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暗闇を彩るThe xxの世界

ネオアコの原石から生まれたモノクロームなきらめき

今、耳にして特別にフィット感を覚えるサウンドの一つがThe xx(ザ・エックス・エックス)だ。こんなモノクロームに沈んだ音がこれほどまでに心を彩るのは一体なぜなのか。ノスタルジックなサウンドをバックに男女のミスティなツイン・ヴォーカルが浮遊する。そんな、一見穏やかなサウンド・コンセプトを持つこのユニットには、癒しを目的とした音楽とは異なる凛とした佇まいがあり、そういった部分に僕は強く惹かれているのかもしれない。

ミニマルでローファイとも取れる音数の少なさ、メランコリックの極致をゆくメロディー・ライン、メインストリームから隔絶しているような禁欲的な佇まい・・・彼らのそういった音楽性からは、遥か昔の80年代ポスト・パンクが内包していた音楽的反骨精神や、ネオ・アコースティックに漂う憂いや倦怠感のようなものが香り立ってくる。

The xxを初めて耳にした時真っ先に思い浮かんだのが、ヤング・マーブル・ジャイアンツという知る人ぞ知るグループだった。ジャンル的にはネオアコに分類されているユニットであるが、ヤング・マーブル・ジャイアンツが奏でる強烈にDIY色の濃い、超が付くほどのローファイなサウンドは、一般的にネオアコと認識されているものとは一線を画している。にもかかわらず、まさにネオアコの原石としか言いようのない純度の高さを感じさせる。

The xxが実際にヤング・マーブル・ジャイアンツの影響を受けているのか否かはわからないけれど、ポスト・パンクやネオアコの精神性や音の継承が僕にはふつふつと伝わってくる。ヒップホップやR&B、EDMといったサウンドが席巻した2010年代において、ロック・バンドのようなハードな音でもなく、シンガー・ソングライターのような強いメッセージ性でもない、ネオ・アコースティック・エレクトロという特殊な音楽性によって、美しき反骨精神を表明した存在はさほど多くはないだろう。

僕がThe xxにハマるきっかけになったのは、ユニットのサウンド・クリエイトを担当するジェイミーxxが2015年にリリースしたソロ・アルバム『イン・カラー』を聴いたことだった。まず、母体よりもソロの方が派手な音作りというところに惹きつけられた。エレクトロニカ、ダブ・ステップ、ドラムン・ベース、ワールド・ミュージック、アンビエントといったクラブ系の要素を独自に融合させた彩り豊かなトラックの数々。それらが万華鏡のごとく展開される『イン・カラー』に中毒症状を起こし、これを聴いてからじゃないと寝床に入れないという事態がしばらく続いたほどだった。特にラストの2曲、「ザ・レスト・イズ・ノイズ」と「ガール」の七色に揺らめくノスタルジックな音響に耳を澄ましていると、全身がトロみがかった液体に包み込まれてゆくような感覚に陥ってしまう。そんなトリップ体験を味わうことで、僕はぐっすりと眠りにつけていた気がする。

The xxのオリジナル・アルバム3枚、ジェイミーxxのソロ・アルバム1枚、その中からどれか1枚だけ選ぶのは非常に難しい。いや、正直そんな必要性など感じさせないほど、どれもが同等の高いクオリティを持ち、全てが推し盤という稀有なユニットなのだが、ここでは2017年にリリースされた現時点での最新作『アイ・シー・ユー』にスポットを当ててみたい。

『アイ・シー・ユー』は、明らかにジェイミーxxのソロ・アルバムを踏襲した音作りがなされており、モノクロームなロミーとオリヴァーのツイン・ヴォーカルをバック・グラウンドにして、ジェイミーxxの彩り豊かなサウンドを堪能する。そういった逆転の発想的な聴き方も可能な音楽性に、他には無いユニークな魅力が感じられる。

オープニングを飾る「デンジャラス」でいきなり意表を突かれる。高らかに鳴らされるトランペットを合図に重厚なベースとダンサンブルなビートが打ち込まれる。そこへ、いつもと変わらぬロミーとオリヴァーの掛け合いが絶妙に絡み合い、The xxの新境地が見事に開拓されている。それに加え、開放的で甘味なチル・アウト&ウェイヴ成分を意識的に放出し、その相乗効果でそれまでの排他的な雰囲気から一歩半外へ踏み出しているようにも響く。

「ア・バイオレント・ノイズ」と名付けられた文字通りのキラー・トラックを筆頭に、「セイ・サムシング・ラヴィング」、「リップス」、「レプリカ」、「オン・ホールド」、「アイ・デラ・ユー」と、全編にわたって繰り広げられる美しき調べの数々。この、哀切に満ちた喜びの賛歌とでも言うべき世界観。なにも加える必要もなく、なにかを差し引く理由もない。暗闇に灯る結晶の輝きに僕は目を細め、ただ静かに耳を委ねるのみ。

The xxの素晴らしさを一言で表すなら「簡潔の美学」となるだろうか。音楽がアナログ盤からコンパクト・ディスクに移行して以来、クオリティのさほど高くない楽曲や、アルバムの世界観とは関係のないボーナス・トラックが無造作に収録され、お世辞にもコンパクトとは言えない代物が巷には溢れている。そんな中にあって、楽曲数を絞り込み、収録時間を40分前後に抑えているところに、このユニットの簡潔の美学、音楽に対する愛情と敬意の深さを感じてやまない。そんなThe xxの新作を、僕は静かに日々心待ちにしている。

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