」だったかもしれないが、それと音楽的素養の有無は相関しなかった。

これは、それなりに大きい問題だったと思われる。
全く音楽的貢献が見込めないからと言って放逐するわけにもいかない。
何故ならホネヌキマンは大学を辞め、バンドの為にはるばる上京までしているのだ。
まぁ、若い内は失敗も勢いでやり過ごせたりするし、案外当人に気負う所はなかったかもしれないが、それでも誘った側としては「あ、もう結構です」とは言い難い。

公式HPのプロフィールでは、ホネヌキマンはこのように紹介されている。

『本来なら即刻メンバーチェンジなのだが九州から上京させた手前クビに出来ず担当を『大王』にしてもらい名前は『ホネヌキマン』生まれた時から顔は白いと言い張って貰う。』

そして、末文はこう締め括られている。

『結果的にバンド名に『ピアノ』と入っているのにピアニストがほとんどピアノを弾いている時がないという変なバンドになってしまったが音楽業界でゾンビのように粘り強く頑張っている』

こうして文章を作っている今も、彼らに詳しいとは言えない私だが、一切の情報無しにビジュアルとライブ映像を見た時、この白い男の子は「戦略」なのかなぁ、と思った。しかし、キャラを立てるにしたって何番煎じなんだよ感が否めなかった。

というのも、バンドが結成されたのは2007年。
コロムビアからメジャーデビューを果たしたとされるのが2014年。

2007年前後から向こう10年の間で俯瞰するならば、折しもギャグ漫画「デトロイトメタルシティ」が爆進。2009年リリースのゴールデンボンバー「女々しくて」が2011年頃メガヒット。
2008年前後にヒットを飛ばしていたFUNKY MONKEY BABYSには、踊ったり手拍子しているだけで何をしているか分からないDJケミカルがいたし、2007年結成のSEKAI NO OWARIにも、被り物をしたバンドのマスコット、DJ LOVEがいた(この二人はホネヌキマンとは異なり音作りができる)。

タイムラインをなぞっていくと、同じような時期に顔を白く塗ったクラウザーさんや樽美酒 研二がおり、DJケミカルやDJ LOVEのように「舞台上で何をしているか分からない人」を置くグループが目につく形になっている。
結果的に、純粋なファンや余程の音楽好きでない限りは「また似たようなのがおるな」で片付けられ、市井の民の元には行き届かなかった恐れがある。

最も「白塗りメイクのバンド」も「演奏者の傍のパフォーマー」も然程斬新なものではない。クラウザーさんはおそらく聖飢魔ⅡやKISSをモデルにしているだろうし、そのジャンルの原点とも言えるアーサー・ブラウンが台頭したのは1960年代のことだ。
続く「舞台上で何してるか分かんない人」の祖として個人的に推したいのはピエール瀧である。彼もまた楽器の演奏が出来ず、ユニット内での担当はそのまま「瀧」。破天荒なパフォーマンスで数々の伝説を作り上げてきた(とは言え、4枚組CDのPARKINGや、体操30歳などで一応楽曲制作もしている)。

余談が過ぎたが、結局のところ副題にあげた「なぜ売れないのか」という点については、俄ファンが浅い推論を述べた所で埒が開くものでもない。バンドは星の数ほどある。目の前を横切るチャンスを確実に掴み取れるバンドはそう多くない。
ただ、余りに勿体無いと感じているのである。こんなに才能あるアキパンマンの楽曲が広く知られていないのが、余りにも解せないのだ。

そうして、解せぬ解せぬと思いながら日々ピアノゾンビに耳を傾け、twitterや過去のLINEブログを読み漁る内に、私の心境にはある変化が訪れていた。
最初は邪魔やなぁと思っていたホネヌキマンのことが、日毎に愛しくなってきたのだ。
「LET IT DIE~ゲームの歌~」の冒頭の「囚われた未来を撃ち殺しぇぇい!」という彼の怒鳴りも「めっちゃいらん」と思っていたのに、今や全く気にならないばかりか、その怒鳴りがないと物足らないとすら思えてきたのである。

白塗りにしていてもよく分かる可愛い笑顔。そして一生懸命喋っている様。
ピアノも、弾いてるふりとは言え頑張ってメロディラインを追っている(そしてちょっと弾いてる)。
懺悔マンこと元下僕にしても、寸劇やパフォーマンスで良い味を出せているのでは?と目線が極度に緩んできた(懺悔マンも、名古屋のファンの中でリーダー的存在感を放っていたことからスタッフとして招かれたが、残念ながらポンコツだった為、ホネヌキマンの下僕としてワインを注いだり、一緒に踊ったりしている)。

僅かひと月の間に、私の中で水と油だったホネヌキマン達とアキパンマン達が、見事に乳化を果たしたのだ。
単に慣れただけなのだが、慣れたことで視野が広がり、映像関連での見所が増えた。
まず、一絡げでボーカル意外区別がつかなかったメンバーにも徐々に個性が見えてきたし、PVも予算に関係なく押し並べて楽しんで作っているのが伝わってくる。

そして、聴けば聴くほど、楽曲と演奏のレベルの高さに改めて感嘆するのである。

私は音楽の専門知識は全くないので、ここで偉そうに御託を並べて本当に申し訳ないのだけど、アキパンマンの楽曲はとても丁寧で安定していると思う。どんな楽曲であっても隅々までバランスよく並べられていて、端々が綺麗に折り重ねられている。
御当人はしばしば職質を受ける程に尖った雰囲気を醸しているのだが、彼から紡ぎ出される楽曲は(勿論良い意味で)アカデミックに感じられる。ここまで言うと大袈裟すぎるかもしれないが、いずれにせよ並ならぬ素地があってこれらの楽曲が作られていると感じる。
更に、一小節の中にこれでもかと言う程言葉を詰め込む所と、その詰め込み方にも卓越した感覚を感じる。
「社長さんの歌」では特にそれを感じる。
一部歌詞を抜粋するが、個人的に相当痺れたのが
『誰の金で夜の鐘鳴らしてるの?』の部分である。こんなの、アキパンマンじゃないと歌いこなせない。カラオケで歌える気がしない。舌が滑り倒す事請け合いだ。
他にも「Hey You!!」の『ABCD~WXYZ』の下りや「ゾンビのうた」の「~回し続けるぜ BABY ロクロ首 首切り飛ばして 見に行こう境界線」の流れも聴いていて気持ちがいい。
「ベイビーベイビー」なんて、当時スマッシュヒットを飛ばしていてもおかしくない程の名曲に思う。
完全に独断と偏見に満ちているが、アキパンマンが作る曲は、絶対的基礎からなる曲調に、意表を付くリズムで独自の歌詞を乗せる所に大きい特徴があると思っている。
メロディ自体は「あっ、この感じ聴いた事ある」「なんだか懐かしい」といった感じで耳に馴染むポップな物が多い。割と昭和歌謡チックで演歌要素を感じさせる曲調もまま見受けられる。
既存の音楽文化を礎に、アキパンマンにしか書けない歌詞を、独特な配置で区切って並べる。それがまた中毒性のある、たまらない配置なのだ。
 

繰り返すが、私はまだ彼らのことを余り知らない。
だからどうしてもご都合的な解釈になってしまうのだが、表題にあげたように彼らは、ビジネス上の関係の前にまず、純然たる友達なのではないだろうか。
勿論実際の所は分からない。水面下では同床異夢かもしれないし、それなりに相性の良し悪しもあるかもしれない。
けれど、彼らを見ているとどうしてもそう思わずにはいられないのである。
「ピアノが弾ける様になれば、大好きなアキパンマンに喜んでもらえる」という方程式は一見単純に見えるが、大概のことはやはり、自主的に取り組まなければ結果に結びつかない。
ホネヌキマンは全国一アキパンマンのことが好きだったが、ピアノのことは別に好きではなかった(と思っている)。
これはアキパンマンにとって大きな誤算だっただろう。
だが私は、もし本当にアキパンマンがバンドで売れたいと思っているなら、とっくにこの世界観を捨てていると思うのだ。酷な話だが、ホネヌキマン達を切り離して、バンド名も変えて仕切り直す事だって出来ただろう。周囲にはそう進言をする人もあったかもしれない。
だがアキパンマンマンはそうしなかった。
結成から10年以上経つ今も共に舞台に立ち、横で踊り狂うホネヌキマン達を見るアキパンマンの笑顔は本当に嬉しそうだ。
見方を変えれば、アキパンマンは日本一アツかった男にずっと「ファンサ」し続けているとも言える。そして、それを一番近い所で一身に享受するホネヌキマンは、スーパーサンダースの頃と何一つ変わらぬ思いでアキパンマンのファンを続けているのだ。きっと。

こんなに平和なことがあろうか。

とってつけたような話だが、バンドが掲げるテーマは「世界平和」であるらしい。
彼らが目指すのが文字通りの ”世界平和”なら、それは荒唐無稽に思う。
だが、”世界”の定義がバンドとそれを取り巻く「民」(ピアノゾンビのファンは民と呼ばれる)であるならば、もはや活動している時点で目標は十二分に達成しているとも言える。

とは言え、ピアノゾンビの素晴らしい楽曲、演奏、パフォーマンスをこのまま「秘すれば花」とするのもやはり惜しい。個人的には、ライブ会場にまだ溶け込めたであろう20代の時点でちゃんと知っておきたかったバンドだ。遅きに失したかもしれないが、今からでも何か出来る事はないか調べてみた所、柏PALOOZAでのワンマンライブチケットがクラウドファンディングで扱われているという。開催日未定ではあるが、いつか彼らのパフォーマンスをこの目で見られるその日が来る事を願い、一口支援させて頂いた。

このコロナ禍が過ぎ去り、賑やかなライブハウスの片隅で爆音に身を任せられたなら、私の何気ない毎日はきっと平和で幸せなものになるに違いない。

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