3898 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

「どこにも行けないこと」を歌い続けること

「オーロラになれなかった人のために」はスピッツのキャッチコピーである

人生にはなれなかったものの方が多い。選ばなかった、選べなかったものばかりあって、なりたい人間になれなかったということを考える時間ばかり重ねている。
「ああしていればよかった」「あれが間違っていた」と何回も思う。不幸ではないけど、納得はしてない。ずっと焦っていて今にも全部終わりにしたいような気持ちになる。「生きててよかった」とまで思えなくとも、「まあこんなもんだろう」と思えたらそれで良いのに、それさえむずかしい。
つまり、私は「オーロラになれなかった」のだ。

スピッツがまだ売れる前にリリースしたEPのタイトル、「オーロラになれなかった人のために」は、その後日本を代表するロック・バンドになった今でもスピッツのキャッチコピーだと思う。
「オーロラになりたい人のために」でも、「オーロラになった人のために」でもない。体の中に後悔や恥ずかしさや虚しさがパンパンに詰まっていても今ここにいる人のための歌をスピッツは歌っている。

宇宙をはじめとする非現実的なモチーフが急に出てきたり、うまくはぐらかすような歌詞が多いことから、スピッツは浮遊感のある曲を作るバンドというイメージを持つ人も多そうだが、ずっと「どこにも行けないこと」を描いていると私は思っている。

ここにいるしかない人間じゃないと<星占いで全てかたづけたい>(うめぼし)とは思わない。<トンビ飛べなかった ペンは捨てなかった>(トンビ飛べなかった)<ボロボロになる前に死にたい>(僕はジェット)なんて、言えやしないのだ。(ちなみに、ブルーハーツに衝撃を受けて草野マサムネはバンド活動を休止していたという有名な話もあるが、そんな彼が<ボロボロになる前に死にたい>と歌った意味はどれほど大きいだろう。)

<宇宙のスイカが割れるまで待ってた>(トンビ飛べなかった)と、運命のせいにできないと私たちはいつも逆転できない。逆転勝ちはいつも妄想の中ばかりだ。

「どこにも行けないこと」は、誤解を恐れずに言うととても情けないことだと思う。『僕はきっと旅に出る』は特に「どこにも行けないこと」を描いている。これまで、旅に出たいけどまだ出られないしずっと先延ばしにしたって良いということを歌ったロックバンドがいただろうか。情けないことがこんなにもかっこいいことがあっただろうか。この曲は「オーロラになれなかった人のために」歌われている。

神様じゃなくても、たまたまじゃなくても、私たちははばたくことを許されるのだろうか。
「どこにも行けないこと」の本質は、言い切らないことでもある。だから許されるのだと言い切らないし、<たぶんそれは叶うよ 願い続けてれば>となんだか頼りない優しさがオーロラになれなかった私たちの光になるのだ。

※文中<>はスピッツ『うめぼし』『トンビ飛べなかった』『僕はジェット』『僕はきっと旅に出る』の歌詞より引用

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい