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「好きな曲」と「大事な曲」

L'Arc~en~Cielと東京事変に鍛えられた指先

「好きな楽曲は何ですか」と訊かれると、僕は少し困ってしまう。「好き」という感情には様々な形があり、そのうちのどれを提示すればいいのか(提示するべきなのか)迷ってしまうのだ。毎夜のように聴く(つまり心を温めてくれる)という意味で「好き」な曲があるし、かつて自分の心を救ってくれた(要するに恩がある)という意味で「好き」な曲もある。それぞれについて具体例を書いていると、本題に入るのが遅れてしまうので避けたい。

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市民ベーシストである僕には「課題曲」のようなものがある。もしかするとプロ・アマを問わず、奏楽に励む人は何らかの「課題曲」を持って、高みを目指したり、何とか技量を維持したりしているのではないだろうか。合同練習やライブの前のウォーミングアップに弾いたり、その日の(自身の指の)コンディションを確かめたりするのにも、それらの曲は用いられるはずだ(少なくとも僕の場合)。

そういう意味で「大事な曲」が、L’Arc~en~Cielの「flower」である。純粋に「好き」でもあるのだけど、たとえば「自分が好きな曲ベスト10」のようなものを絞るとしたら、失礼ながら「flower」は入らない(そもそもL’Arc~en~Cielが「好きなアーティスト10」に入るかも際どいところである)。それでも「flower」のベースラインからは実に多くのことを学ばされるし、何より「コンディションを確かめる」のに最適なのだ。

「flower」のベース・パートは、端的に言って難しい。「この曲を難しいと感じているようでは、この記事を書いている男は、大したベーシストではないな」と思う人もいるかもしれない。大したベーシストではないのは正解である、反論しない。でも、この曲が平易で「ありきたり」のものだと考えているのだとしたら、それは間違っていると僕は思う。

それでも僕が「flower」を何度となく弾いてきたのは、それが「難しいだけ」のものではなく、ギリギリ「楽しめる」ものであるからだ。この曲を大きなミスなく弾き通すことができれば、その日のコンディションは良いという自信を得られ、できなければ、できないなりの工夫をすることになる(たとえば全ての音をピッキングで出すことをあきらめてハンマリング・オンに頼る、手数を減らす、ハイフレットに跳ぶ回数を減らすなど)。

ベーシストが、愚直にルート音を示しつづけるべきなのか、気ままに動いて曲に彩りを加えるべきなのかは、意見の分かれるところだと思う。個人的には、その中間点のようなものを目指している(コピーしていて最も楽しいのは、つまり中間点にあるのは奥田民生氏の楽曲である。愚直さの手本としてはBOØWYが挙げられるだろうし、気ままさの好例としては「ずっと真夜中でいいのに。」が挙げられるだろう)。

「flower」のベースラインは気ままであり、奔放であり、優雅である。そんな風に僕は思う。本来的には(一般的には)鍵盤で出すのではないかと思わせるような、実にメロディアスなフレーズが、いくつも含まれる。それがベースによって重低音で出されることが「flower」を傑作に仕上げたのであろうと考えている。ちなみに僕が最も好きな(つまり聴いていて心地よくなる)L’Arc~en~Cielの楽曲は「瞳の住人」である。それについては本記事では触れない。

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ベーシストの役割は、前述したようにルート音を示すことだと思う。それを示しながら、どの程度の手数にするのか、そして動くのか(どのくらいメロディアスなベースラインを考案するのか)は、きっと各自に委ねられることなのだろう、それぞれが「自身の技量」や「所属するバンドの個性」を踏まえた上で、決断を下すものだと思う(僕はそうだ)。

それでも前提的に、ベーシストに(というか演奏者の全員に)求められることがあるはずで、それは「呼吸を合わせよう」という意識であろう。バンドというのは言うなれば、チームスポーツである。もちろん圧倒的な存在感を放つフロントマンを擁するバンドもあるわけで、彼なり彼女なりは(スポーツで言うところの)ポイントゲッター、エースに喩えられると思う。それでもエースにさえ、やはり「合わせよう」という意識は求められるのではないか。

「呼吸を合わせるのが難しいこと」を僕に教えてくれ、「それが叶ったとき素晴らしいことが起こる」ことを教えてもくれるのが、東京事変の「透明人間」である。この曲のベース・パートは、AメロからBメロにかけては、弾いていて、とても楽しい(平易だ、と言い切るほどに僕は上手くない)。それでもサビに入ると、各パートが大胆に動きはじめ、その「痛快な嵐」に飲み込まれないように、僕は必死に集中力を高めることになる。

バンドスコアを買ったり、メンバー(市民バンドの仲間)と相談したりするうちに分かったのだけど、ドラムはサビで、バスドラの4分打ちに、ハイハットの鮮やかなコンビネーションを重ねる。さらには所謂「裏打ち」で、ハンドクラップが入るようなのだ。キーボード(アコースティックピアノ)による旋律は、さらに奔放、というか華麗なものである。サビは「3連」で、まるでクラシックの古典的な名作のような、エレガントな音を出す。

サビのベース・パートは、それだけを取り出せば、決して複雑怪奇なものではない。それでもドラムスとキーボードに合わせようと考えた時、それは困難なことになる。それでも椎名林檎さんという(いうならば)エースを輝かせたいのなら、泣き言を吐いていられない。もちろん僕の所属するバンドのヴォーカリストは、椎名林檎さんほどの才は持たない(はずである)。それでもベーシストには、たとえアマチュアであっても、ヴォーカリストを守る義務があると僕は考えている。

東京事変の「いちばん好きな曲」は「閃光少女」なのだけど、それについても、やはり触れない。

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ここまで書いて、何となく思ったのだけど、様々な形の「好きだ」「大事だ」という感情があることは、人間関係にも当てはまるかもしれない。僕は自分を諭したり、激励したりしてくる人の存在をありがたいと思っているし、同時に、ただ背中をさすってくれるような、要は甘やかしてくれる人を欲してもいる。市民ベーシストである以前に、僕は人間である。だから癒され、楽しまされ、そして指導され、鍛えられ、そうやって生きてきたわけだし、これからも(終わりの日が来るまで)そんな風に歩んでいくのだろうと思う。

ありがとう、L’Arc~en~Ciel、東京事変、そしてバンド仲間に限らない、様々な形で僕を守ってくれる人たち。これからもよろしくお願いします。

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