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2017年8月29日

川鍋良章 (36歳)
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12年間ロッキンで桑田佳祐を待っていた

ひたちなかで人生が変わった数奇な男の四方山話

思い返せば12年前の2005年の夏――当時、就職活動に喘ぎ苦しむひとりの大学生の青年がいた。
就職難真っ只中の暗黒時代。不採用通知が続く中、自分らしさを見失い、果たして自分は何をしたいのか? 自分には社会の居場所は無いのか? 多感だった青年は自信を喪失していた。そんな中、彼はふと夏休み中に茨城県ひたちなか市に男三人、今も関係性の続く友人達と来ることになる。今思えば、あの時、彼があの場にいなかったら、今頃どうなっていたか……想像することも出来ない。少なくとも今のように、音楽という大きな支えも無いだろうし、音楽という熱くなれるものも無い退屈な人間だっただろう。

とにかく会社に媚びへつらい、個性や思想や感情を投げ捨てろ……そう自分に言い聞かせていた青年は、そのひたちなか市にある海浜公園のROCK IN JAPANの会場にて、人生で最も大きな衝撃を受けることになる。

自由でピースフルで好きな音楽にまみれた空間。そこにいる人達皆が笑顔で、楽しそうだった。アジカン、サンボマスター、エレカシ……初めて観るバンドが大半だった。青年は、それまでサザンしか聴かない人間だったというのもあって、様々なバンドの聴いた事も無い楽曲とパフォーマンスに圧倒される(帰宅後にCDを買い漁ったのだが)。そして、その日、トリを務めたサザンのパフォーマンスが、また、ワンマン・ライヴ以上の凄まじい物だったので余計に感動が増す。(時としてフェスという特殊な空間は、そのバンドを良い意味で化学反応を起こさせ、バンドが持つ本来以上のパフォーマンスに昇華させる時があるが、正しくそれだった)。青年は、自分の中に新鮮な風が流れるのを感じた。同時に、閉塞的で後ろ向きだった彼は新たな価値観を、その場で見出した。

自分らしく生きることも大事なんじゃないかって。

面接官に好かれることばかりを気にしていた得体のしれないプレッシャーが無くなるのを感じた。なんとも爽快で、救いに思えた。自分は自分で良い。背伸びしてまで他人に合わせて何になる? そう気付かせてくれたフェスの空間、何の特筆した趣味も無い青年は「自分の居場所はここだ」とさえ思った。それから12年、どんなに辛いことがあっても、病に倒れても、青年は少しずつ大人になりながら、それ以降、一度も欠かすことなく、その会場に来続けている。

そんな様々な音楽に触れる“きっかけ”を作ってくれ、人生を彩らせてくれた桑田佳祐が、ひたちなかに、ROCK IN JAPANの会場に戻ってくることが発表された! 青年は12年間待っていた。もちろん、その間にも多種多様なバンドに興味を持ち、それぞれの楽しみ方を知ったが、ROCK IN JAPANの桑田佳祐を待っていた。桑田が務めるレギュラーのラジオ番組で「夏フェスなんか絶対に出ない」と発言してたので、どうも違和感を覚えていたが。まさか、それがロッキンで、本当に実現するとは。

本当に感慨無量だ。今や下手に音楽好きを公言している人間よりも音楽に詳しくなり、年間でも数多くのライヴに参加している。そのために働き、人生の目的が出来て、充実した日々を送っている。そんな自分が今ここにいる。12年前に影響を受けたフェスの会場、行くきっかけをくれた桑田佳祐にお礼を言いに行かねば。どんなパフォーマンスを繰り広げてくれるのか? 12年の想いを胸に、ひたちなかの地へ降り立った。

朝からWANIMAや10-FEETなどメロコア・バンドがひしめき合う、まさに灼熱のフェス日和。sumikaや、a flood of circleなど、個人的に観たいバンドが多く、汗だくで会場を駆けずり回っていた。個人的には13年目のひたちなか。地元の同年代には、ロッキンは若いフェスのイメージがあるらしく「いつまでそんなことをやってるのか」と呆れられるが、全面的に否定したい。「フェスには卒業は無い」のだと。よく夏になると神輿好きの、ご年配の方が活き活きとしだすのと同じようなもの。生涯を通じて、これだけは外せないってもんがある。確かに若者とは言えないが、されど30代、まだまだロッキンの卒業の文字は頭の中には無い。全ては、12年前、この地で人生が変わってから始まっているのだ……。

そして、薄らと空に雲が掛かってきた頃、干支一周分の期間、この地でステージを踏むのを待ち望んでいた“あの人”が来ようとしていた。

桑田佳祐という名前がスクリーンに映し出される。感無量過ぎて、言葉に形容できない。12年間という長い期間、待ち望んできたことが、実現した時の、感動を通り越した、あの妙な平常心というのを言葉に出来なかった。
サザン30周年で日産スタジアムを4Days満員にしたり、闘病時にはNHKが報道し、新聞に取り上げられたり、その間にも多くの楽曲で日本の大衆音楽を支え続けてきた桑田佳祐。この国の希代のアーティストが登場する。毎年、桑田のライブは観ているが、この地で観るのは格別なのだ。

