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ザ・ストロークスが再び音楽を作った意義

『ザ・ニュー・アブノーマル』を聴いて

 ザ・ストロークスがロックの歴史の中で描かれる存在はどういうものだろうか。2001年、『イズ・ディス・イット』という名盤を世に放ち、ガレージロックリバイバルという新たなムーブメントの旗頭になった彼らはたった1枚のアルバムでロックの歴史に名を残すことになった。

 しかし、この約20年間で彼らは『イズ・ディス・イット』に並ぶ作品を作ることはできなかった。それがロックの歴史、ひいては多くの音楽ファンが共有するザ・ストロークスの姿だろう。

 ここで「歴史」という言葉を用いることに少し違和感を覚える人もいるかもしれないが、僕はストロークスの存在を2000年代のロックシーンを作った存在として知ったのが初めての世代の人間である。そんな僕にとって、ストロークスはロック名盤リストに1枚だけ名前が載っている歴史上のバンドだった。

 ストロークスを初めて聴いたのはYouTubeのおすすめで出てきた『ラスト・ナイト』のMVを見たことだ。それは衝撃的な体験だった。あまりにもパスパスなドラムにスカスカなバンドサウンド、がなり立てるように歌うボーカル。ガレージロックリバイバルというジャンルこそ知ってはいたが、あまりにもリバイバルしすぎではないだろうか?というほどの古臭さ。とても21世紀の音楽とは思えなかった。

 その時点ではストロークスというバンドにハマることは無かったが、変なバンドだなという強い印象は受けた。そこから猛烈にハマっていくきっかけとなったのは2枚目の『ルーム・オン・ファイア』からのシングル『レプティリア』を聴いてからだった。

 それからはストロークスのどんな曲を聴いても最高と思えることが出来た。自分にとって運命のバンドに出会えた。その嬉しさでいっぱいだった。

 しかし、時は2010年代の半ば。ガレージロックリバイバルなど過去のものとなり、ストロークスは解散説さえ出ていた。色々調べていくうちに、ストロークスの内部でいざこざがあったこと、ボーカルのジュリアンの酒癖の悪さやギターのアルバートのドラッグ依存など売れたロックバンドにありがちな古典的な破滅の道をたどっていたことが分かった。

 「そこまでリバイバルする必要ないのに」とも思ったが、それよりも最も自分にとって許せなかったのが、ストロークスがその能力や実績に値するほどの成功を収めていなかったことだ。ストロークスから影響を受けた後続のバンド、キラーズやキングス・オブ・レオンやアークティック・モンキーズは世界で大ヒットしたにも関わらず。

 この事実が何よりも自分のファン心理を大きく動かした。いつか、ストロークスがまたシーンに戻ってきて、『イズ・ディス・イット』を超える作品を作ってみんなをアッと言わせて欲しい。しかし、当の本人たちはたまに思い出したようにライブをしてはヘロヘロのジュリアンのボーカルに素人目にも上手いとは言えないバンド演奏で1時間そこらで切り上げて、楽曲制作はソロ活動が主と、ストロークスを義務で続けているような態度にやきもきさせられた。

 でも、それでも彼らが自分にとって最高のバンドであり続けたのは、彼らがたまのライブで鳴らす音は紛れもなく、あの2000年代以降のロックを定義づけた奇跡のようなサウンドであり、まだあの5人がともにステージに立っているだけでも後追いの自分にとっては嬉しかった。

 そして自分がストロークスのファンになってから6年目になる今年の正月にストロークスが7年ぶりとなるニューアルバムを発表するというニュースが飛び込んできた。

 本当にストロークスの新しいアルバムが聴けるのかと半信半疑だったが、去る4月10日、遂にストロークスの6枚目のアルバム『ザ・ニュー・アブノーマル』を聴くことが出来た。

 初めてリアルタイムで聴くストロークスのフルアルバムは前半はストロークスらしいガレージロック、ポストパンクサウンドの曲や4枚目からアプローチされてきたニュー・ウェイヴ的な質感の曲があり、すぐに馴染むことが出来た。

 しかしレコードでいうB面の始めの6曲目の『アット・ザ・ドア』から雰囲気は一変する。アナログシンセのような音が鳴り響くなかで、ファブのドラムは姿を現さず、ジュリアンが紡ぎだす歌詞からは今までの楽観的で飄々としてきたイメージからは程遠いシリアスな情景が目の前に広がる。シングルですでに聴いていたとはいえ、アルバムで聴くとその異質感に再び意表を突かれる。

 アルバムの後半にはストロークスのパブリック・イメージに合う曲は1曲も無く、少し驚かされた。しかし、なんだろう、2枚目以降の彼らのアルバムでは最も彼らが肩の力を抜いて作ることのできたアルバムのような気がするのだ。

 ストロークスの歴史の大半は『イズ・ディス・イット』の成功によりロックンロールの救世主として持ち上げられた過去から逃れることの出来なかった歴史とも言い換えられる。彼ら、特にジュリアンの全てに対してどうでもいいよとでも言いたげな態度にも関わらず、彼らは自らと周りの求めるイメージのギャップに苦しんだのは明らかだ。

 今作では彼らが作りたいものを誠実に、素直に表現できていると感じた。ジュリアンの過去作と比べて最も柔らかく、表現力のあるボーカルからそれは感じ取れるし、本人たちからの証言でも読み取れる。ベースのニコライはみんなで集まってアイデアを出し合うのは久しぶりだったと語り、ジュリアンはストロークスの一員でいられることをようやく楽しめている、アルバートはキャリアで最もワクワクしている、とメンバーは今作に対してポジティブな印象を口にする。

 それに、彼らがYouTubeにアップした(リモートではあるが)5人が会話する一連の動画を見ると、かつての新作を出してもプロモーションは一切せず、ツアーもしないといった態度であったり、インタビュアーを困らせるようなぎくしゃくした関係性が嘘であるかのようにみんな笑顔で話していた。自分の頭の中だけにいると思い込んでいた仲良しのニューヨークの5人組がそこにはいた。

 『イズ・ディス・イット』を超えてほしいと思うがあまり『イズ・ディス・イット』に縛り付けられていたのは彼らでは無く僕だった。ザ・ストロークスはようやく自らが作りたいものを自由に作ることが出来ている。ロックンロールの救世主のような僕らが勝手に彼らに押し付けてしまっているイメージから飛び立ち、5人の純粋な友情による純度の高い音楽が誕生した。それを僕は心から祝福したい。

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