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戻らなければならない場所

RED in BLUEの新曲“アンコール”が照らす、ライブハウスの未来

収束の兆しが未だ見えない、新型コロナウイルス。その想像を絶する蔓延は、退屈で普遍的だったはずの日常を一変させた。徹底したマスクの着用、外出自粛、テレワーク、一定の距離を保ったテレビ番組……そうしたコロナウイルス発生前後の変化は枚挙に暇がないほどで、かつては考えられなかった異常な生活が私たちの新たなスタンダードと化している感すらある。
 

そうした中困窮の一途を辿っているのが、音楽ファンにとっての最大の遊び場ことライブハウスだ。報道等で密閉・密接・密集という所謂『三密』の危険性がしきりに叫ばれるようになってからというもの、今や人口の絶対数が多い都市部のみならず全国的に、ライブハウスは大多数のライブの延期及び中止を決断。一寸先も見えない現状に焦心苦慮しながら、日々を何とか耐え忍んでいる状況だ。
 

そしてコロナウイルスの影響は、1年の大半をライブにベットし、ライブと共に成長してきた広島発のロックバンド・RED in BLUEにも同様に、暗い影を落とした。自主企画ライブのみならず予定されていたライブは軒並み白紙となり、ライブ至上主義を掲げていた彼らの生活は一変。バンドの公式ホームページには「新型コロナウイルスの感染拡大を受け」との理由を主とした悲しき報告が躍った。
 

だが彼らはコロナ禍の渦中にあっても、希望の光を絶やすことはなかった。SNSにて大々的に広まった、アーティスト同士が指名し合い歌を届ける『うたつなぎ』やオリジナリティー溢れるカバー動画を定期的にアップすることに留まらず、様々なライブハウスで行われている損失補填を目的としたクラウドファンディング等の支援も積極的に拡散へと動き、こうした情勢の中においても決してネガティブな思考ではなく一縷の光を見出だすための打開策を前向きに発信し、ライブハウスの未来に繋がる手段を模索した。
 

そんな彼らが今こそ放つ救済の一手こそ、ライブハウスを大々的にフィーチャーした新曲“アンコール”である。
 

“アンコール”は彼らが最後にライブを行った去る3月下旬から僅か1ヶ月半という急ピッチで完成にこぎつけた、彼らの楽曲の中では比較的明るめなエイトビート。それでいて壮大なシンガロングあり、ダンサブルなギターリフありの極めてパンキッシュなナンバーとして仕上がっている。
 

けれども“レーザービッチ★花沢”や“グッバイエビワン”等、彼らの定番曲において顕著に見られた高橋祐揮(Vo)のオートチューンを介するボーカルは今作では一切加工なし。これ以上ない裸の歌声でストレートに歌詞を届け、かねてより武器としてきたスペースサウンドも幾分控え目に。加えて音源は全て宅録で、ミックス及びリマスタリングはプロを介さず、作詞作曲を担った田口悟(G.cho)が務め上げたという昨今の音楽シーンでは他に例を見ない程のDIYぶり。そのため彼らがCD音源としてリリースした他の楽曲群と比較すると、ある種自主制作感溢れる音像となっているのは否めないところではある。けれどもこの楽曲がスピード感のみを重視した駄作かと問われれば決して違う。何故なら彼らが今までに発表したどの楽曲よりも、凄まじいまでの説得力を伴って鳴り響いているのだから。
 

《タバコと酒と薄闇/ノルマと汗と耳鳴り/日が昇るまで語らい/まだ見ぬ君をフロアに描いている》
 

楽曲のタイトルに冠されている通り、“アンコール”がテーマの中心に据えているのは徹底して『ライブハウス』だ。しかしながら彼らが最も強く抱いているであろうライブハウスへの感謝はもとより「全員でこの困難を乗り越えよう」との連帯意識も、ライブハウスの素晴らしい面を列挙するようなポジティブな事象さえ、この楽曲ではほぼ歌われていない。“アンコール”で綴られる内容はひとつだけ。それは「ライブハウスはこういう場所である」との雄弁な事実証明だ。
 