果たして、何を歌うのか気になっていた。サザンもやるだろうか? 確か、02年の出場時にはWOWOW特番で萩原健太氏に「サザンとソロを分けてほしいってファンもいるんだけど、こういうのは、お祭りだから。何でもありだと思うんですよね。」と答えており、サザンの「希望の轍」から始まり、「マンピーのG★SPOT」では卑猥な造形の被り物にデカデカと「渋谷陽一」と書かれた、お馴染みのハゲヅラをかぶって客を煽り立てた。しかし、今回は冒頭で「悲しい気持ち~Just a man in love~」のイントロが鳴った時に全てを察した。「あ、桑田はソロで勝負に来た」と。
ファンの間ではソロのライヴではお馴染みの楽曲でも、同曲は30年前の曲である。20代の多い会場のオーディエンスには馴染みは浅いだろう。しかし、ヒット曲の呪縛に依存せずに、今の自分を魅せるという意味では、やはり桑田佳祐は凄い。

というように、12年ぶりのロッキンのステージは意外にも“王道”を避けた選曲だった。まるでフェスというのを全く意識しない新曲やマイナー曲に驚く。ある種の攻めのパフォーマンスである。
桑田ほど国民的ヒット曲を擁する歌手はいないが、02年の傑作アルバム『ROCK AND ROLL HERO』収録曲「東京ジプシーローズ」までやる攻めの姿勢。
ファンである自分すら初聴きの「愛のささくれ~Nobody loves me」までも披露(レギュラーのラジオ番組では既にOAしていたらしい)。新アルバムのPRということもあろうが、その選曲は、大衆が求める桑田像とは違ったかもしれない。逆に捉えると、そんなアウェイ感を出しつつも、会場の空気を持っていく実力と迫力に圧倒される。
コアなファンとして言うと、還暦過ぎた桑田の鬼気迫るシャウトの連続にも鳥肌が立つ。衰え知らずのボーカル力には感動した。特に「大河の一滴」で発揮されていた。また、最新曲「オアシスと果樹園」のライヴ演奏の迫力に痺れた、かっこいい。蹴りも入れるなど肉体的な現役感が感じられたし、「爺がトリでスマン」などと自虐ネタも取り入れるMCもキレキレで大衆を摑む力は相変わらず健在だ。

贅沢を言えば、05年のサザンでロッキン出演時、個人的にはロッキン史上最高のパフォーマンスのひとつと断言できる、あの尋常ではない盛り上がりを期待していた部分も少なからずあるので、また違った王道的な選曲のステージも観たいという欲は残った。
後に桑田はFM大阪の番組内で、今回のロッキン出演を通じて「ボヤボヤしてられないと感じた」という旨の発言をした。加えて、「浦島太郎な感じがした。僕なりに計算して出たつもりが、ちょっと計算狂ってたなと。世間と僕が想像してるのとは違うのかなって。今思えば、選曲にせよ『なんで、こんな暗い曲やったのかな』とか。今は『ロックだぜ! 強いぜ!』って、ステレオタイプなロック・スターやお客もいなくて、フェス自体が一般化してるのかなと。アイドルも出るしね……僕自身は奇妙なズレが面白かったですけどね」(ラジオなので一字一句同じではないが、発言のニュアンスは合致している)と、自分なりの反省を見出す。この言葉を聞いた時には感銘しかなかった。生意気にも、先述で、非王道な選曲などと例えたが、13年連続で同じフェスに参加していると、桑田が発言した「フェスの一般化」という感覚は肌で感じていた、それをあの一時間足らずで察して、では、今の自分はどうあるべきなのかまで考える。この人が日本で40年に渡って第一線にいる理由が分かる気がした。ひたすら、尊敬の念しかない。
ただ、確実に言えることは、この日の「波乗りジョニー」時の一斉に盛り上がった光景を観れば一目瞭然で、大衆を掴む有名曲で、夏うたを披露する桑田佳祐は最強なのである。

桑田はこの日のMCで、ゆずの20周年を祝福し、エレカシ宮本を健闘し、[Alexandros]を褒め称える。「([Alexandros]は)なんで、あんなに上手いんだ。この後出にくいって。楽屋で落ち込んだよ」と。また、真裏の他ステージでパフォーマンスをするTHE BAWDIESと熱い握手を交わしたという。桑田、どこまでも音楽人が好きなんだと思った。
また、渋谷陽一氏と旧知の仲であることは有名であるが、「会うたびに出ろよ、言いやがって」「出ると決めたら、『短めにしろ』だって。頭に来たから今日は四時間やります」とか、渋谷氏の努力が垣間見れて感動した。「あ~、自分が待っていた12年の間も渋谷さんは、桑田佳祐出場のために動いてくれていたんだ」と。長年、日本のトップの歌い手と、評論家として君臨し続ける、両氏の双方の信頼関係を感じる。桑田の渋谷氏への敬意は相応なことは分かっている。渋谷氏著書の帯に桑田がコメントを寄せたり、05年のサザン出演時にツェッペリン「天国への階段」を演ったり。

だからこそ、また来年、今度はサザンの40周年をロッキンでも祝いたい! もちろん、来年でなくてもいいが、近年中に、ひたちなかで待ってますよ、桑田さん!

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