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2017年9月4日

qeaq (23歳)
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All You Need Is Love

夏の自由研究・愛の授受および大森靖子が結ぶオリオン座の観測について

大森靖子がカバーした、欅坂46『サイレントマジョリティー』。ミスiD界隈の若い女性たちが渋谷川に集まるミュージックビデオの中、大森は喉のすこし苦しそうな歌い方で、原曲の勇ましさとは違った情感を掬い上げる。アイドルカルチャーにおける、メインストリームに急速に駆け上がった欅と、アンダーグラウンドの総受け皿のように存在感を増すミスiD、双方の側から「君は君らしく生きて行く自由があるんだ」という歌詞が歌われる意義は小さくない。

そして、そのような意義を予め感じなければ、私は大森のミュージックビデオを再生していなかっただろう。彼女の表現活動に対して、どうやら好きになれない、と思ってきたからだ。

メディアへの露出が増え始めた時点で、大森は小中学生時代に抱えていたもの、端的に言えば「闇」をはじめからカミングアウトし活動していた。なぜ大勢に聞かせてしまうのか、当時私の理解が及ばなかった。自信のある曲にはアダルトビデオにちなんだ題を付けると発言していた。ちょっとセンスの悪い人だと思った。メジャーレーベルから出すアルバムタイトルに、わざわざ禁止用語を選ぶ。禁止用語という概念の馬鹿馬鹿しさにこそ同意するが、それは勝負所を間違っているのでは――好きでもないのに、案外彼女の活動を追えているのは、こちらにかかわらず順調に存在感を増してらっしゃるからなのだが・・・

しかしながら、8月30日に公開された『サイレントマジョリティー』と、翌31日に大森が出演した番組を見てから、ある考えに思い至った。活動初期には「激情派」とまで呼ばれたように、ある種極端なゆえのパワーを持った大森の表現を、彼女自身が届けようとしている人達がいて、そしてそれを必要としている人達が間違いなく存在している。それは私ではない、ただそれだけのことだった。自虐ではない。行政がホームレスのためのベンチを作らないように、大森が切実に届けようとする対象の範疇に僕がいないだけだ。

ようやくそのことに気付くと、好きだ嫌いだの二元論で彼女を評価する真似はもうできない。センスに馴染めなくとも、表現者として清々しい態度の方だと思った。

大森靖子に対する、このアンビバレントな気持ちを文章にしようと閃いた瞬間、イヤホンから何度目かのThe Beatles『All You Need Is Love』が流れていた。同曲の歌詞「There’s nothing you can do that can’t be done, nothing you can sing that can’t be sung」の解釈が人によって異なるが、とある英語圏の掲示板で最も支持されていたコメントが私は好きだ。曰く、貴方はなんだってできる、けれど誰もがそうなのだ。だから貴方の才能は特別な存在の証明ではない。貴方に必要なものはただ愛である、なぜなら愛によって貴方たち一人一人が特別な存在になるから――。仮にこの解釈を選ぶとすると、『All You Need Is Love』と同一の世界線に、大森がゆるめるモ!へ提供した曲『うんめー』が浮上する事にハッと気付いた。

大森自らメンバー全員へのインタビューを行い作詞した『うんめー』 。「ずっと何者かになりたかったけど/僕は誰より僕になりたい」そして「僕は誰より愛が上手いんだ」という詞はまさに、愛を必要とし、愛によって自分の存在を獲得しようとする叫びと同時に、同じ分だけ愛を自分から他者へ与えたいという告白だ。お互いを愛し愛される輪廻によって一人一人が特別な存在になる、と歌った歌が『All You Need Is Love』なら、もう既に貴方は人から愛され、人を愛する力を持っているんだ、と歌う歌が『うんめー』である。更にそのメッセージは、まず大森からゆるめるモ!のメンバーに向けて、彼女たちの言葉を織り込んだ楽曲という形で手渡され、今度はゆるめるモ!から彼女たちのファンに向けて増幅し広がってゆく。輪廻は始まっており、これからも続いていくだろう。

話が広がってしまった。

アイドルに救われた、と語る人は少なくない。では、アイドルが百花繚乱の様相を呈する現在、アイドルを救う人は誰かいるのか。(大森の『サイレントマジョリティー』を、欅本人たちがどう受け取ったか少し気になる。)

アイドルになりたいと願う人を救う人は誰かいるのか。『うんめー』や、他にもThe Idol Formerly Known As LADYBABY『LADY BABY BLUE』といった大森の提供曲は、彼女たちアイドルグループの拠り所となるような歌詞に仕上がっているのは偶然と思えない。

ただ自分の存在を見つけたくて、悩んでいる人を誰なら救えるのか。8月31日、若者の自殺が多発する夏休み最後の日のためのテレビ番組で、大森は自身の曲『オリオン座』を弾き語った。一つ一つはすべて孤独な星たちを、誰かが結んではじめて、星座がうまれる。自らの闇を暴いてでも差し伸べようとする彼女の手、声、言葉が、一つでも多くの星に届いただろうか。いまの私なら、その観測者くらい務められるかもしれない。

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