思えば彼らは結成当初から、ライブを第一義として活動を行ってきた。広島に拠点を置きながら時には他県、時には決して安くない交通費をはたいて都市部へも赴き、ライブを直接観てもらい少しずつファンを増やしていく……。それこそが彼らの活動の源とも言える重要事項であり、また類い稀なる魅力のひとつでもあった。
 

広島でのライブに数多く参戦している人ならば、PARCOの10階に居を構えるライブハウス・広島クラブクアトロで何かしらのライブが開催されるたび、終演後PARCOの出入り口で「広島のバンド、RED in BLUEです!よろしくお願いします!」と寒空の中、自分たちの存在をほとんど知らないはずの音楽ファンの前に立ち、フライヤーを配り続ける彼らの姿を一度は目にしたことがあるはずだ。けれどもクラブクアトロも、Cave-beも、4.14も、セカンド・クラッチも、尾道B×Bも……。今や彼らが日常を過ごしてきた大半の広島のライブハウスは、表立ったライブイベントを停止しており、ライブを信条としてきたRED in BLUEにとっては、半身を失うも同然であろう。
 

“アンコール”は言わずもがな、壮大なシンガロングを巻き起こす新たなライブアンセムとして、彼らのセットリストの中心を担う重要な楽曲となることと思う。しかしながらコロナ禍でライブの先行きが見えない現状、どう足掻いても密を成してしまう可能性が高いライブハウスが完全に復旧することは現時点では難しいというのも正直なところで、第二波第三波いかんでは今後更に絶望的な状況となる可能性すらある。“アンコール”配信の後日にYouTube上で配信された生放送トークライブ『RED in BLUE MEETING!!』にて、高橋は「(“アンコール”は)元々は何らかの形としてお世話になっているライブハウスに寄付が出来ればとの思いで制作した曲だった」と語っていたが、その言葉を体現するかの如く、“アンコール”のMVでは事前に募集されたライブハウスを愛するファン、関係者による総数700枚以上もの『ライブでの思い出の写真』が用いられている他、概要欄には「様々なライブハウス支援企画の情報ポータル的役割を果たしたい」との強い思いから、個人・企業問わず各種チャリティー情報を掲載する独自の試みも図られ、総じて“アンコール”の拡散と閲覧は今も直接的に、ライブハウスへの支援として還元される形を取っている。
 

……実際、バンドマンが今ライブハウスに対して出来ることとは何だろうか。そもそも揺るがない事実として、多くの一般大衆を突き動かすのは圧倒的に、全国的に人気を博しドームやアリーナ等の大規模なライブをソールドアウトさせるレベルのミュージシャンによる声だろう。しかしながら現状困窮状態と化している小箱のライブハウス、及び地元のバンドを積極的に応援する地域密着型のライブハウスと身近に接し、その悲痛な声を何よりもリアルに届ける役割を担う最たる存在というのはやはり、彼らのようなインディーズバンドであると思うのだ。
 
 
正直、此度の“アンコール”の発表は、直接的にライブハウスへの見方が好転するほど多大な影響を及ぼすとは思わないし、彼らもそれは重々承知しているはずである。しかしながらライブハウスが世間から後ろ指を指されている今、“アンコール”は簡素な意見では到底図れない、ライブハウスという場所そのものを純度100%のリアルで伝える力を携えた楽曲であることは間違いない。今後は新たな生活様式が模索、構築され、今までに考えられなかった非日常が日常化することだろう。けれどもバンドマンをバンドマンたらしめる『ライブハウス』という土壌が奪われることだけは、絶対にあってはならない。まだまだ予断を許さない状況は続くだろうが、“アンコール”が照らすライブハウスの未来はきっと無慈悲ではないと、そう期待せずにはいられないのだ。《セットリストの最後の曲が/まだ頭で鳴っている》と絶唱する“アンコール”が本当の意味で『アンコール』で鳴らされるそのときを、今は心待ちにしたい。

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