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苦手だった曲が、2年後、自分の応援歌に

星野源「Stranger」が教えてくれたこと

 私が星野源の「Stranger」というアルバムに出会ったのは高校3年生のとき。当時、CMソングに使われた「夢の外へ」が大好きで、1年8ケ月ぶりに発売したアルバムに入っていると知り、CDレンタルショップで「Stranger」を借りた。星野源の作品を手に取るのはこの時が初めてだった。早速、大好きな「夢の外へ」を連続リピートして聞き込んでいたが、ウォークマンの繰り返しのボタンを押す前に、「夢の外へ」の次の曲「フィルム」をうっかり流してしまうことがあった。私は正直、この曲が苦手だった。一曲目の「化物」二曲目の「ワークソング」そして三曲目の「夢の外へ」でせっかくテンションが上がったのに、少し暗く感じるイントロから始まり、歌い出しの歌詞も{笑顔のようで 色々あるなこの世は 綺麗な景色 どこまでほんとか}というマイナスに感じてしまう歌詞。テンションが下がってしまうので、このアルバムは夢の外へまで聴いたらすぐにまた一曲目に戻しての繰り返しだった。

大学2年生のとき、星野源にどっぷりとハマる機会が訪れた。「ROCK IN JAPAN FES 2015」だ。GRASSSTAGEのトリを務めた星野源。私自身、「夢の外へ」はもちろん、この年の大ヒットナンバー「SUN」を聴けるのを楽しみにしていた。「みんなが全員違う踊りを踊ってるところが見たい。かっこ悪くてもいいんだ、みんなが自分の踊りを踊っているところが見たい」星野源は「SUN」を歌う前にそう言ってくれた。このロッキンが初フェスだった私。最初は少し恥ずかしかったけど、周りの人が笑顔で楽しそうに踊っているのを見て、恥ずかしさも吹き飛んだ。そして何より、星野源がすごくやさしい顔で客席を見ていてくれていた。みんなでノリノリで踊ったかと思えば、「くだらないの中に」「くせのうた」の星野源にしか書けないラブソング。私は気づくと泣いていて、今、この瞬間に立ち会えたことに胸がいっぱいだった、
フェスから帰ってきた次の日、すぐに私は星野源の過去のアルバム全て借りに行き、星野源の動画や、表紙になっている雑誌を見あさった。星野源が書いた本もすべて読んだ。
 
当時の私はいろいろと辛いことが重なった時期だった。大好きな彼氏と別れたり、大学も行く意味が分からずサボりがちになってしまっていた。なんのために生きているのか、自分は誰にも必要とされていないのではないか。そんなことを思いながら生活する日々が続いていた。そんな私を見かねたバイト先のパートさんが、いつも気にかけて声をかけてくれていた。その方も星野源のファンで、好きな曲の話になったとき、「私は昔から、フィルムが一番好きなんだよねー!」と言っていた。私は正直に、「高校の頃初めて聞いたとき、フィルムを聞くとテンションが下がってしまった記憶があってそれからは全く聞いていないです、、」と伝えたところ、「そっかー。でも、高校の頃聴いててそう思ったんでしょ?今聞いてみたら、きっと違って聞こえると思うよ」と言われた。

パートさんに言われてから、早速、久々に「Stranger」を最初から聴いてみた。「化物」「ワークソング」「夢の外へ」のアルバム通りの順番で。「そうそう、この3曲のこの流れが大好きだったんだよな」と思いながら。そして、四曲目の「フィルム」。{笑顔のようで 色々あるなこの世は 綺麗な景色 どこまでほんとか}この出だしを聴いたとき、初めて、「フィルム」の歌詞が自分に重なった。当時のアルバイト先は接客業で、常にお客様に対して笑顔でいなければならなかった。大好きな彼氏と別れても、大学生活が充実していなくても、孤独に感じても、それはお客様には知ったこっちゃない。そう思っていたから、たとえどんなに辛くてもお客様の前では笑顔でいた。まさに今、笑顔のようでいろいろある人生を送っているんだと思った。それと同時に、高校生のとき、この歌詞にまったく共感できなかった自分を思い出した。私は、昔から自分の感情が表に出やすいタイプで、うまくいかないことがあったり、辛いことがあったりしたらそれが顔に出ていて、それに気づいた周りの人たちがいつも気にかけてくれていた。もちろん、自分が楽しい時は心からの笑顔だった。だから、笑顔でいる人は幸せな人だ、今を楽しんでいる人だ、そう思って疑わなかったし、笑顔なのにいろいろある人っているの?恥ずかしながらそう思っていた。でもそれは大きな間違いだった。

{どんなことも 胸が裂けるほど苦しい 夜が来ても すべて憶えているだろ 声を上げて 飛び上がるほどに嬉しい そんな日々が これから起こるはずだろ}この歌詞の部分を聴いて私は声を上げて泣いていた。笑顔のようでみんないろんな思いを抱えている。今の自分もそうだ。でも、これから心から笑える出来事が起きることを願って希望をもって生きていくしかない。くも膜下出血という大きな病気を乗り越えた星野源。著書の中でも、それは壮絶な闘病生活だったと言っていた。そんな大きな出来事を乗り越えた星野源が、飛び上がるほどに嬉しい日々がこれから起こるはずだろうと言ってくれてるのだから、大丈夫。そう思えた。初めてフィルムを聴いてから2年後。ようやくこの曲の意味を自分なりにとらえることができた。               

それから、私にとって「フィルム」は人生の応援歌になった。頑張ろうとかポジティブに行こうとかそういう言葉がある曲だけが、応援歌ではないことを知った。昔から、キャッチ―で、分かりやすくテンションを上げてくれる曲が好きだった。でも、この曲に、前向きで明るいフレーズは出てこないし、「よし、明日から頑張るぞ!」と熱い気持ちになるわけではない。だけど、自分の人生にそっと寄り添ってくれる、私のおまもりみたいな曲だ。これから自分の人生に訪れるであろう、小さな光を待つことが出来る曲だ。

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